修行
私が鈴ちゃんの兄貴へ転生して、一日が経った。
快晴の空の下。
私は、鈴ちゃんの前に仁王立ちしていた。
「さぁて、鈴ちゃん!今から、お勉強と修行を始めるわよ!」
「うん、卵ちゃん!!」
「私の事は、これから先生と呼びなさい!」
「はい、せんせー!!」
妙なテンションとノリで、私が先生のお勉強会が始まったのだった。
私の転生時間は、24時間。
兄貴が死んだのが昨日の午後3時頃で、今の時刻は午前10時ちょい前。
つまり、後5時間ほどでタイムリミットが来るはずである。
よし、5時間でやれるだけのことをやらないと……。
「まずは、生きるための知恵と力よねぇ……」
幸いにも、ここ【ガラッパ】が出来る予定の土地は、【ガラッパ】が出来るまで、人の手が入らない土地だ。
ここは、誰にも邪魔されずに作業するのには最適な場所。
周りはジャングルで、猛獣や変な虫も多いけど、それってつまり食べるものには困らないってことだ。
「よし、まずは、一人で生き抜いていく力を付けようか!……鈴ちゃんは、このジャングルで1年間自分の力だけで生活する修行をやろう!……出来るかな?」
「うん!大丈夫だよ、せんせー!出来るよー!!」
うむ、元気な返事が気持ちいい。
「じゃー、ここら辺の土地について説明するよ。ここら辺は、猛獣や疫病なんかを運ぶ虫がいる非常に危険な土地です。幸いにも、川は多いから水で困ることは無いと思うけど、生水はそのまま飲むとお腹壊すから注意してね!」
「疫病?……なにそれ?」
「まー、大雑把に言って病気のことだよ。目には小さすぎて見えない病気の原因を、虫が運んでくるの。それで、その虫に噛まれたりすると、病気の原因が体の中に入って、病気になっちゃったりするわけよ」
「ふーん……。なんとなく分かったー!」
その台詞と共に、鈴ちゃんが特殊能力【無病息災】を開発した。
特殊能力【無病息災】:病気にならなくなる。ウイルスや寄生虫等は、全て無害の内に排出されるようになる。
……はい、もう生水飲んでも大丈夫。
虫に刺されても、何にももらわないわよ、畜生め!
「えっと、鈴ちゃん。鈴ちゃんには、不思議な能力がある事は教えたと思うけど、どういう能力なのか理解はしているのよね?」
「うん、なんでも出来る能力だよね!」
「……はい」
ああ、この子、優秀すぎて教えること無さそうな気がする。
「あー、じゃあ、とりあえず、ここで一年暮らして、生き抜く力を付ける事!私も、来れるときは、なるべく来るから、お互い頑張りましょう」
「はーい!」
鈴ちゃんの無垢な返事に癒される。
本当に、この子がお兄ちゃん大好きな性格の良い子に育っていてよかったわ……。
親に放置気味に扱われていたし、もしも性格がひねくれていたら、恐ろしい事になっていたのかもしれない。
だって、本当に『なんでも出来る能力』と言い切ってしまっても過言ではないほどの力だ。
鈴ちゃんをここまで立派に育てた兄貴に、本当に感謝だねぇ~。
「さてと、後は、この時代についてだけど……。鈴ちゃんは、自分の住んでいたところがどんな所かは知ってる?」
「うん、私が住んでいた帝国【サナルアダモ】と他4つの帝国の、全部で5つの帝国で構成されている連合帝国【アダモグランディス】。超軍事帝国で、戦争と蹂躙を繰り返して、周りの国をどんどん侵略していっているんだよね?」
「そう。あそこは、まさに【神の都】……。私も噂でしか聞いたことは無いんだけど、なんかとんでもない力を持った人が【軍師】をやっているんだって。それぞれの国の頂点に立っている総統閣下は、所詮お飾り。全ての国を纏めている【大総統】、それと5つの国の【軍師】が実質の実力者らしいわ」
「まぁ、潰すけどね……」
鈴ちゃんが無邪気な顔で笑う。
私は、その笑顔を頼もしくもあり、怖くも思った。
鈴ちゃんには、圧倒的に経験が足りない。
実践や修羅場を何度も体験しないと、はっきり言って戦場では弱者でしかない。
少しの判断ミスが、即、死につながる。
それが、戦争だ。
だからこそ、何度も経験して嗅ぎ取る能力を身に付けるしかないのだ。
生存率の高いほうの選択肢を嗅ぎ取る直感を……。
「鈴ちゃんは、相手をなめる悪い癖があるわね……。そう簡単にいくとは思わないほうが良いわ。私たちは、個人で、相手は国よ。……まぁ、このジャングルで過ごせば、嫌でも分かるはずよ。人という存在が、どんなにちっぽけな存在か……」
「ん?どういうこと?」
鈴ちゃんが不思議そうに首をかしげる。
このジャングルには、大型の肉食獣も、水辺には大型の肉食爬虫類もいる。
もし、一対一の向かい合っての勝負ならば、鈴ちゃんが100%勝つだろう。
だけど、一対一で正面から戦う獣がどこに存在するというのだろうか?
獣は、群れで狩りをしたり、不意打ちで襲う事で、狩りの成功率を上げる。
水辺の爬虫類も、水の中へ引きずり込んだり、水を飲んで油断しているところを襲い掛かる。
不意打ちで死ぬ可能性が、このジャングルには満ち溢れている……。
修羅場や実践を体験するのには、本当に最適の場所だと思う。
ここで、感じてほしい。
個人の力のちっぽけさと、油断をしない化け物の強さを……。
「まぁ、その内に分かるわよ」
そう言って、私は鈴ちゃんに笑いかけた。
とりあえずは、生き残る力を付けることが重要。
私の修行は、まだ始まったばかりなのだから……。
ようやく、鈴と卵のお話へ戻ってこれました。




