お仕置き
妹と姉さんが【木草界】に提供した魂の内、妹の悪人、姉さんの悪人、一般人、超人、女神チョイスの合計5個の魂に、私は【啓示】を掛けた。
【啓示】:魂に直接働きかける暗示、お告げ。無条件で執行者を信じるようになり、妄信的に啓示された内容を実行に移すことしか考えられなくなる。その為に、自らの家族や命を失う事になろうとも、一切の躊躇は無い。【木草界】に存在する唯一の隠し属性【神】のみが使用できる特殊能力。
最初は、本当に暇つぶしだったのだ。
私の部屋は、姉達の世界の娯楽品で溢れている。
様々な世界を覗かせてもらっては、その世界の娯楽品をお土産に持ち帰って、部屋で楽しみながら【木草界】を管理している。
その娯楽品の一つである【ゲーム】で、国を侵略していく戦略シミュレーションゲームが、私の大のお気に入りだった。
何十、何百と繰り返しプレイして、全てのアイテムを集め、数値もカンストした時に、ふと思ったのだ。
これ、【木草界】でもやれるんじゃない?って……。
それで、暇つぶしに【啓示】を使って、リアル侵略ゲームをやり始めたのだったけど……。
「まさか、ここまで成功するとは思わなかったわぁ~♪」
私が操作した転生者は、思うがままに暴力を振るい、【木草界】に帝国を造り上げた。
神からの【啓示】を受けて、造られた帝国だ。
当然の様に、私の名前が帝国の名前に組み込まれていた。
帝国【アダモグランディス】。
……私が、たかだかゲームに影響されて造った国に、こんな名前付けないでもらいたい。
そして、【木草界】全土の制覇をしようと考えた時に、私だけ母に呼ばれた。
ゴツンッ!?
「いっ!!」
突然、私の頭に振り下ろされたゲンコツの痛みに、じわっと目に涙が溜まる。
「どうしようもない、悪ガキだねぇ!あんたは!!」
母の怒声に私の体が思わず、縮こまってしまう。
「なっ、なな、なんです?お母様?」
「とぼけるんじゃないよ!言わなきゃ、バレないとでも思ったのかい?魂を改良して、私の課題を誤魔化そうとしたそうじゃないか!!」
「えっ、何故、それを……」
「【シャルネロッテ】から聞いたに決まってるだろう!どうも、あんたが選別した魂がおかしかったからって、気をきかせて調べてくれたんだよ!まったく、さすがは姉だね!妹の不始末にすぐ気が付く……」
「……は?」
おいおい、私は黙ってたんだぞ。
あんたが叱られたら哀れだと思ったから、黙ってたんだぞ?
「最近は、転生者を操作して、【木草界】で、戦争を頻繁に起こしているそうだし……、あんたは本当に私を困らせるのが好きなようだね……。まったく、同じ双子でここまでの馬鹿と、あんなに真面目で良い子になるなんて、驚きだわ……」
「あ……ええ?」
だって、【木草界】だけ戦争が無かったら、【剣聖界】と【龍神界】が目立って、姉さんもサラスも叱られると思ったから……。
木草樹も困ってたし、私も戦争を起こせば、3人同じで叱られないと思ったから……。
なのに、何故、私だけが叱られて、姉と妹は褒められているんだ……?
「今じゃ、【剣聖界】と【龍神界】の方が、【木草界】よりも遙かに格上の世界に仕上がりつつあるわ!!まったく……、あんたはしばらく【木草界】に手を出すんじゃない!!私の許しが出るまで、部屋で大人しくしてな!!」
そう言って、私は母の部屋から閉め出された。
あまりのショックで、閉ざした心が開いてしまっていた。
しかし、母も怒って興奮していたようで、心を読んではいなかったようだ。
「ははは……」
私は、痛む頭を抑えると、大きなコブが出来ていた。
母から叱られたのは、生まれて初めてだった。
そんな、私が部屋に戻ろうと廊下を歩いていたら、部屋の前にサラスが立っていた。
「姉様……」
「なに?サラス、笑いに来たの?」
思わず、そんな憎まれ口が出てしまった。
分かっている。
告げ口したあの姉と違って、サラスは何も私に害する事はしていない。
でも、自分より格下と思っていた妹に憐みの視線を向けられているのは、屈辱の極みだった。
「お母様から……、何か言われたの……?」
「……部屋で謹慎だって。しばらくは、【木草界】にも手出しできないわ。ハハ、これでしばらくは、【木草界】で戦争ばかり起こるでしょうね……。だって、止める者がいないもの……」
「そんな……。ねぇ……、私が……、お母様にお願いしてみようか……?だって……、このままじゃ……、木草界の生き物が可哀そうだし……」
「ぁぁあ?」
……こいつは、何を言っているんだ?
サラスがあのババアにお願いをする。
私の為に頭を下げてくるって??
私を馬鹿にしているのか?
「いい、余計な事をするな!」
「でも……、私が一番姉様の力になれると思うから……」
この言葉に、私の我慢は限界を超えた。
自分よりも弱く愚かな生物に、情けをかけられている。
それは、私が最も腹が立つ行為だった!
誰のために、私が小細工をして、叱られてきたと思ってるんだ!!
あんたと、姉さんが、不甲斐ない世界づくりをしてきたからじゃないか!!!
私は、思いっきりサラスを突き飛ばして、部屋の中に入った。
そして、部屋の中でベッドに入り、不貞寝をすることにした。
ゆっくりと成長を続ける瓶の中の魂を見続けているうちに、うとうとしてきて、やがて深い眠りに誘われた。
廊下で立ち上がったサラスは、スカートに付いた埃をはたき落とした。
「姉様……」
サラスは、アーゼルを心の底から心配していた。
いつも自信満々で私たちの事を庇ってくれているアーゼルが心の底から大好きだった。
だからこそ、アーゼルに渡した魂は、特にこだわって選定をさせてもらった。
彼女自身が判断した最後の一つの魂は、木草樹と同等の力を持った【無】属性の魂。
育て方によって、善にも悪にも染まる、無垢な魂。
「願わくば……、私の選んだ魂が……、【木草界】に平和をもたらしますように……」
そう言ってサラスは、手を組んで神を拝むように、アダモゼウスの部屋の前で祈りを捧げたのだった。
そして、その魂は、今、巡り巡って、少女の中に宿っている。
「むにゃむにゃ……、おにいちゃん……」
卵は、自身の膝の上で穏やかな寝息を立てている、その少女の頭を撫でたのだった。




