魂
今日も、私は木草界の魂の循環を行っていた。
長い時を生きて知識を蓄え、生物は死んでいく。
その蓄えられた知識は、魂へと蓄積され、生物の精神のエネルギーとなる。
私は、その蓄えられたエネルギーを吸収して、生まれたての無垢な魂へ戻す作業をしている。
そして、無垢な魂をこれから誕生する生命へ宿していくのだが……。
最近、魂の数と誕生する命の数の釣り合いが取れていない。
私は、吸収した精神エネルギーを利用して、魂自体を創り出す能力を持っているが、それでも追いつかないほど、この木草界では、生命が爆発的に増え続けていた。
「ふむ……」
魂が宿らずに生まれてきた生物は、死産か脳死と呼ばれる形になってしまう。
私としては、どうでもいいことだが、もしもそれが優秀な肉体だった場合、長生きして膨大な精神エネルギーを溜め込んでくれる可能性を不意にしてしまう事になる。
それは、なるべく避けたいので、必死で努力して自転車操業のように、必死でやりくりをしていた。
そんな時に、久しぶりに母上様がご降臨なされたのだ。
「久しぶりね、木草樹ちゃん……。ふぅ……」
「お久しぶりでございます、母上様」
ふむ、何やらすごくお疲れのご様子である。
この感じは、恐らく大母上様から何か無理難題でも吹っ掛けられましたかな?
長い間、この方にお仕えしているが、大体こういった疲れた顔をしているときは、母上様のお母様と会話をされた後であった。
「木草樹ちゃんには、悪いんだけど、適当に雑魚い魂を10個ほど用意してくれない?」
「え!?」
母上様の言葉に、思わず声を上げてしまった。
……本来ならば、素直に頷いて10個の魂を用意している所だ。
普段なら有無を言わさず、私に命令している母上様が、私へお願いしている点から、相当に心労がたたっているのが見て取れる。
この時の母上様は、非常におっかない。
だから、何も言わずにただ従うのが、一番ベストの選択だったはずだ。
しかし、先ほども述べた通り、今は魂が足りない状況だ……。
ただでさえ、魂が足りず苦しんでいたところに、そんな事を言われてしまい、ついつい不満が声になって出てしまったのだ。
「あら?……木草樹ちゃん、何かしら?」
「いっ、いえ、すぐに用意させていただきます!!」
私は、慌てて魂の貯蔵庫となっている木の実から、適当な魂を用意しようとするが、それを母上様に止められた。
「……答えなさい。何故、貴方は、今、不満の声を出したのかしら?」
どうしたら、こんなに心の底が冷え切るような声を出せるのだろうか……。
こうなってしまったら、下手な言い訳は逆効果となる。
私は、覚悟を決めて、木草界の今の現状を説明した。
「ふぅ~ん……」
母上様は、私の木の枝に腰かけたまま、退屈そうに私の話を聞いていた。
「申し訳ありません、そういう訳で、現在、非常に魂不足でありまして、つい不満が形になって出てしまったわけでして……」
「なんで減らさないの?」
「は?」
母上様の意外な言葉に、今度は驚きの声を上げてしまった。
「増えたのなら、減らしなさいよ!ゴミみたいな生物が無駄に増えたところで、利点なんて何一つないんだから、適当に数を減らせばいいじゃない!馬鹿のセックスアピールに付き合ってんじゃないわよ!!」
「えぇ!!……いいんですか?」
「当然でしょ。他の世界では、自然災害や戦争で勝手に生物の数を調整できているようだけど、この平和な木草界では、そんなものは存在しない。だったら、木草界の管理者であるあんたが、減らすように努力するしかないじゃない」
母上様のその言葉に、衝撃を受ける。
ずっと、生物は守るものだと思っていた。
戦争も災害も無く、ほのぼのと平和な世界が続けられれば、良いものだと考えていた。
まぁ、私を食そうと近づいてきた蟲共は、遠く離れた地に隔離させてもらったが、それも木草界を想ってこその判断だ。
私が長生きすることは、そのまま木草界の寿命に繋がる。
……そう考えたら、今の生活は、私の寿命を確実に縮めているだろう。
心身ともに疲労しているのは、母上様だけではなく私もである。
それにしても、そうか。
減 ら し て も い い の か 。
「……申し訳ございませんでした、母上様。おかげで目が覚めたような思いです。今後も、引き続き、この木草界をより良いものにしていくように管理を続けさせていただきます」
私は、そう言うと、適当な魂を10個用意した、。
母上様が運びやすいように、小さめの木の実の中へ魂を入れて、母上様へ渡す。
「ふむ……、それにしても、お母様も無駄なことをなさるわね……」
「ん?……大母上様がどうかされましたか?」
「ああ、大したことじゃないんだけどね……。そうか、あんたには、説明しとかないとまずいか」
母上様は、大きく一度ため息を吐いてから、大母上様に出された課題について、私に説明をしてくださいました。
「では、この10個の魂の内、5個を【龍神界】へ、残りの5個を【剣聖界】へ贈るという事ですね?」
「そういう事になるわね。まぁ、簡単に言うと異世界への転生をさせるという事ね。まったく、面倒くさいことを考えるものだわ」
母上様は、またしても大きくため息を吐いて、めんどくさそうに木の実を見つめた。
普段のおちゃらけたしゃべり方ではなく、こういった普通の口調になっているときは、真面目な話をしているときの証だ。
私も真剣に母上様の話に耳を傾ける。
「ということは、【木草界】にも、【龍神界】と【剣聖界】から魂がやってくるという事ですか?」
「ああ、それに関しては、私が色々と処理するから問題は無いわ。あと、くれぐれも生きているときに手を出すんじゃないわよ。この世界である程度成長したら、【不老】の能力を得る様にさせるから、問題は無いと思うけど……。一応、死んだ場合は、この世界の魂と同じように知識だけ奪い取って、転生させちゃっていいわ」
母上様は、それだけ言うと、木草界から出ていかれた。
あの魂を【龍神界】と【木草界】へ贈るのだろう。
……それにしても、母上様は大丈夫なのだろうか?
兆、京、該、それこそ本当に数え切れないほどの魂を循環させてきた私だが、魂については未だに未知な部分が多い。
それも全て、精神エネルギーという不可思議な力を持つ意思の塊だからだ。
想いの力は、目に見えないエネルギーである。
知識や想いを吸収して、無垢な魂にしたはずのものが、何故か前世の記憶を持っていたりする。
この前の様に、つがいとして惹かれ合ったりする。
母上様よりも、魂に触れてきた私でさえ、完全には魂を理解していないのだ。
完全に知識を吸収したつもりでも、零れ落ちることがある。
魂とは、不確定要素に満ち溢れている。
それを理解していないと、いずれ魂で痛い目を見るかもしれないが……。
「まぁ、母上様に限って、間違いなど起こすことは無いだろう」
そんなことよりも、私は私で早急にやらねばいけないことがある。
私は、古くからの友人である蟲達に声を掛けた。
魂を確保するために減らす生物は、この木草界で一番有害で、自然を破壊している生物がいい。
…………よし、決めた!
私は、『 人 』にターゲットを絞り、減らし続けることにした。
以降、平和な木草界の様子は、激変することになる。
全てを超越した生物の登場、天変地異の発生など、徐々に、平等性がなくなり、暴力が最高の権力を握る時代へと変化していくのであった。
今回は、木草樹視点のお話でした。




