時代の終わりと歴史の始まり
普段は、木草界の外で暮らしていながらも、時折木草界に現れて、様々な奇跡や天啓を与え、伝説を残す神【アダモゼウス】。
そのあまりの巨木故に、木草界全土から姿が確認できる御神木であり、この世界の人々から崇められている木草界そのものの象徴【木草樹】。
そして、この木草界を武力と知力で統一し、人々が平和に暮らせる国を造りだし、本当の意味で人類の歴史をスタートさせた魔女【ZERO】。
この3人は、木草界で同じくらい有名なのだが、それぞれの立ち位置がまるっきり違う。
【アダモゼウス】は、いわば偶像の存在。
実際に存在するかも分からないけど、今まで彼女が起こした伝説が、様々な形で残っており、その結果、いるかもしれない神様として、信仰されている。
【木草樹】は、目で確認できる奇跡の存在だ。
遠くから見る事は出来ても、近くに行って触ることが出来ない、視認でしか確認できない存在。
しかし、魂を浄化するという神秘的な仕組みを背負っていることと、巨大な姿故に、人々から崇められており、毎日のように拝まれている。
【ZERO】は、実際にいる人物だ。
歴史上の有名な人物として、必ず学校の社会の時間に習うほどの人物だ。
ちなみに、前にTVで見た『好きな歴史上の人物ランキング』では1位を取っていた。
【アダモゼウス】は、神話に登場するような生物や怪物の域。
【木草樹】は、大自然が生み出した世界一有名な御神木。
(地球で例えるならば、富士山、グランドキャニオンなどの自然が生み出した最高傑作的な扱い)
そして、【ZERO】は、実在した歴史上の人物である。
つまり、これから歴史に名を残すようなことをするべき存在なのだ……。
私は、兄貴が最後に思っていたことを、この子に伝えてしまった。
その結果、鈴ちゃんは決心した。
時代を動かすという、決心を……。
鈴ちゃん自身は、簡単に考えているのかもしれないが、あの帝国が滅ぶという事は、一つの時代が終わるという事なのだ……。
私は、過去に、あの時代に転生したことがあるから知っている。
超軍事帝国【アダモグランディス】。
名前から分かる通り、あの帝国は、【アダモゼウス】がちょっかいという名の天啓をある独裁者に与え、誕生した国だ。
恐らく、女神の暇つぶしだったとはいえ、あそこは【アダモゼウス】が造った国なのだ。
だからこそ、どんな自然破壊行為を行っても、【木草樹】は無視をした。
いや、せざるを得なかったというのが正しい解釈だろう。
だからこそ、暴力が全てを支配するあの帝国は、ずっと繁栄し続けてしまったのだ。
私は、【アダモゼウス】の魂から生まれたから、【アダモゼウス】が望んでいることがなんとなく分かる。
【アダモゼウス】は、きっとあの帝国に反逆する者の誕生を望んでいる。
あの性格の悪い神様は、調子に乗っている者が地に落ちる姿を見るのが堪らなく好きなのだ……。
自分の力で頂点に立った独裁者が、ちっぽけな反逆者に無残に殺され、絶望の表情を浮かべるところなんて、腹を抱えて大笑いしそうなくらい大好物だろう。
ただ、それに超常的な存在の関与は、一切認めないはずだ……。
彼女は、足掻く生物が好きだ。
勘違いしないでほしいのだが、頑張る生物が好きなわけでは無い。
彼女は、血や汗を流し、地べたに頬を擦り付けようとも、立ち上がり抵抗する姿が好きなのだ。
自分の主張を通し、反抗する生物に好感を持つのだ。
だから、それに横やりを入れる者がいたら容赦しないだろう。
【木草樹】の木縁樹草風華、【超越蟲】の超越効果、【界宝十極】の使用、楽に独裁者を始末できそうな展開を手助けした者は、きっと青卵の時の木草樹と同じようなお仕置きを受ける。
【ZERO】は、一つの時代を終わらせる者。
紀元前は、【ZERO】によって終わりを迎える。
【マールド】が出来て、歴史が始まっていく。
卑怯でも、嘘吐きでも、どんな汚名でも受けよう。
私は、鈴ちゃんの力になって、歴史を始める手伝いをしよう。
それで、たとえ【アダモゼウス】のお仕置きを受けることになっても……。
「どうしたの?卵ちゃん……?」
鈴ちゃんの言葉に、私はゆっくりと目を開いた。
どうやら真剣に言葉を選び過ぎて、黙ってしまったようだ……。
「……鈴ちゃん、お兄ちゃんがいなくなって寂しい?」
「そんなの……当り前じゃん……。だって、お兄ちゃんが生き返るまで、私は独りぼっちだもん……」
私の膝の上で、俯いて落ち込む鈴ちゃんの頭を優しく撫でる。
「鈴ちゃんを独りぼっちには、私がさせないよ……。残念だけど、私は一日しか体を借りることが出来ないの。だけど、鈴ちゃんのお兄ちゃんみたいに、私に体を貸してくれる人は、いっぱいいて、きっとこれからも色んな人の体を借りることになると思う……。もしも、鈴ちゃんに会える人の体を借りられたら、私は必ず鈴ちゃんに会いに行く。そして、鈴ちゃんの力になる!絶対!!」
私は、そう言って鈴ちゃんの前に小指を突き出した。
鈴ちゃんは、その小指をきょとんと見つめた。
「え?卵ちゃんは、一日だけしか、その体にいられないの?……ずっと、いてくれないの?」
「神様がね……どうしても許してくれないの……。だけど、鈴ちゃんに会える時には、必ず会いに行くから!!約束しましょう!」
私は、再度、小指を突き出す。
鈴ちゃんは、一瞬悲しそうな顔をしたけど、少し躊躇しながらも小指を絡めてくれた。
「うん、約束だよ!卵ちゃん!!」
その言葉に、私は笑顔で頷いた。
「私は、今から一日の間に、鈴ちゃんに色々なことを教えるわ。鈴ちゃんには、難しいことが多いかもしれないけど、どうか覚えてほしいの……」
「うん?大丈夫だよ。お母さんやお父さんの前では、頭の悪い振りをしていたけど、私は覚えたことを忘れないから」
突き刺していた【魂糸】から読み取れる、【魂情報】が凄まじい勢いで上書きされていく。
鈴ちゃんの特殊能力【全能開発】が凄まじい勢いで、特殊技術と特殊能力を開発しているからだ。
ごくっ
目の回る速度で更新を続ける【魂情報】に唾を飲み込む。
前に殺し合いをしたドス子を、双葉ちゃんは【神才】と呼んだ。
あれが【神才】ならば、鈴ちゃんは一体何と呼べばいいのだろうか?
偶然にも恐ろしい特殊能力を持って生まれてきたものだと思った。
5種類の特殊能力を持って生まれてきたドス子ちゃんとは違い、鈴ちゃんが生まれ持った特殊能力は1つだけだ。
しかし、その1つの特殊能力が『特殊な力や技術を開発することの出来る特殊能力』という、超々ぶっ壊れ性能である。
私と会話を続けているだけでも、目に見えて鈴ちゃんが使用できる特殊能力は増えていく。
「ちなみに、私やお兄ちゃんとのことや、鈴ちゃんの能力については、秘密にしてほしいんだけどいいかな?」
「うん、分かったー!」
その瞬間に、鈴ちゃんは特殊能力【神域記憶保護】を開発した。
【神域記憶保護】:自分の全ての記憶を誰にも読ませないようにする。この能力以上の力の持ち主が記憶を強制的に読もうとした場合、重要部分の記憶を改変し、当たり障りのない偽りの記憶を創り出してから、それを読ませる。
眩暈がして、私が過去に視た【ZERO】の【歩み】が音を立てて崩れるような錯覚に陥った。
「意図せず、一杯食わされたわけね……」
【ZERO】の【歩み】……、それは改変された偽りの記憶だった。
道理で肉体に刻まれた技術である、能力拳法【爆砕壊破】だけしか【歩み】で覚えられなかったはずだ……。
【沢上 鈴】。
彼女は、間違いなく歴史を切り開くほどの実力を持った少女だった。
卵(【ZERO】は、普通の女の子だったはずだけどなぁ~)
ルルル(お師匠様は、とんでも開発魔女でしたわね……)




