選択肢
初めから色々教えるならいざ知らず、こんなチート能力持ちならば、ちょいとコツを教えるだけで、十分一人で生きていけるだろう。
「さて、鈴ちゃん。目を開けてもらっていいかしら?」
「ん?どうしたの、お兄ちゃん。なんか、オカマっぽいよー?」
体は男、心は乙女。
その名は、神様の魂【卵】!
奇しくも、私、卵ねーちゃんだった。
……男性に転生した時に、よくオカマっぽいって言われるけど、結構これ傷つくのよね。
「こほん。鈴ちゃん、聞いて……。実は、私、貴方のお兄ちゃんじゃないの!」
「……?どういうこと?」
私の言葉に、首をかしげる鈴ちゃん。
無垢な鈴ちゃんにこんな残酷なことを告げるのは、気が引けるけど、これは伝えなくてはいけないことだ……。
私は、思いっきり息を吸い込むと、息と一緒に言葉を吐き出す。
「あのね、私は【卵】っていう神様みたいなものなの……。貴方のお兄ちゃんが、鈴ちゃんを助けたいって強く願ったから、お兄ちゃんの体を借りて鈴ちゃんを助けに来たんだよ……」
本当は、偶然のたまたまの転生なのだけど、都合よく解釈してもらおう。
そうでないと、またショックで新たな能力を生み出しそうだし……。
「え?だって、お兄ちゃんじゃん?」
「ううん、お兄ちゃんの体を借りてるの……」
「じゃあ、お兄ちゃんは?」
「……亡くなったわ」
次の瞬間、眩暈を起こしたように、鈴ちゃんがふらつき、尻餅をついた。
目から光が無くなっていき、全てに絶望したかのような表情になる。
「お兄ちゃん……」
ぽつりと、鈴ちゃんが呟いて、目から次々に涙が溢れだす。
私は、鈴ちゃんの頭を撫でようと手を上げて、驚いた。
なんと、私の指から伸びる【魂糸】が、どんどん薄くなっていたのだ!
「あっ……!?」
これは、もしかして……未来が変わりつつある!?
ここで生きる気力を鈴ちゃんに与えないと、私消えちゃうんじゃないのぉおおおお!!!???
私は、大慌てで、鈴ちゃんを慰めようと口を開いた。
「あああ!!!でも、お兄ちゃんのおかげで、私がここに来れて、鈴ちゃんも助かったんだし!私は、鈴ちゃんのお兄ちゃん立派だと思うなー!!!」
「お兄ちゃんのいない世界に、意味なんてない……」
地面に寝っ転がって、そっぽを向く鈴ちゃん……。
なんかもう、その落ち込みようの激しさに可哀想になってくる。
さっきまで笑顔でにこにこしていた子が、真顔のまま、只々涙を流している様子は、本当に痛々しい。
「あああ、そんなんじゃ、お兄ちゃんも悲しむよー!!」
「別にいいよ……。お兄ちゃん、もういないんだもん……」
「そっ、そんなことないよ!!もしかしたら、生き返らせるかもしれないし……」
ピクッ
私の言葉に反応して、鈴ちゃんが上体を起こして、こちらを見る。
「……お兄ちゃん、生き返るの?」
正直、私はマズイと思った。
肉体から魂が離れる前ならばともかく、離れてしまってからの蘇生方法なんて、これだけ転生生活してきて聞いたことが無かったからだ。
だけど、鈴ちゃんに生きる希望を与えることのほうが重要だと判断した。
私は、生まれて初めて嘘を吐く。
「うん、鈴ちゃんの頑張り次第だけどね!」
私の言葉を聞いて、鈴ちゃんの瞳に光が戻っていった。
鈴ちゃんは、びしょ濡れのワンピースを羽織ると、私の膝の上にちょこんと座った。
「教えて、卵ちゃん!お兄ちゃんを生き返らせる方法を!!」
私は、目を閉じてしばらく考えてから、口を開く。
そして、鈴ちゃんには、不思議な力を生み出す能力があること。
その力を駆使して、お兄ちゃんを生き返らせる能力を生み出せば、生き返らせるかもしれないこと。
その他にも鈴ちゃんには、不思議な力があり、老化では、死なないことを伝えた。
「じゃー、ずっと勉強していれば、お兄ちゃんを生き返らせられるかもしれないんだね!しかも、おばあちゃんにならないんだったら、時間に困ることもないし、いいね!!」
鈴ちゃんは、私の膝の上で説明を聞いている最中に、頭を撫でてほしいと要求してきていた。
私は、説明を続けながら、鈴ちゃんの頭を優しく撫で続けていた。
「お兄ちゃんは、最後にこう思っていたみたいだよ。なんで、鈴ちゃんみたいな可愛い子が不幸な目に遭うんだって……。こんな不幸を生み出すだけの国は、消えてしまえばいいって……」
「……そう」
ざわっ……!?
突然、背筋に悪寒が走った。
その時、私は自分の言葉が失言だったことに気が付いた。
【天才】とは言え、この子はまだ12歳の少女だ……。
善悪の区別がまだ曖昧なのに、ものすごい力を手に入れてしまった子供なのだ。
「じゃあ、あの国を滅ぼそう……。私と同じような不幸な目に遭っている女の子を助けよう……。それが、お兄ちゃんの望みなら、私は何でもしよう……」
途端に、私の頭がどんどんクリアになっていく。
あやふやだった【歩み】達が、どんどん鮮明になっていった。
「……ここが、分岐だったんだ」
私は、サウンドノベルというジャンルのTVゲームを思い出していた。
選択肢を選んで、物語を進めていくゲームだ。
選択肢を一つ間違えるだけで、主人公が死んだり、世界が崩壊したりする、とんでもないゲームだけど、リアルもこうなのかもしれない。
ただ、セーブとロードの概念が無いだけで、選択肢一つで世界が変わる。
一回しか選ぶことの出来ない選択肢で、間違えたら世界が詰む。
私は、生唾を飲み込んだ。
ようやく、これでスタート地点だ……。
間違えたら、私だけでなく、多くの人が不幸になる……。
私は、気合を入れると、鈴ちゃんに次に掛ける言葉を慎重に選んだのだった。




