当主の素質
鈴ちゃんの水浴びは、まだまだ時間がかかるようだ。
特に唇辺りを念入りに洗っているみたいだ。
そして、ついでとばかりに、血に染まってしまったワンピースも一緒に洗い始めていた。
私としても、水浴びに時間がかかっているのは、実にありがたかった。
というのも、私はその時間を使って、他の【歩み】や、自身の記憶を整理して【ZERO】の【歩み】を複製しようとしていたからだ。
残念ながら、【歩み】の複製は出来なかったが、【ZERO】が木草界にもたらした功績を思い出すことが出来た。
・独裁者の国を滅ぼし、【マールド】を造る。
・双葉ちゃんとその姉を助けて、弟子にする。
・四檻に制裁をして、弟子にする。
・月詠を助けて、弟子にする。
・孤独になったルルルに手を差し伸べ、弟子にする。
・弟子たちが、国を造る。
・魔法を開発する。
・能力拳法【爆砕壊破】を編み出す。
……うん、【ZERO】が生まれなかったら、そもそも木草界に国が誕生しなくなるね。
きっと【不老】の少女たちは、ことごとく弄ばれた後に、死ぬよね……。
魔法も誕生しなくなるよね……。
それに頼っている私も、為す術が無くなって、消えちゃうかもしれないよね……。
私は、うずくまって頭を抱えてしまった。
なんとかして、鈴ちゃんを将来的に【ZERO】になるように示さないと、私の存在自体もヤバイ!
猶予は、一日!
兄貴への転生が終わるまでだ……。
幸いにも、この世界の理に矛盾が、生じていないようなので、【魔法】自体は、使えるはずだ。
というか、さっき【自己強化再生】を使ったもんね!
次の転生が始まるまでの間に、魔法や手段を教えて、鈴ちゃんが一人で生きていけるようにしないといけない。
それをしないと、色々な意味で世界が詰んでしまう。
「とりあえず、鈴ちゃんの【魂情報】を確認させてもらおう……」
私は、指先に力を込めると、魂の形を変えるように集中する。
集中しなければいけない理由。
それは、意識せずに使えていた【魂糸】が使用できなくなっていたからだ。
これは、恐らくだけど、過去が不安定になってしまったからだと思う……。
もしかしたら、【魔法】が誕生しないかもしれない。
それが、これから起こるはずの未来に影響を与えてしまっているのだ。
いちいち手順を確認しながらじゃないと【魂糸】を使えないのも、未来で私が本を読んで勉強した内容だからだろう。
その本の著者は、【ラリファン・ルルル】。
……つまり、【ZERO】の弟子の魔女だ。
【ZERO】が存在しなかったら、誕生しない存在だ。
当然、作者が誕生しないのだったら、本自体も生まれない。
……あぁ、もう!!!
【ZERO】の影響力、すごすぎるでしょー!!!
私は、【魂糸】を出す感覚を思い出しながら、手順に沿って魂の形を変化させていく。
普段は、一瞬で数百本出せる【魂糸】だけど、5分もかかって1本しか出せなかった。
「ううっ、とてもじゃないけど、【外的魔法】は使用できそうも無いわねぇ……」
【魂糸】を体の外へ出して使用する【外的魔法】、【転移】や【火球】などは、使用不可。
逆に、【魂糸】を必要としない【内的魔法】、【自己強化再生】や【変身】などは、使用可能らしい。
「あれ?……さっきの【転送】は、確か【外的魔法】のはずだったけど……?」
「あー!!お兄ちゃんも、それ出来るのー!!」
「うわぁ!!??」
突然の声に驚きながら顔を上げると、水浴びを終えた鈴ちゃんが、私の手元を覗き込んでいた。
「それ、結構難しいんだよね!私もやるー!!」
言うが早いか、鈴ちゃんは、笑顔で指先から【魂糸】を出し始めた!
その数、十数本ほど……。
しかも、こちらの【魂糸】が視えている?
「へへへ、お兄ちゃんと御揃いだね~!」
無邪気な笑顔で笑う鈴ちゃんに言葉を失ってしまう……。
そういえば、兄貴の【歩み】にあったっけ。
『鈴は、生まれてすぐに話せた』っていう記憶が……。
「ああ、そうか、この子は……」
思わず口から出た独り言に、鈴ちゃんは愛らしく首を傾げた。
「なぁに?お兄ちゃん!」
この子は、【 天 才 】だったんだ……。
これは、早急に【魂情報】を視る必要がある!
「鈴ちゃん、ちょっとだけ目を瞑ってもらっていい?」
「うん、いーよ!」
素直に目を閉じる鈴ちゃんに【魂糸】を突き刺して、【魂情報】を確認する。
名前:沢上 鈴
性別:女性
年齢:12歳
HP:7/8+812
MP:3/3+251
力:7+511
防:7+328
速:8+639
<特殊能力>
【|精神的外傷を乗り越える為の力】:強いショック状態や危機に陥った時に、その危機を乗り越える【特殊能力】を生み出す能力。鈴の自己防衛本能が、【全能開発】の特殊能力を使って、無意識に開発した特殊能力。
【修復不能之破壊】:あらゆる物を破壊することが出来る能力。壊された物は、修復不可能となる。兵士に無理矢理キスされたショックで誕生した能力。
【不老】:老化しなくなる能力。両親に捨てられた(と思い込みんだ)時に、兄だけが自分と一緒にいると誓ってくれて生み出された能力。10歳の時に、発動している。
【肉体強化】:見た目の変化はないが、ステータス値が爆発的に加算される能力。加算された値は、+で表現される。兄を兵士に殺された時に、生み出された能力。
【全能開発】:あらゆる特殊技術、特殊能力などを自分で開発することが出来る能力。生まれつきの能力だが、兄との約束で封印している。
<特殊技術>
【魂形状変化】:魂の形を自由自在に変化できる技術。
【霊視】:魂を視ることが出来る技術。
うん、御立派ぁ!
なんだよ、このチート能力の数々は!!!
間違いなく、こっちが【当主】の素質持ちだ……。
惜しいのが、ついさっきまでは、本当に只の少女だったところだ。
もし、早めに才能に気が付いて、修行をしていれば、間違いなく兄貴は無事だったはずだ。
でも、その兄貴が、異様な能力を使わないように、妹と約束を交わしている。
兄貴としては、普通の女の子として一生を過ごしてほしかったんだろうけど、その結果が先ほどの死である。
まぁ、この兄貴だったら、妹に人殺しをさせてまで生きたくはないんだろうけどね……。
「ねー、お兄ちゃん。まだー?」
目を閉じたまま、鈴ちゃんは、無邪気な笑顔を浮かべている。
【ZERO】にも、当主の素質が無かったはずって思い込んでいたのを思い出す。
【ZERO】の【歩み】が視れない以上、この思い込みは、第三者の【歩み】の影響を受けているはずだ。
私は、兄貴の【歩み】を視て、すぐにそれに思い当った。
それは、沢上家の現当主で父親が、二人に言い放った台詞だった。
「落ちこぼれめ……」
それを聞いた兄貴が、勝手に『自分と妹には当主の才能が無い』と思い込んでいたようだ……。
「私ってば、【歩み】に頼り過ぎよね……」
【歩み】の弱点、本人が信じ込んでいれば、ねじ曲がった事実でさえ、真実として記憶されてしまう。
またしても、これが足を引っ張った形だ。
「でも、これならなんとかなりそうだ……」
私は、無邪気に目を閉じ続けている鈴ちゃんの顔を見て、ニヤリとほくそ笑んだのだった。




