挫けぬ心
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その叫び声に、私は頭を上げた。
いつの間に気が付いたのだろう?
その叫び声を上げていたのは、ドス子ちゃんだった。
未だに血で濡れている両手で頭を押さえて、ひたすら叫び声を上げ続ける。
「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっぁぁああああ!!!!!!お母さん!!!お父ざん!!!!あだじぃ……あだじぃいいい!!!なんて、あああ、なんでああ!!おがあざんん!!おどうざあああんん!!!」
喉が避けるんじゃないかと思うくらいの悲痛な叫び。
ぎゅっと瞑った瞳からは、ポロポロと先ほどの豪雨にも負けないんじゃないかと思うほどの涙が零れ続けていた。
「ぁー……いつ見ても気分のいいものじゃあないねぇ。我ながら、ひどい事をしたもんだ」
そんな事を口にしながらも、どこか冷めた様子の【超越蛙】。
はぁ?……なめんなよ。
てめえがやったことだろうが!!!
私の折れかけた心に、沸々と怒りの感情が沸きあがってきた。
私は、【変身】でいつもの少女スタイルになると、ゆっくりと立ち上がった。
そして、未だに叫び声を上げ続けているドス子へ近づいて、思いっきり抱きしめた。
「もう、大丈夫だから……ね」
「あっ……」
一瞬の沈黙。
そして……。
「ふっぅ……うぐぅ……お母さぁん……おとぉ~さぁん……ごべんなざぃいいい!!!!」
ドス子ちゃんは、私の胸に顔をうずめて、思いっきり泣いた。
全ての苦しみを吐き出すように泣いた。
泣き疲れて、私の胸で寝てしまうくらい泣いたのだった。
【変身】で、ちょっとだけおっぱいを増量した。
さすがに、あの胸では少し包容力が足りなかったからね!
泣きつかれたドス子ちゃんは、私の膝枕ですやすやと寝息を立てていた。
「これから、どうするんです?」
【超越蛙】と私の話し合いの最中、ずっと黙っていた双葉ちゃんが話しかけてきた。
胸元からは、まだ【超越蛙】が顔を覗かせている。
「この子を連れて、知り合いのところに行ってみようと思う。もう、この国にこの子の居場所はないでしょうしね」
「殺しちゃえばいいのに。それだけのことを彼女は、したと思うけどねぇ~」
ポカリ
私が蛙をひっぱたくより速く、双葉ちゃんのゲンコツが蛙の頭に落ちていた。
「いたぁ!?えぇー、【超越蟲】様を殴るかねぇ、普通……」
「減らず口は、そこまでだよ!僕は宿主で、お前は言ってしまえば、寄生蟲!大家さんと住人の関係のようなものならば、僕のほうが立場は上のはず!行儀よくしてないと、僕の体に住まわせないぞ!」
木草樹に様を付けずに話せるような存在を、すっかり尻に敷いている双葉ちゃんの様子に思わず、さっきまでの怒りを忘れて笑ってしまった。
「ぷくく、心配しなくても良い関係を築けそうで良かったわ。……双葉ちゃん、本当に大丈夫?」
「ええ、お世話になりました。元々は、僕の研究が引き起こした悲劇です。しっかりと責任を取らせてください」
「そう、分かったわ。……蛙よ、あんた、しっかりスイッチオフにしときなさいよ!」
私は、ビシっと指を差して、【超越蛙】に念を押しておいた。
「無効だ!私の名は、無効!!名前で呼びたまえよぉ!……私、この魔女を気に入りましたからねぇ~。そう簡単には、壊しませんよぉ!」
「ああ、こうは言っていますけど、根は善人みたいなんで、大丈夫ですよ。それに、どうもMPが高ければ高いほど【超越蟲】への耐性がつくらしいです。だから、魔女の僕は、【殺人衝動】を抑えるのに適した存在なんだとか……。これも、全部、無効ちゃんが教えてくれたんですよ」
「ちゃんを付けるなぁ!付けるなら、様にしろよぉ!」
ふむ。
どうも、この蛙、口が悪いようだけど、性格は悪いやつではなさそうだ。
というか、さっきの雰囲気からしても、私達を試すように敢えて、辛辣な言葉を投げかけたように思える。
心が折れても、話が通じなくても、お互いが理解できなくても、決して諦めないようにと……。
「なんだ、無効、意外と良い奴じゃん!」
「頭の中がお花畑なのかなぁ?これだけの悲劇を起こした私が、良い奴のわけないだろう?」
そう言って、悲しそうに下を向く無効。
確かに、辺りを見回すと、所々に悲劇の残骸が散らばっている。
でも、宿らないと生きていけない上に、宿れば宿主に【殺人衝動】と、それを楽に行える力を与えなければならないのなら、悔しいけど仕方がないんじゃないかとも思う。
しかも、このシステムを生み出した相手は、あの木草樹だ。
この世界の誰にも解除する事なんて不可能だろう。
この【超越】システムが出来てから、何千年経っているのだろう?
間違いなく【マールド】が出来るよりも前から、彼らは生物へ宿って生活し続けていたんだと思う。
私よりも遙かに前から、様々な生物へ宿って、その中で多くの人とも触れ合ってきただろう。
何人ほど、気の合う宿主と会えたのだろう?
何人の気の合う宿主に、悲劇を起こさせてしまったのだろう?
親友になった宿主に、何回ほど罵られたのだろう?嫌われたのだろう?
……きっと【超越蟲】達も、精神を擦り減らし、過ごしてきたんだと思う。
辛い日々を幾度となく経験して、もう慣れ合いたくないから、わざと試すようなことを言う天邪鬼のようなやつがいてもおかしくない。
この無効みたいに……。
「まぁ、あまり気にしないほうがいいわ。これは、無効にとって食事みたいなものだもの。生きていくのに、必要な行為ならば、それならば…………仕方無いわ」
私は、下を向く無効の頭をポンと軽く叩く。
「気安く触るんじゃねぇぞぉ~!まぁ、少しは元気出たけどねぇ!」
ニヤリとご機嫌な感じで笑う無効。
どうやら、元気が出たようだ。
まったく、私ってば、どうしても蛙に対しては甘いのよね~。
「さてと……、私はドス子ちゃんが起きる前に行くわね。もし、何かあったら、【ウラヌス】の【ダルスティン・ローズ】邸を訪ねなさい!きっと、力になれる…………人、がいるはずよ」
「……ありがとうございます。僕は、【不老】です。可能な限り、この無効と一緒にいたいと思っています。……でも、もし抑えきれなくなったら、訪ねていきます。そして、その時には、宜しくお願いします」
双葉ちゃんが深々と頭を下げる。
無効も、私に向かって手を振る。
一件落着には、程遠いけど、とりあえずの決着といった感じである。
「さてと……」
私は、【魂糸】で私とドス子ちゃんを包むと、【転送】を使用した。
目指す先は、当然【サルト】!
困った時は、親友に相談だい!!




