雨上がり
私がドス子を生き返らせている間に、すっかり雨は止んでいた。
雲もまばらになり、隙間から星が顔を覗かせていた。
そして、雨によって冷え切った空気とは裏腹に、こちらでは暑苦しいくらいの熱気を持った対話が行われているのだった。
「人間には、自然を守ろうと活動している人もたくさんいるのよ!そういう人がいることも忘れちゃいけないと思うわ!!」
「馬鹿だねぇ~!自然を守る行為なんて、当然のことだよぉ!恩着せがましく言わないでくれるかなぁ!!」
まったく、この蛙うざい!
会話こそ出来てはいるけど、糠に釘と言うか、暖簾に腕押しと言うか、ちっともこちらの意見に耳を貸そうとしない。
むしろ、こちらの意見の方が悪いような気分になってくるから不思議だ……。
「えーと、つまり、あんたは、木草樹に頼まれて、人間へ寄生しているわけなのよね?」
「人間って言い方は、違うなぁ~。生物だよ、生物!私は、木草樹に頼まれて、【サルト】以外に住んでいる強い生物へ、寄生しているんだ!理由は、人間を減少させるため!」
「そのために、殺人衝動を宿主に与えているというわけ?」
「……それは、少し違う」
おや?
今までは、割とおちゃらけたな感じだったのに、蛙の声が急に真面目な感じになった。
「私達、【超越蟲】がやっている行動は、強い生物に宿るだけなんだよぉ。宿った後は、木草樹が勝手に宿主へ【木縁樹草風華】の最大強化版のようなやつを与え続けるだけだ。与えられた宿主は、全てのステータスが100倍されて、無性に人を殺したくなる。但し、それを抑えるのが、私達の仕事でもあるんだ」
「ん?宿るだけ??貴方たちが【超越】させているんじゃないの?」
「そこは、違う!私達は、あくまで座標のような役割に過ぎないんだ。私達が強い生物へ宿ると、それを木草樹が感じ取り、宿主へ霊界を通して力を送り込む。そして、力を送り込まれた【宿主】は、超越するんだ」
……まったく、あの植物は碌なことをやらないわね。
ん?
だとすると、おかしいことが……。
「え?ってことは、貴方たちが宿った瞬間に、宿主が【超越】するってこと?」
私の言葉を聞いた蛙が、大きなため息を吐く。
そして、私を馬鹿にしたように話し始めた。
「だぁ~かぁ~らぁ~、さっきも言っただろう?抑えているって!君は、話を聞いていたのかぁ?その大きな頭は飾りなのかぁ?」
イラッ☆
かなりカチンときたけど、ぐっと気持ちを抑える。
何故なら、先ほどの蛙の言葉に気になるワードがあったからだ。
「おっ、抑えるねぇ……。私も今、色々抑えているけど、貴方は何を抑えているの?」
「無論、【超越】をだよ。私達は、座標でもあり、スイッチでもあるんだ。だから、まだ早いと思った生物は、成長するまで【超越】させない。だけど、私達がいくらスイッチをオフにしていても、木草樹の膨大な力は、どうしても漏れ出してしまうんだよぉ。そして、宿主に少しずつ少しずつ溜まっていく。そして、宿主は少しずつ少しずつ、人を殺したくて堪らなくなる……。理性に負けて、人を傷つけたりでもしたらアウトさぁ。勝手にスイッチは、オンになり【超越】する」
「……そうなったら、止まらないの?」
「……昔、私にも気に入った宿主がいてねぇ。何度か【超越】を止めたことがあるよぉ。だけど、それは【超越蟲】が宿主を気に入った場合だけだ。大抵は、一回【超越】してしまえば、体がボロボロになるまで人を殺し続けるよ!」
「ふぅん、で、あんたが気に入った宿主は、どうなったの?」
私の言葉に、今までしゃべりすぎなくらい口を開いていた蛙の言葉が詰まった。
少し悲しげに下を向いて、自嘲気味に笑う。
表情だけで、良くないことが起こったんだと想像が出来た。
「殺されたよ……。【超越】は、体に負担がかかるしぃ、何度もやっていると、スイッチが緩くなってしまって、【超越蟲】ですらコントロール出来なくなる。心が号泣していても、体は人を殺しまくるんだ。やがて、体も心も壊れて、動けなくなる。そして、正義の味方に殺される。私が宿ってきたほとんどの生物は、みんな同じような最後を遂げているねぇ」
「あんた、そんなことがあったのに、なんでまだ【超越蟲】やってんのよ!木草樹になんで、まだ従ってんのよ!!!」
「卵よぉ!それは、お前が『なんで魂をやっているのか?』と言われて答えられるのか?神に従ってなぜ転生をしているのか?と聞かれて答えられるのか!!答えてみろぉ!!!!」
ビリビリと辺り一帯に響くような怒声が蛙の口から発っせられた。
私は、蛙の言葉にただ下を向く。
恐らく、この蛙を含む【超越蟲】達は、木草樹から私の情報をもらっているんだろう。
だから、私が魂で転生生活をしていることを知っているんだろう。
何故か……。
確かに、私はその質問に答えられない。
もし、転生するたびに人を一人殺さなくては、私が死ぬんだとしたら、私は迷わず人殺しをしていただろう。
自分が死ぬか、生物を殺さなくてはの2択で、自分が死ぬを選択できるやつは、少数派だと思う。
それが、違う種族ならば尚更だろう。
法律によって裁かれない世界で、自分とは違う種族の生命を奪わなくては、貴方が死にます。
その種族は、自然を破壊して、この世界を住みにくくしています。
さて、どうしますか?
……私は、この蛙をこれ以上責める事が出来そうもない。
それぞれに正義があり、悪などないのだ。
私は、考えの違いと住む世界の違いを思い知らされた。
私は、神様の魂の【卵】です。
そして、貴方は、木草樹を住処に暮らしていた蛙さん。
……そっか、人の考えなんて理解出来なくて当然なのかもしれない。
知識や思い出が多い人へ転生して、膨大な量の【歩み】を視てきたから、きっと私は人寄りの考え方なんだろう。
自然と涙が溢れてきて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
私は、人じゃない。
人じゃなかった。
人のつもりでいた?
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
「ううっ……ううう…………」
ポタリポタリと涙が溢れる。
向かいのビルのガラスに、映った私の姿が目に入る。
そこにいたのは、触手だらけの肉塊だった……。
あ、そっか【変身】で、この姿だったのすっかり忘れてた。
ハハハ、この姿で胡坐で座ったり、【分切一付】使ってたの?
何この姿で違和感なく、動き回っちゃってたの?
なんだ、私、 化 け 物 じゃん……。
バタリと、濡れた路面へ寝転がる。
なんか、もう色々と疲れてしまった……。
目からは、涙が止まらずに溢れ続けていた。




