復活の呪文
さて、自慢ではないが私は他人を治すのが苦手だ。
これ、割と初期にぶち当たった問題だったけど、意外と難航していて、まだ解決していなかったりする。
一応、【エンシェントドラゴン】の【歩み】から得た【魔法】に、【治癒】や【治療】があるけど、あれって単に自己治癒能力を強化して促進させるだけなので、骨折などの場合、きっちりうまくつながるように、折れた部分を元に戻してから魔法を掛けないと、変なつながり方をしてしまうのだ。
病気などの内科関係の場合も、自分のならすぐに治せるけど、他人を治すとなると、非常に時間がかかる。
そういう意味では、能力拳法【聖天癒塞】は、他人の傷でもすぐに塞げるので、覚えておいて損は無かった能力拳法と言える。
……超劣化とか言って本当にごめんなさい。
それにしても【自己強化再生】は、自分にしか使えないところが本当にネックよねぇ……。
というのも、他人に【自己強化再生】を掛けた場合、相手の肉体細胞自体が変異してしまい、再生能力が付加されてしまうのだ。
それで何が問題かというと、傷ついたプラナリアのように、切った分だけ頭が増えたり、目が増殖したりと、異常な再生の仕方をしてしまう可能性があるのだ。
また、場合によっては、治るのではなく2人に増える場合もある……。
『異常な再生を繰り返す化け物になるのと、死ぬのだったらどっちがいい?』なんて、私には言えないし、実行するのも怖くてできない。
え?なんで、【自己強化再生】を他人に掛けた場合の結果を知っているんだって?
……さてと、色々と考えたけど、骨を上手くつながる位置に戻して、【治癒】魔法を掛けるのが一番良い方法かな?
折れた骨をつなぐことは、塞ぐことしかできない【聖天癒塞】には不可能だしね!
……いや、もしかしてあの能力拳法だったら、つなぐことができるんじゃないかしら?
「やってみる価値はあるわねぇ……」
ものは試しだ!
私は、彼女の折れた骨の部分に、皮膚の上から指を突っ込んだ。
「え!?ちょ!!何を!!!!」
双葉ちゃんが慌てふためくが、ちょっと集中したいので無視する。
触れた指先からドス子ちゃんの体温が、徐々に無くなっていくのを感じた。
「あっ……」
私は、そこである重要な事を思い出した。
背中に嫌な汗が流れる……。
さっき触れた時に、ドス子ちゃんの体から、急速に温もりが無くなっていることに気が付いた。
それは、何故か?
そんなの当然、 死 ん で い る からだ。
え~……、あー……、うん、【治癒】魔法 効 か な い や ☆ミ
……あっぶねえええええええええええええええええええええ!!!!!
死体に【治癒】魔法を掛けた場合、厳密にいうと変化は起きる。
その変化とは、【腐敗】である……。
自己治癒能力は、当然ながら生きている人間しか持っていないものだ。
死んだ人間、つまりは死体には、治癒能力は無い。
では、遺体の場合、何が強化されてしまうのかというと、【発酵】だ……。
本当に危なかった……。
私でも、腐敗した遺体を、ピチピチの生遺体に変える方法なんて知らない。
危うく私、ゾンビ~ドス子を誕生させちゃうところだったみたい……。
さて、気を取り直して、作業を再開する。
私は、綺麗にドス子の体から折れた骨を抜き取り、それを綺麗につないで戻していく。
「あれ?なんで??……血も出てない?」
その現象を不思議そうなまなざしで見てくる双葉ちゃん。
ふっふっふ、これぞ庭鳥さんのお兄さんから授かった能力拳法【分切一付】。
どんな物でも、部品の様に分けることが出来て、更に元の状態につなぎ直すことも出来るのだ!
もしかして、折れた骨を繋ぎ直すことも出来るんじゃないかと思ってやってみたが、思いのほか上手くいったようだった。
いちいち、骨を取り出さなくちゃいけないので、見た目が大変グロイ感じになっちゃってはいるけど、無事に骨折を直す……もとい治す作業は順調に進んでいった。
「ふぅ~……疲れた」
とりあえず、粗方の骨折の処置は終わった。
残念ながら、【分切一付】は、部品を元の場所へハメ直したり、外したりするしか出来ないようで、完全に骨折を治すことは出来なかった。
だけど、元の位置へ完璧に戻せたので、これで生き返らせて【治癒】魔法を使えば、元より太くつながるだろう。
内臓関係や脳は、【魂糸】で覗いてみた感じ、そんなにひどい状態ではないみたいだ。
これならドス子ちゃんを生き返らせてから、【治癒】魔法を使えば、元の体の状態へ戻すことが出来るだろう。
さて、本日2回目の【蘇命神奇】を開始する!
私は、ドス子ちゃんの体の上で両腕を振るった。
……その間、私は無防備だった。
先ほど去った【超越蛙】は、私に寄生しようとしていた。
だけど、私は【透過】の魔法を使って、肉体を霊体へと一時的に変化させていたので、肉体に寄生する【超越蛙】は、寄生できなかったのだ。
だから諦めて、新たな宿主を求めて飛んで行った。
……と、私は思っていた。
だけど、気が付くべきだったのだ。
私は、【巣作蜘蛛】の【歩み】のおかげで知っているのだから……。
【超越蟲】達が、常に外の世界を観察していることを!
彼らが外の世界を観察している理由。
それは、宿主が生きているうちに、次の宿主候補の目星をつけておくためだ。
第1候補は、宿主を死へ至らしめた原因を作った人物。
今回の場合は、私だ。
そして、第2候補は、宿主の子供や、師匠やライバルなど。
今回は、該当する人物がいない。
最後に第三候補だが、これは、宿主と今まで戦った相手の中で、超越蟲が一番強いと感じた者なのだ。
仮にその相手が現在の宿主より弱くとも、その宿主が死んでしまった場合の緊急避難場所として、候補に加えておくらしい。
そして、今回の場合は、恐らく双葉ちゃんがそれに該当するだろう……。
つまり、私に宿れなかったのなら、双葉ちゃんに宿るのが普通だ。
当然、私は、それを考慮して、双葉ちゃんにドス子ちゃんの止め刺しを頼んだ。
私自身は、最低限の防御である【透過】で、それに使用している【魂糸】以外の全てを双葉ちゃんの周りに配置して、双葉ちゃんを守っていたのだ。
それに気が付いたのか、どうかは分からない……。
ただ、蛙は飛んで行った。
だから、私は、安心して警戒を解いてしまったのだ。
……私は、【超越蟲】の性格や生態をよく理解していなかった。
【蜘蛛】や【蛙】には、積極的に狩りを行う者もいれば、獲物がかかるのを待つ者もいる。
この【超越蛙】も、 待 つ 事 には、慣れていたようだった。
【擬態】によって姿を隠した【超越蛙】が、ビルの隙間から私に隙が出来るのを待っていた!
……それに、私は気が付けなかった。
「悪いねぇ!いただくよぉ!その体!!!」
いきなりかけられた声に、体が固まる。
慌てて【千里眼】で周りを確認するが、誰の姿も見えない!
【超越蛙】の【擬態】は、木草界一の精度を誇り、視認で彼を捕らえることが不可能だということは、後から知ったことだ。
それを知らない私は、必死に辺りを見回す。
そんな私の耳に、風を切る音が後ろから聞こえてきた!
「危ない!!」
私が後ろを振り向くのと同時に、誰かが私の視界の前に飛び出してきた。
それは、体を大の字にして、私を庇う様に立ちふさがっていた。
ドブンッ!
何かが池に飛び込むような音がした後に、立ちふさがった人物がバタリと道へ倒れこんだ。
それは、この国を愛した結果、悲劇の化け物を生み出してしまった魔女だった。
「双葉ちゃん!!!」
私は、自分の迂闊さを呪った。
【超越蛙】が魔女【神楽坂 双葉】の中へ入り込んでしまったのだ!




