超越蟲
「双葉ちゃんの電気なら、あまり肉体に傷を付けずにこの娘殺せるでしょ?」
「いや、殺せるけど……、本当に殺しちゃって大丈夫なんですか?」
双葉ちゃんがちらりとドス子を見る。
ドス子は、両手両足を骨折したまま、白目を剥いたまま気を失っている。
まだ再生は始まっていないようだけど、早く仕留めないと手遅れになってしまう。
「うん、大丈夫!意識を戻す前に、手早くやっちゃって!」
「……そ、それじゃあ、まぁ」
双葉ちゃんは、なんとも微妙な表情を浮かべてドス子の胸の上に手を乗せた。
そして、少し力を込める様に手を押し込んだ。
バリッ!!
あの電気独特の痺れるような音がして、ドス子の呼吸が止まった。
「う~ん、これでいいんですよね?」
双葉ちゃんが、困ったような顔で立ち上がったその時、ドス子の体に変化が現れた。
ドス子の胸のあたりが光り輝き、手のひらほどの大きさの何かが飛び出してきたのだ!
「!?」
「やっぱりね……」
……それは、一匹の【蛙】だった。
ふてぶてしい顔つきをした蛙は、空中に浮かんだまま、私と双葉ちゃんを交互に見た。
「……ゲゴォ」
蛙は、私の方を見て小さく鳴くと、そのままものすごい勢いで、空を飛んで消えていってしまった。
「…………ふぅ」
どうやら、無事に事なきを得たようだ。
これで、宿られたらたまったもんじゃない……。
「あ~……びっくりした!久しぶりに【超越蟲】を見ましたよ!!この娘、【超越者】だったんですねぇ~」
「ついさっきね、彼女の目が複眼状態になっているのに気が付いたの。もしやと思ったけど、案の定だったわ……」
お互いに安堵の息を吐き出した。
それだけ、緊張するような相手だったのだ。
【超越蟲】とは……。
自然を破壊する愚かな生物である【人】の数を減らすために、木草樹が力を与えた10種類の肉食蟲である。
元々は、木草樹が若かった頃に、彼の体付近を寝床としていた10匹の蟲だったらしい。
種類は、【蜘蛛】、【蜻蛉】、【蛭】、【蟻】、【蟷螂】、【蜂】、【百足】、【蛙】、【蛇】、【蚯蚓】。
【蚯蚓】以外は、木草樹を食べに来た草食昆虫や動物を捕らえて食らい、木草樹を守っていたようだ。
そして、【蚯蚓】は、豊かな土壌を木草樹に提供し続けた。
彼らは、木草樹の信頼する友となり、木草樹だけの国【サルト】を造る手助けをした。
【サルト】が出来て、更に時が流れて、様々な生物が【人】となった。
そして、人は文明を持ち、発展のために自然を蔑ろにし始めた。
それに腹を立てたのが木草樹だった。
自然から生まれた生物が、生まれの父や母を破壊するとは何事だ!と……。
木草樹は、彼ら達にお願いして、人口を減らす手助けをしてもらうことにしたのだ。
それが、【超越蟲】が誕生した経緯だ。
木草樹は、友人たちに【神格】を与えて、精霊や魂などと同じ、肉体を持たない生命体へと変えた。
元々、木草樹から【不老】と【木縁樹草風華】の力を授かっていた蟲達は、【超越蟲】になり、更に【超越化付与】と【殺人衝動付与】の力を授かった。
そして、自分の近くにいる戦闘能力の高い、または高くなる才能を持つ生物へ寄生する力をも授かったのだ。
【超越蟲】の使命は、人口を減らす事。
その方法は、戦闘能力の高い生物に宿り、木草樹の力で、人知を【超越】した生命体へ成長させる。
そして、その生物へ【殺人衝動】を与え、人殺しを思う存分させるというものだ。
人知を【超越】した生命体へ成長した人を、【超越者】と呼ぶ。
【超越者】は、複眼になり、再生能力を持ち、力と速度と防御力が100倍になると言われている。
但し、肉体にかかる負荷が凄まじく、超越した後には、丸3日間寝たきりになるらしい。
【超越蟲】は、魂が肉体に宿るような形で寄生するため、手術などによって取り除くことは不可能だ。
魔法などで、精神に攻撃をする方法ならば、追い出せるかもしれないが、彼ら自身も相当の実力者である。
残念だが、失敗して殺されてしまう可能性のほうが高いだろう。
【超越蟲】が宿主の体を離れるのは、基本的に宿主が死んだ時のみだ。
宿主が死んだ場合、その近くにいる戦闘能力の高い人物へ寄生する。
宿主が殺された場合は、その殺した生物へ寄生する。
全て、【超越蜘蛛】の宿主となっていた【巣作蜘蛛】の【歩み】から得た情報だ。
彼は、【超越蜘蛛】と良好な関係を築いていたようで、色々と教えてもらっていたようだ。
だが、いくら良好な関係を築こうとも、【超越化】を止められるわけでは無い。
なんと、彼らは、宿っているだけで、宿主にじわじわと【殺人衝動】を与えていくらしい。
そして、【殺人衝動】に負けて、人を殺めてしまった時に、【超越】するのだ……。
【巣作蜘蛛】が【殺人衝動】に負けてしまった時の【超越蜘蛛】の悲しそうな悲鳴は、【巣作蜘蛛】の【歩み】の中で一番悲痛な思い出だった。
今回、このドス子ちゃんには、【超越蛙】が宿っていた。
【天才】の両親から生まれたドス子ちゃんは、生まれついての【天才】であり、件の【特異能力】から分かるように、戦闘の才能に恵まれていた。
そして、それに目を付けた【超越蛙】は、赤ん坊の時点でドス子ちゃんに宿ったのだろう。
【超越蟲】達は、才能ある宿主を選んだ場合、その才能が開花するまでひたすら待つ。
だから、今回も赤ん坊が成長して、戦闘の才能を開花させるのをひたすら待ったのだろう。
そして、ドス子ちゃんが【刀神】の才能を開花させた時に、【超越蛙】は行動を開始した……。
以上が、【魂糸】を突き刺した時に、少しだけ視れた『ドス子ちゃんの過去』から推測した私の考えだ。
「……それにしても、なんで【超越蟲】は、僕に宿らなかったのかな?あれって、確か宿主を殺した生物へ宿るんじゃなかったでしたっけ?」
蛙の飛んで行った方向を向いて、そんな怖い事をさらっと言う双葉ちゃん。
「あれは、殺した人じゃなくて、正確には【致命傷を与えた人】に宿るみたいよ。つまりは、私に宿る可能性はあったんだけど……、まぁ、一日だけ宿っても仕方がないと判断したんじゃないのかしらね?」
まぁ、正しくは、宿れない様に小細工していたんだけどね!
まったく、せっかく安堵したところだったのに、ぶり返すような事を言うのはやめてほしいわ……。
「さてと……」
私は、ドス子ちゃんに向き直る。
予め【魂糸】でぐるぐる巻きにしておいたから、魂がまだ肉体を離れていない。
「よし!上手くいったようね!じゃあ、まずは、骨折を治すところから始めましょうか!」
ふっふっふ、私によるドス子ちゃん、復活の儀式の開始である。
木草樹「自然から生まれた生物が、生まれの父や母を破壊するとは何事だ!」
アダモゼウス「あんたが言うな!!!」




