落下中の攻防
ドス子は、空を飛ぶ術も、瞬時に傷を治す手段も持っていないはず!
ならば、このまま一緒に地面とキスするのが、一番簡単にケリをつけられそうだ。
私が刺した沢山の【魂糸】から、ドス子の意思が流れ込んでくる。
ふむ、どうやら私の遺体を足場にして、ビルの屋上に飛び移ろうと考えていたみたいだ。
「そう簡単にいくはずないでしょ!」
「うざい!!」
【魅了】で、ドス子の意識に阻害行為をしているというのに、なんたる意志の強さ!
『コロシテヤル!コロシテヤル!イキテイルモノヲコロシテヤル!!コロセ!コロセ!コロセ!キリコロセ!スリオロセ!セツダンシロ!!!』
まるで、狂気としか思えないドス子の思考回路。
駄目だ、こりゃ。
もし、話し合いが出来る相手だったら、叱りつけてやろうと思ってたけど、この子は、このまま一緒に逝かせてやったほうがいい相手っぽい……。
『コイツヲコロシテ、ビルヘトビウツレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!た…キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!す…キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!け…キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!キレ!て…キレ!キレ!キレ!』
「ん?」
私は、ドス子の意識に一瞬気を取られた。
その一瞬の隙を突かれて、ドス子を掴んでいた腕を斬り落とされる。
そして、そのまま自分の周りの空間を斬るように、やたらめったら短刀を振り回すドス子。
「あだだだだ!!!」
ドス子には、視えていないはずなのに、ドス子に刺さっていた【魂糸】が次々に斬られていく。
ちくしょー!こいつ、何か蜘蛛の糸のようなものが纏わりついているとか感じたみたいだ!
「なめんな!」
私は、再度【変身】をすると、今度は、巨大な触手を持つ肉の塊へと姿を変えた。
数百本もの触手がドス子の体へ絡みつき、ビルの屋上へと逃さない!!
「ぐっ!おまぇええ!魔女じゃないなぁああ!!!」
「ご名答!ギフトちゃんでしたぁ!!」
この瞬間、私とドス子の体が、ビルの屋上より下へ落下した。
これで、屋上へ逃れる事は出来ない!
……それにしても、さっき何か聞こえた気がした。
助けを求める声だったような?
「……あれは、一体?」
あれこれ考えながらも、触手の動きは止めない。
次々と繰り出しては、輪切りにされる私の触手。
しかし、【自己強化再生】で、瞬時に再生して、再びドス子へ襲い掛かる!
もしも今が落下中でなかったら、本体である私ごと斬ったり、私のMPが尽きるまで触手を斬るなど、色々と対策出来ているんだろうけど、状況が状況なだけに焦っており、そこまで考えが回らないようだ。
ドス子は、私を足場にビルへ飛び移り、短刀を壁に突き立てて、事なきを得るつもりかもしれないけど、今の速度を考えると、それでも両腕にかなりのダメージを負うだろう。
ただ、彼女ならばそれで確実に生き残れる。
あれだけの人を殺しておいて、まだ生に執着があるとはねぇ……。
そう私が思った時だった。
一瞬、稲光が辺りを包み、暗くてよく見えなかったドス子の顔が見えた。
鼻のところまで垂れ下がっていた前髪のせいでよく見えなかった目が、落下の風圧で捲りあげられたのもあって、今初めてドス子の顔全体を確認できたのだ。
「っ!?……そういう事か!」
さっきの助けを求める声の正体が分かった!
くそ!
この娘は、被害者だった……。
絶対にここで死んじゃだめだ!
死なせてたまるもんか!
そんなことを考えている間にも、地面がどんどん近づいていく。
【魂糸】が先ほどの戦いでボロボロ状態のうえ、伸ばしている時間も無い。
つまり、魔法では逃れられない。
私は、ほとんどの触手を思いっきり下へ伸ばし、地面へ激突させて、少しでも落下の速度を落とす。
そして、残りの触手で、思いっきりドス子を抱きしめる。
「!!??」
今までのきつく締め付けるような拘束ではなく、優しく抱きしめるかのような抱擁に、目を白黒させて驚くドス子。
そのおかげで、地面に激突する瞬間に、彼女を思いっきり包み込むことができた。
ブベジャアア!!!!
……………………。
体中が痛い。
色々な体液や、臓器やらが、あちこちに飛び散ってしまったみたいだ。
もしも、私の体に骨が存在していたら、間違いなくバキバキに折れていただろう。
意識を手放しそうになるが、【自己強化再生】が肉体を瞬時に修復してくれていた。
腕を再生するのに10秒もかからない【自己強化再生】なのに、まだまだ体中が痛い。
……きっと、転生してないのが不思議なくらいの重症だったんだろう。
私は、虚ろな意識でお腹に抱えたドス子を見た。
足や手が変な方向に曲がってこそいるが、生きているようでドクンドクンと胸を打つ心臓の鼓動が、私のお腹に響いていた。
ほっと胸を撫で下ろす私の前に、双葉ちゃんが姿を現した。
「ん?どういうことですか?そのモルモットを助けるってことですか?」
私が作った雷雲からたっぷり電気を補給できたようで、双葉ちゃんの体中をパチパチと電気が走り回っていた。
「彼女が……、殺人鬼になったのには……、理由がある……」
すぐにでも、ドス子を始末したそうな双葉ちゃんにゆっくりと説明をする。
彼女への説明を終えた辺りで、ようやく体が動かせるようになってきた。
「う~む……、なるほど!!だとしたら、納得できるけど、彼女を救う方法ってあるんですか?」
「たぶん、まぁ……確証はないんだけどね……」
私は、未だに意識を失って動かないドス子の体を、【魂糸】でぐるぐる巻きにする。
よし、これで多分大丈夫なはず……。
「さてと、じゃあ双葉ちゃん……」
「なに?」
「ドス子の心臓を電気で止めて」
「了解!…………って!えええええええええええええ!!??」
私の言葉に心底驚いた声を上げる双葉ちゃん。
まぁ、それもそうか。
救うって言った直後に、殺してって言ってるんだもんね。




