神が与えた才能【神才(しんさい)】
「んで、彼女の特殊能力についての詳細は分かっているの?」
私は、大きな溜め息を吐き出しながら、双葉ちゃんに質問をした。
「うん、さっき僕が【魂情報】を確認して視たから、間違いないはずです。まずは、【刀神】。これは、刃物なら誰よりも上手く扱える能力です。自分の半径300km以内で、一番刃物を扱うのが上手い人の5~7倍ほど、技術があがる特殊能力です」
「のっけから、えげつない能力ねぇ…………」
いきなりのチート級能力に、私は頭を抱えた。
私の【自己強化再生】の初期倍率をいきなり超えてきやがった……。
なんなんだよ、あのドス女は!
私があれこれと、対策を考え始めていると、双葉ちゃんは、意味深な含み笑いをして、続けてこう言った。
「そうかもしれません。でも、ある意味これが幸運でもあったんですよ」
「おお、もしかして何かこちらに有利な情報でもあるの?」
「ええ!実は彼女ですが、【刀神】以外の特殊能力に目覚めていながらも、自覚してないのです」
「……うん?どういうこと?」
「おほん、つまりはですねぇ……」
双葉ちゃんは座り込み、落ちていた木の棒を手に取って、地面に図を描きながら説明を始めた。
「生まれながら【天才】の力で、5つの特殊能力に目覚めながらも、自らの意思で自覚している特殊能力は【刀神】だけだということなんです。他の4つの特殊能力は、幸いにもまだ使えることに気が付いていないようなのですよ。恐らく、生まれつき手に入れられる特殊能力は、1つのみと言われていた固定概念によるものなのでしょうね。まぁ、実際、彼女以外に多数の特殊能力を持った【天才】なんて、例がありませんからね。僕だって、【魂情報】で視ていなければ、とても信じられませんでしたよ!」
若干、興奮気味で話し出す双葉ちゃん。
どうやら、この娘、研究やら実験やらが好きで、人に説明をするのも大好きな学者気質の魔女のようだ。
それにしても、まだ自覚していないというのなら、早めに動いたほうがいいわね。
「んで?一応、他の4つの特殊能力についても説明お願いできる?」
「はい!ええとですねぇ……」
「……」
説明を受けた私は、頭を抱えてうずくまっていた。
なんで、この魔女はこんな悪魔を生み出してしまったのよ……。
「まぁ、気持ちは分かるけど、元気を出しましょう!落ち込んでても何も始まりません!」
喉から『誰のせいだと思っているのよ!』という言葉が出かかるが、ぐっと飲み込んで堪える。
能天気な双葉ちゃんの様子に、私の気持ちは、どんどん沈んでいく。
……私が聞いた残りの4つの特殊能力についての詳細は、こうだった。
特殊能力【血調】:相手の血を舐めることで、相手のステータスが分かる特殊能力。
特殊能力【見敵必殺】:敵と認識した相手への攻撃に、有利属性が付与され、更に30%の確率で即死効果。使用後、自身の残りHP20%分のダメージ負担。
特殊能力【瞬間】:相手との間合いを瞬時に詰める特殊能力。50m以内なら、瞬きほどの時間で背後に回れる速度。
特殊能力【斬追】:一度斬った相手の場所ならば、瞬時に移動できる能力。逃走防止。
……誰か、あのドス女に確実に勝つ方法を教えてちょーだい。
まだ、自覚していないじゃない!
自覚したら、ヤバイ!!!!
だって、私も双葉ちゃんも、あのドス女に斬られてしまっている!
もしも、【斬追】能力を自覚しようものならば、今、この場に現れてもおかしくない!!
「……まったく、ほんっとうに厄介な女性を生み出してしまったわねぇ」
「ええ、僕も、そう自覚しています」
双葉ちゃんは、そう言うと、膝についた土を払って立ち上がり、私に向かって頭を下げた。
「ありがとうございます、ギフトさん。僕は、そろそろ行かなければいけません」
顔を上げ、先ほど私達が逃げてきた方角を睨みつける。
その双葉ちゃんの表情は、まるで何かひどい光景を見たような厳しい表情をだった。
「先ほど【千里眼】で確認しました。……まるで天災です。一つの町の命が亡くなろうとしています」
双葉ちゃんの言葉を聞いて、私も慌てて【千里眼】で逃げてきた町の様子を確認した。
……そこは、まるで地獄のようだった。
おびただしい量の血と皮と肉で、装飾された町。
クリスマスのイルミネーションが、全部、人間の部品で構成された町を想像していただきたい。
全身を赤く染めて、そこに佇むのは、両手に短刀を持った女が一人。
本当に無邪気で、ただただ楽しそうに、動くものを切り裂いていく。
町で生きていた命が、次々と失われていく。
「天才が天災になったと……。くそ!面白くもない冗談だわ!!!」
「彼女は、もう【天才】なんて器じゃありません。神が与えた才能【神才】とでも呼ぶべきですね……。【神才】が【震災】になるか……、どちらにせよ笑えません!!」
双葉ちゃんは、体中からパチパチと音を出しながら発光を始めた。
「僕も、【天才】です。生まれながら持っていた能力は、【電光】。体の中にある電池袋へ電気をためて、それを自在に扱うことが出来ます。充電しなければ、全く役に立たない特殊能力ですが……、まだ少し電気が残っているようです。フフ……、成長してから【不老】の力に目覚めたので、僕自身も多数の特殊能力を持っているという意味では、彼女と同じですね……」
自嘲気味に笑う双葉ちゃん。
その表情は、なんか悲しそうで寂しそうな感じだった。
「……行くの?その能力程度じゃ死ぬわよ?」
その背中に向かって、私は声を掛けた。
双葉ちゃんは、私の方へ振り返ると、ニコリと笑った。
「だとしても、行かなくちゃなりません。僕は、この国の魔女です。責任もありますけど、……僕は何よりこの国が大好きなんです。潰されたくないんですよ」
「はぁ~……仕方ないわねぇ」
私は、【変身】で双葉の姿そっくりになると、同じように立ち上がった。
見た目こそ同じだけど、私の肉体のほうが筋力など数倍上へ改良して【変身】している。
「一緒に行くわ。というよりも、元々行くつもりだったのよ。あれは、止めなくてはいけない存在だもの」
私の【変身】を見て、ぽかーんとしている双葉を放っておいて、どうすればあのドス女を止められるのかを考える。
本当ならば、あの死にかけの町もろとも大魔法で消滅させたほうが早いんだろうけど……そうもいかない。
なんせ、あの町は、死にかけであって死んではいない。
私の【千里眼】には、ガタガタ震えて息を殺す子供や母親の姿も捉えている。
見てしまった以上、助けないわけにはいかないのが、私の信条だ!
「……一気に攻めたほうがいいかしら?」
「あ、あのギフトさん。その姿はいったい……?」
「双葉ちゃん、【転移】は使える?」
「え、うん!……ってそれよりも」
「じゃあ、先に行くわね!」
ひたすら質問したそうにしていた双葉ちゃんを無視して、私は【転移】で、ドス女が暴れている町のビルの上へ向かった。
ちなみに、この姿になった理由は、2つある。
1つ目は、ドス女に魔女だと油断させるため。
ドス子にあっさりと倒された魔女ならば油断すると思うし、今の状態ならば、双葉ちゃんよりも私のほうが強いので、油断していればつけ入る隙が生まれるかもしれない。
2つ目は、この国を救った功績を双葉ちゃんにしたいからだ。
なんだかんだで、この国を命がけで守りたいという双葉ちゃんの姿に心を打たれたのよね……。
「本当に、私ってば人が良いわね……」
やっぱり、私は人の役に立つことが好きみたいだ。
満天の星空の下、私はビルの屋上に立っていた。
ビルの上から、米粒ほどの大きさのドス女を確認する。
私は、ゆっくりとドス子に向かって【勝底密御】の構えを取った。
既に、【自己強化再生】は掛かっている。
「挨拶代わりの全力よ!!!」
私は、腕を振り上げると、思いっきり勢いをつけて振り下ろした。
ドス女がいきなり地面に叩き潰され、周囲にも大きな拳が振り下ろされたかのような窪みが出来る。
「やったか?」
「誰をぉ~?」
突然、後ろから響いた声を聞き、私は咄嗟に【転移】を使って、その場を離れた。




