魔女の遺体
はぁ~……、ふぅ~……。
はぁ~……、ふぅ~……。
何度か深呼吸を繰り返して、体を落ち着かせる。
「なんなんだ、あのドス女は!?」
体が落ち着いたところで、改めてさっきの出来事を振り返っての感想だった。
この女性の【歩み】を視たけど、この女性が殺された理由も分からない。
大通りを歩いていて、叫び声が聞こえたから、何かあったと思い、声が聞こえた方向へ向かった。
向かった先の路地裏では、殺人が行われており、少女が血塗れで倒れていた。
少女の近くには、刀を持った女性が立っていて、恐怖のあまり、つい叫び声を上げて、逃げ出した。
しかし、その途中で首筋に痛みを感じ、熱い液体が流れ出して、意識が遠のき…………死に至った。
この女性の好奇心と正義感が愚かであると、見る人が見れば感じるのかもしれない。
しかし私は、苦しむ声を聞き逃せなかった、この女性の行為を勇敢であると感じたのだ。
だからこそ、この女性が殺された理由が分からなかった。
……いや、正確に言えば、この女性が死ぬ理由が分からなかった。
目撃者を生かして帰さないためなどという、殺人犯の自己保身の為だけに、失われていい命なんかじゃない!
私は、もう一度、あのドス女のところに行かなくてはいけない。
何故、この女性を殺したのかを問いたださなければ……。
「でも、その前に、この娘を何とかしなくちゃね……」
私は、足元に寝転がっている血濡れの遺体を観察した。
無残にも全身を切り刻まれており、赤い液体を垂れ流すボロ雑巾のような状態だ。
既に、呼吸はしておらず、その少女は、確実に死んでいた。
「ふぅ~……、木草樹に魂が飲まれる前に、体に固定出来て良かったよ……。これなら、多分、出来るはず!」
私は、少女の遺体を仰向けにすると、その体をゆっくりと撫でた。
「【聖天癒塞】……」
少女の体中の傷が、撫でられたところから塞がっていく……。
私は、この能力拳法【聖天癒塞】を、【自己強化再生】の超劣化版と馬鹿にしたことがあった。
しかし、今後は、この能力拳法の認識を改めよう……。
これ、思っているよりもぶっ壊れ性能の能力拳法だ。
今まで、一回も使用したことが無かったから、全然分からなかった。
だって、自分の傷を治すのなら、【自己強化再生】で済んでいたし、他人の傷を治す機会も無かったからね。
しかも、この能力拳法の使い手自身も『生物の傷を塞ぐことが出来る能力拳法』としか、認識していなかったのも、この能力拳法の本当の性能に気が付けなかった事に影響しているのだろう。
「【歩み】の弱点も厄介だわね……。まさか、こんなに反則級の能力拳法だったなんて……」
私は、肉と一緒に切り裂かれた衣服も直っていくのを目撃して、そう感じた。
この能力拳法は、『生物の傷を塞ぐことが出来る能力拳法』では無く、『どんなものでも塞ぐことが出来る能力拳法』なのだ。
たとえそれが、既に息絶えた遺体であれ、物質であれ、生物であれ、開いている部分ならば、何でも塞げるだろう。
私は、少女の傷を治したおかげで、素晴らしいことに気が付くことが出来たようだ。
「やっぱり、良い事ってしとくものよね~」
すっかり綺麗になった遺体を前に、私は祈りを捧げるようなポーズを取った。
これは、能力拳法【蘇命神奇】の構えである。
私の目に映った助けられる命は、助けたい……。
例え、それで歴史が変わったとしても!
私は、私のやりたいように行動すると、後悔しない生き方をすると、友達に教わったのだ!!
「だから、使わせていただきますよ!」
能力拳法【蘇命神奇】!
それは、『魂が木草樹に飲み込まれていない状態ならば、生き返すことが可能な』能力拳法。
私は、まるで指揮者のように、少女の遺体の上で、腕を舞わせる。
次第に腕から光が生まれて、それが少女の体に吸い込まれる様に、少しずつ少しずつ消えていく。
1時間くらい、腕を振るい続けただろうか?
全ての光が少女の体に飲み込まれると、少女はゆっくりと目を覚ましたのだった。
「うぅ……ん?ここは……?」
「ふぅ~……、初めてだったから不安だったけど、とりあえず成功したみたいね!良かった~!」
「あ……あれ?あれれれ?僕は、確か殺されたはずじゃ……、それにあなたはいったい?」
「私が生き返らせたのよ。私と自分の幸運に感謝しなさいね!」
私は、目を覚ました少女へ、今までの事を説明した。
私がギフトであること、ドス女から逃げてきたこと、まだ助かる状態だったから助けたこと。
初めは、胡散臭そうな疑惑の目を向けていた少女も、私がギフトだと知ると、納得したように頷いた。
「なるほど、確かに切り刻まれた肢体が完璧に復元されています。これは、素晴らしいね……。流石は、ギフト様といったところです!」
「お世辞はいいから……。今度は、こちらが質問する番よ。貴方は誰なの?……そして、あの女は一体何者なの?」
少女は、両手を合わせてから開く仕草をした。
すると、そこにぐるぐる眼鏡が乗っていた。
少女は、眼鏡を掛けると、オホンと小さく咳をして、えへんと胸を張った。
「化学の国【ファーベル】の建国者であり、始まりの魔女ZERO様の二番弟子!【2番目の頭脳】と人々から尊敬される魔女!【神楽坂 双葉】とは、僕の事だぁ!」
「………………うん、ごめん。それは、知ってた」
うん、君が魔女だってことは知ってたんだよ……。
これでも、君のお師匠さんへ転生して【歩み】を視ているからね……。
魔女関係の知識は、割とあるほうなのよ……。
「ちぇー!このセリフ言うと、大抵の人が驚き興奮するのになぁ~……。まぁ、あの女は、別の意味で興奮してたけど……」
双葉は、大きくため息を吐くと、肩を落とした。
どうやら、例のドス女の事を思い出して落ち込んだようだ。
「あの女って、さっきのドス女の事よね?……一体、あいつは何者なの?仮にも魔女のあんたを殺し切るなんて……」
「仮にもって所には、引っ掛かりを感じるけど……。まぁ、いいでしょう。ところで、ギフトさん」
「何?」
「【天才】って知ってますか?」
う~ん、タイミングがいいのか、悪いのか……。
私は、ついこの前、二海ちゃんから聞いたことを思い出して、頷いたのだった。




