救出
「う~、まずい。……血が足りない」
どうやら、今回転生したのは、失血死した女性のようだ。
私は、【自己強化再生】で切断された頸動脈を治すと、周りを見回した。
少し離れたところに、血だらけの少女と、黒髪で長身の女性がいた。
血だらけの少女の方は、虫の息のようで、たまにピクピク震えて、痙攣を繰り返していた。
黒髪の女性の方は、その少女の傍らに座ったまま、私の方をいやらしい笑顔で観察していた。
だらしなく伸びきった黒髪が気持ち悪い。
あれ、ほら貞○みたいな感じと言えば、お分かりいただけるだろうか?
そして、両手には血濡れのドスが握られている……。
「うわぁ……、また厄介な現場に来たわね……」
これで、殺人現場にいた犯人の目の前で、被害者に転生したのは何回目だろうか?
恐らく、4回目くらいだろう。
思ったよりも、人が人を戦争以外で殺す事件というものは、少ないらしい。
270年間、転生生活をしてきて4回だものね~。
……但し、今回はぶっちぎりでヤバイ状況のようだ。
私は、死にかけの少女の体へ【魂糸】を伸ばして、グルグル巻きにする。
よし!
とりあえず、これで固定できた!
後は、隙を見て逃げるだけだけど……。
「はぁ~い!あなたはどなた?」
血濡れのドスを、まるで玩具の様に振り回しながら、彼女は私に声を掛けてきた。
……これ、話さんでも分かるわ。
こいつ、危険な奴だ。
「私は、ギフトって言われている者よ。貴方こそ、何者よ?」
「クフフ、私は、殺人鬼ぃ~♪人殺しを楽しむ鬼だよぉ」
「ああ、そう……。悪いけど、私、急いでるの。もう行ってもいいかしら?」
「どこどこ?どこに行くのぉ?私もついてっていい?」
じりじりと、ドス女が距離を詰めてくる。
「いいわけ無いでしょうが!!あまり調子に乗ると怒るわよ?」
「……カカカカ!!!!!!!!!!!!!!!!お~~~~~~~~~~~~~~こ~~~~~~~~~~~~~~~~~れ~~~~~~~~~~~~~よぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!」
私の言葉に、狂ったように笑い出す。
ああ、ダメだ……。
こいつは、ヤバイ……。
私は、とっとと【変身】して、こいつを懲らしめてやろうかと思った。
その瞬間だった!!!
ファン!
風が、私の前を通り過ぎた。
次いで感じる痛みと、熱い液体。
「がぁ!がぼっ!?」
慌てて、痛みの発生源である喉を抑えると、私の喉が真一文字に切り裂かれていた。
瞬時に【自己強化再生】で治し、そのまま魔法をキープする。
「あれ?もう、治っちゃったの??駄目だよ、苦しんで死んでくれなきゃ……」
心底残念そうなドス女の声に、頭がクラクラした。
心臓が鼓動を速め、息が一気に荒くなる。
確かに、私は油断をしていた。
そう簡単に死ぬことも無くなったし、木草界のそこら辺の奴ら程度には、絶対に負けない自信があった。
だけど、こいつは……ダメだ。
危険すぎる!!!
久しぶりに私が感じる感情の名前は、恐怖だった。
こいつが、怖い。
「じゃあ、思いっきり切り刻んでみようか?ハンバーグになっても、生きていられたら、焼いて食べて消化しちゃおうか?ああ、そう考えたら、あなたはとても美味しそうだ……」
ちらりと、少女を見ると、既に動きが止まっていた。
こちらも早く処置しないとヤバそうだ。
このままでは、手遅れになってしまう!!
あれこれ考えているうちに、ドス女が刀を構え直して、私の方へ迫ってきていた。
とりあえずは、一旦離脱しなくちゃ!
私は、遙か後方へ伸ばした【魂糸】の元へ【転移】で移動した。
景色が一瞬で流れて、一気に殺人鬼から距離を離すことに成功した。
ちらりと足元を見ると、一緒に少女の遺体も持ってくることが出来ていた。
「ふぅ……やっと、一息つけるわね……」
私は、ガクガク震える膝を思い切り叩いて、大きく息を吐き出した。
「……あれれ?消えちゃった?魔女も一緒に??…………ムカツク!!!」
一方、せっかくの楽しみを邪魔された殺人鬼は、ご立腹だった。
せっかくの獲物が逃げてしまったからだ。
しかも、追いかけようにも手段が無い!
「ムカツクムカツクムカツクムカツク!!!!!」
殺人鬼は怒りのまま、路地裏から大通りへと歩を進めていた。
目に付く人間は、このイライラが収まるまで斬り殺そうと、たった今決めた!
今の状態の彼女を止められる奴は、この国にはいないだろう。
ただ、一人を除いては……。
しかし、だからこそ、これから大量殺戮が起こってしまうのだ……。
そのただ一人は、たった今逃げ出してしまったのだから……。




