天才
「空間魔法と時間魔法ですの?……空間を支配する魔法と、時間を操る魔法ってことですわよね?」
「ええ、そうよ」
ルルルは、少し思案するように視線を上へ漂わせ、紅茶を一口飲んだ。
現時点で私が使用可能な魔法は、条件無視ならば、ほとんど使用できると言っても過言ではないだろう。
というのも、今まで視てきた【歩み】のおかげで、魔法の知識だけは、豊富にあるからだ。
魔法は、知識と経験と技術によって発動するものだ。
肉体的な行為は、魔法の発動に一切関係ないため、魔法使いの【歩み】を視るだけで、使用可能魔法がバンバン増えていく。
ただ、【エンシェントドラゴン】に転生した時に気が付いたように、慣れや肉体的な技術は、消費MP削減の役に立つ。
私の場合は、自身のMP限界値を修行によって上げることによって、消費MPが高くても問題ないようにした。
【魂糸】や【自己強化再生】など、よく使う魔法や技術は既に慣れによって消費MPを限界まで下げることに成功している。
しかし、あまり使用しない【火球】や【吹雪】などの自然現象を操る魔法、【幻覚】や【疲労】などの相手の精神に作用する魔法、【頭痛】や【腹痛】などの体調に変化をもたらす魔法、エトセトラ、etc……。
このように魔法の種類は、本当に無限大かと思えるほど膨大なのだ。
こんなのをいちいち、慣らしてなんかいたら時間がいくらあっても足りない。
なので、この世界の魔法使いの基本的なスタイルである『よく使う魔法や好きな魔法だけ慣れておいて、後は知識とMPでゴリ押しするスタイル』を私もとっている。
まぁ、私の場合は、他の魔法使いと違って寿命に制限が無いから、MPの限界値を修行によって無限に増やすことが出来る分、さらにゴリ押す事が可能なんだけどね!
……そして、それは目の前の少女にも言える事なのだ。
私は、残念ながら、空間魔法と時間魔法だけが、使用できない。
いや、そもそもそんな魔法があるのかどうかも分からない。
だって、この魔法?を使用したところを見たことがある生物は、今までの魂生でたった3人だけなのだ。
木草界の神【アダモゼウス】、世界樹【木草樹】、メフィストの魔女【巣作庭鳥】、私が知る強者BEST3の3人だ。
この中で唯一、庭鳥さんだけが、人の身で例の術を使用している。
そう、私に掛けた【跳躍転生術】だ……。
これは、時間や空間さえも飛び越えて、転生していく魔法?のようなもの。
庭鳥さんは、アダモゼウスの転生術を改良したと言っていたけど、それでも十分にすごいことなのだ。
改良なんて、原理を知らなければ出来ないものだからね!
必然的に、庭鳥さんは、時間と空間の原理について把握しているという事になる。
ということは、もしかして、この目の前にいる魔女も把握しているのではないかと思ったのだ。
一番魔法を上手く扱えると言われている、魔法の国【ウラヌス】を建国した魔女。
そして、庭鳥さんの師のはず……。
しかし、私の予想とは裏腹に、ルルルの口から出た言葉は意外なものだった。
「……そんな魔法あるんですの?」
「え?」
ものすごく、間抜けな声が出てしまった。
てっきり、何か知っているとばかり思っていたから……。
そんな様子の私を見たルルルは、深く息を吐くと【魂糸】を空中で操作して、何やら説明を始めた。
「魔法は、【魂糸】による意思の力が基本となりますの。【魂糸】は、性質上、どんな物体にでも刺すことが可能ですわ。ここまでは、いいかしら?」
ルルルの言葉に、私は黙って頷く。
「空気や水などの、気体や液体にも、当然刺せます。しかし、時間にはどうかしら?」
「……あ」
「空間範囲の指定は、【魂糸】で可能ですけれども、空間そのものに【魂糸】を刺すことは可能でしょうか?」
ルルルは、【魂糸】で立方体を作り、その中へ【念力】で本を敷き詰めた。
本は、空中で固定されたまま、落ちてこなかったが、【魂糸】で作った立方体を下げると、一緒に下へ落ちてきた。
「魔法で現象を起こす場合、理論や仕組みを理解して、手順通りに行動を行わなくてはいけませんわ。燃焼を起こすのなら、可燃物、酸素、点火源が必要となり、それらを魔法で用意しなくては、火系の魔法を発動できません。……いきなり木の棒に【魂糸】を突き刺して、『燃えろ』と念じても燃えない様に、現象を起こすには、現象を起こすための知識と用意が必要になりますの」
「それは、知ってるけどさぁ~……」
「現象に【魂糸】を刺すのは、不可能ですわ。私から申し上げられるのは、残念ですけれども、不可能であるという事実だけですわ」
ルルルは、そう言って申し訳なさそうに頭を下げてきた。
その表情は真剣で、何かを隠そうとしたり、誤魔化そうとしている感じではなかった。
そこで、私は理解したのだ。
あの【巣作庭鳥】という人物が、魔女としても規格外の存在であることに……。
「一つ、聞いていいかしら?」
「なんでしょう?」
「貴方は、ZEROの死後、【不老】で苦しんでいる少女達を弟子にとって、魔女へ育成する使命を引き継いだわよね。そして、不慮の事故などで亡くなった国の魔女の代わりとして、育成した魔女を送り込むことも……」
「ふふ、……本当にお詳しいのね。まるで、お師匠様にもう一度会えたみたいですわ。……ええ、その通りですわ」
「貴方が、鍛えた中に【巣作庭鳥】という少女はいましたか?」
ピクッ
庭鳥さんの名前を出した時、明らかにルルルの体が震えた。
ルルルは、天井を見上げて目を閉じると、大きく深呼吸をしてこう言った。
「……【天才】ってご存知ですの?」
「確か……生まれながらに、特別な力を持つ生物のことだったっけ?貴方の【不老】も、天才の一種じゃなかった?」
「私達は、生まれてしばらくしてから特別な力に目覚めたので、単なる特殊能力組。天才は、生まれ落ちた瞬間から、特殊能力を理解して使用できる生物の総称ですの。……彼女【巣作庭鳥】は、生まれ落ちた時、既に【魔女】でしたの」
「!?」
「私が鍛える必要もなく、当たり前のように魔法を使って、木草界の理も理解しておりましたの。彼女の生まれながらの特殊能力に名前を付けるなら、間違いなく【魔女】ですわね……。恐らくですけど、お師匠様と同じ才能を持って生まれてきたのでは、ないのでしょうか?」
始まりの魔女と同じ才能ねぇ……。
中々面白い推理だけど、たぶんそれは違うと思う。
私は、ZEROへ転生したことがある。
しかし、彼女は普通の女の子だった。
ただの【不老】の能力に目覚めた女の子だったのだ。
それにしても、特殊能力【魔女】なんて聞いたことが無いぞ~……。
庭鳥さん、……あんた、一体どこまでスゴイ存在なんですか!!!
私が色々と考え事をしていると、ルルルは、飲み終わって空になったティーカップを机の上に置いた。
「……さて、話は以上ですの?……あら?貴方の紅茶が冷めてしまったようね、私の分を用意するついでに淹れなおしますわ」
ルルルは、そう言うと【念力】でティーセットを持ってきて、紅茶を淹れなおしてくれた。
そして、再び温かい紅茶で満たされたカップと一緒に、丸い小さなバッジが、私の前に置かれた。
「……これは?」
「今回渡すはずだった、賞状の代わりですわ。この私の国【ウラヌス】に貢献した人へ贈られる最大級の品物をプレゼントさせていただきましたわ。この国の施設を全て50%OFFで使用できる【貢献者のバッジ】ですの。受け取ってくださいな」
私は、バッジを手に取ると、よく観察してみた。
虹色に光っており、非常に綺麗なアンティーク調のデザインで、普通にファッションとして付けても違和感のない作りになっていた。
「可愛いわね~。どうもありがとう!」
私の言葉に、ルルルはにっこりと笑顔で返してくれた。
……『もしかしたら、私の転生術を改良できるのではないだろうか?』という淡い期待は、残念ながら見事に打ち砕かれてしまった。
どうやら、残りの年月でなんとかしていくしかないようだ……。
はぁ……、なんとかなればいいけどねぇ~……。
アダモゼウスが回収に来るまで、残り81年。
<今回の転生先で得たもの>
・友人【ラリファン・ルルル】
・時間、空間 魔法は、使えない。
・【天才】の知識。




