優雅なお茶会
「そんなところに立っていないで、こちらでお茶でもお飲みになりませんか?」
白い少女は、自分の目の前にあるテーブルの向かい側を手で案内しながら、そう言った。
不思議な家だった。
いや、これを家と言っていいのだろうか?
入ってすぐのところにあったのは、玄関ではなく、テーブルと椅子だけの簡易なスペース。
そして、周りには上を向かないと見渡せないほど大きな本棚の数々。
広大な本の迷路の休憩所みたいなイメージだ。
「ふふふ、私、本が好きなんですの。世界中の本を買い漁っていたら、こんなことになってしまいましたわ」
彼女は、自分の目の前にあったカップを手に取って、一口紅茶を飲んだ。
再度、私を促すように目の前の椅子へ手を差し伸べたので、私はその椅子へ座ることにした。
「ようこそ、我が屋敷へ……。とは言っても、無駄に大きい図書館みたいな感じかもしれませんけど……」
「いえ、素晴らしいですよ……。一度、貴方にはお会いしてみたかったので、誘っていただき光栄でございます」
私は、魂の眼に魔力を込めて、彼女を見る。
【霊視】という、相手の魂を視る魔法を使用したのだ。
すると、彼女から千を超える量の【魂糸】があちこちに伸びていた。
伸びた【魂糸】は、あちこちで働くメイドや執事に加えて、大きな屋敷を飛び回る箒や本やティーセット、その全てに刺さっていた。
「本当に素晴らしい。私でも【魂糸】を無理なく動かせるのは、千本が限界ですよ……。いや~、お見事ですね!」
私の言葉に、ピクリと彼女の眉が動いた。
「なるほど、貴方は相当の魔法使いのようですわね。私の師でも、千を超えてはいなかったんじゃないかしら?……紅茶ですが、よろしいかしら?」
彼女の【念力】で、ティーカップが運ばれてきて、私の前で止まる。
その中になみなみと紅茶が注がれると、それは静かにテーブルへ置かれた。
「そうですか。ZEROさん以上の魔法の素質をお持ちとは、本当に素晴らしい!」
私の言葉のZEROと言う部分に、ピクっと体を震わせて反応する対面の魔女。
そろそろ、こちらの思惑に気が付いてきたようだ。
「……師匠の事を御存じなんですわね?」
「ええ、四檻ちゃんや、月詠ちゃんも知っているわよ」
その言葉に、彼女は、フーっと困ったように深い溜息を吐いた。
「姉弟子までも知っているとは、驚きですわ……。貴方は、一体何者なんですの?」
「……私は、貴方と二人きりで話したい者です。宜しければ、私と二人でお茶会なんてどうかしら?」
「はい、喜んで……。私も貴方に興味が湧きましたので……。とは言いましても、元よりこの屋敷は、私以外に人はおりませんが」
「え?でも……」
私が、2階の本棚近くで掃除をする一人のメイドを見上げると、魔女は、指をパチンと鳴らした。
その途端、全てのメイドや執事が崩れ落ち動かなくなった。
そう、まるで糸が切れた操り人形の様に……。
「魔法の基本は、【魂糸】に有り!……、私が口を酸っぱくして唱えておりましたので、定説となった言葉ですわ。【魂糸】の使い方において、私より優れた生物は、存在しません!それぐらいの自負がありますの」
「……驚いたわね。まさか、この屋敷の使用人全て、【念力】による人形だったなんて。流石は、魔法に関して天才と謳われただけの事はあるわね」
「ふふ、お恥ずかしいですが、確かに魔法だけしか自信はありませんわ。お姉さま方にも、貧弱と馬鹿にされてましたしね。……で、話とはどのようなことですの?」
「その前に、私の正体を話しておきましょうか。私【ダルスティン・ローズ】は、ギフトの仮の姿なんですよ。まぁ、神様の使いなんで、魔法もそこそこ使えるってことなんです」
私の言葉に、キョトンとした顔をする魔女。
我ながら、雑な説明だと思ったけど、詳しく説明する義理もない。
大体のことが、『ギフトですので!』で通る世界にしてくれた、恭太くんに感謝だ。
「ふむ……、確かに、お師匠様、四檻姉さま、月詠姉さまには、ギフトが訪れたという報告がありましたわね。なるほど、あの建物は、ギフト達の憩いの場となっていたということですか……。色々と納得いたしましたわ」
うんうんと勝手に頷いて、自己解決してくれた。
やっぱり、魔女って頭が良いわ。
余計な説明が省けるから、本当に楽だ。
「あー。そういえば、気になったんだけど、なんで貴方は未だに【ラリファン・ルルル】を名乗っているの?ZEROから、もらった魔女名【十乃宮 二海】は、どうして使わないの?」
「……そこまで、知っているのは流石ですわね。貴方は、間違いなくギフト様なのでしょう。……それにしても、いきなりフレンドリーな話し方になりましたわね」
「私は、私の正体を話した人物には、基本的に敬語は使わないわよ。もっと、仲良くなりたいしね!気に障ったのなら、止めるけど……」
私の言葉に、ルルルがくすくすと上品に笑って、首を横に振った。
「構いませんわ。私も、ギフト様と仲良くなりたいですからね。……さて、貴方様なら、ご存知かと思われますが、ZERO様の弟子になるのは、【不老】の特殊能力に目覚めた少女のみとなっておりますわ。……私も姉達も、皆【不老】の力を持つ、寿命では決して死なない生物なのです」
「……うん」
「大抵の方々は、【不老】の能力を恐れられ、様々な方に虐げられた人生を送ってきたのですけど、私は違いました。私の【不老】に気が付いた上で、両親は私を愛してくれたのです。世間からは、隠されましたが、私は、父と母の愛情を受けて育ったのですわ」
「そうだったんだね……」
「はい。でも、その生活も長くは続きませんでしたの。……私の両親が老衰で亡くなったのですわ。私は、家を出るしかありませんでした。老衰で亡くなった年寄りの子供が、こんな少女だと分かれば、化け物扱いは免れなかったでしょうから……」
「……」
「その後、幸いにもZERO様に拾っていただき、魔女として生きる道を得ましたわ。……私は、ZERO様も両親も尊敬しておりますの。両方から頂いた名前を誇りに思っておりますので、ルルルの名前も、二海の名前も両方とも使用してますわ。まぁ、お姉さま方は、虐げられていた時代の名前をお捨てになって、ZERO様から頂いた魔女名を名乗っていましたけどね」
「そうだったんだ……」
「ええ、魔女としての役目をするときには、魔女の名前を……。普段のプライベートや、本などの出版物を出すときなどは、両親からの名前を使用しておりますわ。まぁ、大抵の方々が、単なるペンネームとしか思っていないと思いますけどね」
そう言って、ちょっとだけ寂しそうにルルルは、笑った。
私は、一口だけ紅茶を飲み、口の乾燥を潤した。
鼻から抜ける上品な香りと、ほのかな甘みがとても美味しかった。
「話とは、それではないですわよね?」
私に続いて、ルルルも紅茶を一口飲んだ。
「ええ、先ほどのは、単なる興味で、本題はこちら……。大魔法使い【ラリファン・ルルル】様への質問よ」
「なにかしら?大魔法使い【ダルスティン・ローズ】」
私は、一呼吸置くと、魔法の国【ウラヌス】の建国者である大魔法使いへ、ずっと教えてほしかった事を聞いた。
「空間魔法と時間魔法って使える?」
その言葉を聞いた時、ルルルの眉はハの字に歪んだのだった。




