祝いの席を設ける
「ひどいであります、卵さん!!この前、私を無視したでありますな!!!」
【サルト】で、ヌメっちとバーベキューを楽しんでいたら、唐突にファンちゃんが現れた。
その見た目は、巨大な蝦蟇蛙で、所々に苔が生えていた。
「え、どちら様?」
「ひっ、ひどい!わ、私であります!!」
スーッと、【擬態】が解けていき、いつもの可愛らしいファンちゃんが姿を現した。
「まぁ、知ってたけどね。……つーか、ヌメっちみたく【擬態】なんてわざわざ使うんじゃないわよ。せっかくの可愛い姿が台無しじゃない!」
「……地味に、蛙ディスるのやめてくれへん?」
もぐもぐと、焼けた芋虫を食べながら、口を挟む両生類。
この二匹、戦闘時や私と一緒の時以外は、【擬態】をして、姿を変えていた。
ヌメっちは、会話蛙の姿で、ファンちゃんは、【エンシェントフロッグ】の姿である。
前に理由をヌメっちから聞いたことがあるのだが、蛙の姿のほうが、相手が油断するからだそうだ。
【変身】と違って、【擬態】は体色変化によるトリックアートのようなものだ。
こちらからの見た目が変わるだけなので、姿を自然と同化させて隠れたり、相手を油断させるのが本来の仕様目的なのだが……。
「用途が正しくても、可愛くなくなるのは、いただけないわねぇ……。特に、ファンちゃん可愛いし……」
「あっ、ありがとうございます……」
「いや、蛙もかわええで?」
「はいはい、分かったから。……あれ?ヌメっちからは、【擬態】する理由聞いてたけど、ファンちゃんから聞いてたっけ?今、思ったんだけど、あの蛙の姿より、今の姿のほうが油断させるって意味なら適してるような……」
「ああ、私は、油断させるために【擬態】しているわけでは無いであります。……あまり、大きな声じゃ言えないのでありますが……」
「おっさんに嫉妬されないようにやろ?ホンマ、健気やのぉ~」
牛肉に手を伸ばしながら、ヌメっちが再度口を挟んだ。
「おっさん?……って、その肉は、大事に私が育てたやつよ!他のにしなさい!」
「ゲコッ!」
私が肉を死守しようと手を伸ばしたが、ヌメっちの舌のほうが圧倒的に速かった。
私が、タレを塗し、丹念に丁寧に焼き上げた牛肉は、ヌメっちの胃袋へ消えていった。
「どういうこと、ファンちゃん?おっさんって、誰かしら?……あ、ファンちゃんも食べて食べて!お肉なら、いっぱいあるから!」
「あぁ、いただくであります!……その前に、いいでありますか?」
「何?」
「……その、先輩を放してあげてください。私が、肉を焼くでありますから……」
私のお肉を食べたヌメっちは、私に無言で逆さ吊りにされていた。
【覚醒停体】&【念力】による、私の仕業である。
「食べ物の恨みは、恐ろしいのよ……。まぁ、今回は、ファンちゃんに免じて、放すけどね……」
放したけど、地面に横たわったまま動かないヌメっち。
結構、強めに【覚醒停体】打ち込んだからね。
あと、1時間は動けないでしょ。
「んで、話を戻しましょう。一体、どういうこと?」
「ああ、私は、【サルト】の北を守護する【エンシェントドラゴン】様の元で、片腕として仕事をしていたのであります。その仕事内容は、卵さんも知ってると思いますが、木草界の歴史をまとめることであります」
「あ~、そっか。私もあまり詳しくは聞いて無いんだけど、ヌメっちに鍛えられた後に、北の方へ修行に出されたんだっけ?」
もぐもぐと、お互いに肉を焼いては口に運ぶ。
大好きな白米を片手に、もりもりと肉と消化していく。
「そうであります。それで、その時に先輩からのアドバイスで、『竜種のおっさんは、プライドが高いから、蛙へ擬態するよう』に言われたのであります。それから、北の大地にいる時には、基本的には擬態して生活していますね~」
ふむ、【サルト】でも生物関係って、結構苦労するんだなぁ……。
まぁ、一番上の上司があの自己中植物だし、仕方ない気もするけどね。
「それで、この度【エンシェントドラゴン】さんがお亡くなりになりまして、急遽、私が北の守護者に選ばれたのであります。……って、そうでした!その時に、卵さんの気配を感じたので、急いで駆けつけようとしたでありますが、私を無視して消えるとは、どういうことでありますか!?私を嫌いになったでありますか?」
うるうるとした涙目で、私を見つめるファンちゃん。
「あー……、あれってファンちゃんだったんだね……」
私は、遙か昔の記憶を思い出す。
それは私が、【エンシェントドラゴン】へ転生した時の記憶。
あの時は、確か【エンシェントフロッグ】が、私の元へ来ていたから、慌てて逃げたんだっけ?
改めて、【エンシェントドラゴン】の【歩み】を確認してみるが、この人、ちっともファンちゃんのことを龍人と疑っていない……。
死ぬまでずっと、自分以下の存在だと認識してたわ。
……これって、前にもあったけど【歩み】の弱点なんだよね。
間違った知識でさえも、それが正解の様に教え込まれたら信じてしまい、間違った知識が正しい知識として【歩み】に吸収され、間違いに気が付けなくなってしまう。
ふむ、やはり色んな知識を組み合わせて、正解を探っていかないと、重大な間違いを犯してしまいそうだ。
それにしても、なんというか……色々と縁って繋がっていくものなんだねぇ~、うん!
「大丈夫、大丈夫!私は、ファンちゃんのことを嫌いになったりしないよ」
涙目のファンちゃんをぎゅっと抱きしめる。
うんうん、こんないい娘を嫌いになんかなるはずがない。
私は、彼女を安心させるべく、頭をゆっくり撫でてあげた。
「わわっ!……えへへ、恥ずかしいでありますな」
言葉とは、裏腹にファンちゃんは、嬉しそうに笑って目を閉じていた。
そこへ響く汚い両生類の声。
「あら^~」
……この蛙は、何故にこの幸せな空気をぶち壊すのが上手いのだろうか?
しかも、こいつ【覚醒停体】ワザと食らって寝転んでたわね……。
ヌメっちの視線の先は、ファンちゃんのスカートの中へ向けられていた。
「……」
私は、笑顔で拳を思いっきり振り下ろした。
「ぐえぇ!」
まさに蛙が潰れたような声を出して、ヌメっちは地面にめり込んだ。
【勝底密御】によるお仕置きである。
「さて、じゃあ~ファンちゃんの守護者就任式を盛大にやりましょうかね?好きな食べ物ってある?」
「あ、私は、木の実が好きであります!」
キャッキャッと手を取り合って、二人でパーティーの話で盛り上がる。
その間、スケベ蛙は地面に埋まったまま、白目を剥いて気を失っていた。
アダモゼウスが回収に来るまで、残り86年。
<今回の転生先で得たもの>
・記憶補填:【エンシェントフロッグ】=ファンちゃん
・【歩み】の弱点の再確認
皆様に読んでいただいたことが活力となり、お陰様で100話を達成することが出来ました!
本当にありがとうございます!
卵ちゃんの物語は、まだまだ続きますので、お付き合いいただければ幸いです。




