理不尽な神様
ん?
なんだ、ここ?
気が付いたら、私はその女の子の前にいた。
「フフフ、どうやら無事に成功したみたいねぇ~」
私の前に座っている少女が、にやにやといやらしい笑顔を浮かべた。
誰だろう、この女の子は?
……っていうか、ここはどこ?
キョロキョロと辺りを見回すと、そこは普通の部屋だった。
少女趣味の可愛らしい部屋だけど、光源が無いのか薄暗く奥まで見渡せない。
ただ私の近くには、浮かび上がる水晶玉があった。
いったいどういった原理で浮かんでいるのだろう?
「うんうん、意識もしっかりしているようねぇ~♪完璧な仕上がりのようで、安心したわん」
私が水晶玉を眺めていると、少女は両手で私を目の高さまで持ち上げた。
「初めましてね、私ぃ。私の名前は、【アダモゼウス】。この水晶の中にある世界【木草界】の神様をやっているものよん♪」
先ほどから変わらない嫌な笑みを浮かべたまま、少女は私に自己紹介をした。
ああ、どうも。
私は…………誰?
あれ!?
……私って誰だっけ?
「あははは!!!もしも、ゲームだったら名前入力画面が出ているところかしらねぇ~?残念ながら、ゲームじゃないからそんなもの出ないけど……」
目の前の少女は愉快で堪らないようで、自分の膝を叩きながら笑っていた。
先ほどから、笑みが絶えずに零れており、目尻に涙が溜まっている。
なんだよ、この女の子は!!
私を見て笑っているのだろうか?
だとすれば、随分と失礼である……。
「あはは、ごめんねぇ~♪まさか、ここまで見事に完成するとは思わなかったのよん♪さて、まず君に名前を付けましょうか~」
え、名前?
……もしかして、私には名前が無いの?
「いやいや、名前はあるわよ。【アダモゼウス】っていう名前がねぇ~♪でも、それだと私と同じで都合が悪いのよ。貴方は、もう私ではないのだから……」
頭の中が?で埋め尽くされる。
私には、少女の言っていることが少しも理解出来なかった。
「ま、色々聞きたいこともあるでしょうけど、とりあえずは名前よねぇ……。う~ん、そうねぇ……。よし!生まれたてだし【卵】ちゃんなんてどうかしら?」
エェ、何それ?
そんな美味しくいただかれそうな名前、絶対に嫌なんですけど……!!
「あぁ、そうねぇ~……。私自身、【卵】なんて名前付けられたら、ゲロ吐くくらい嫌だわぁ♪それじゃあ、可愛らしく【卵】って名前にしましょうか。漢字はそのままで、読み方が【らん】!」
あー、【卵】。
【卵】ねぇ……。
可愛らしい名前だと思うよ、うん。
読み方だけは……。
「それじゃあ、【卵】。あなたは、今日から【卵】ちゃんよ!おめでとう~♪」
パチパチと拍手をしながら、【アダモゼウス】と名乗った少女は、私への命名を祝福した。
ははは、ありがとうございます。
……って!違う!!
色々すっ飛ばしすぎでしょ!!
「……あぁ、貴方はある意味で生まれたばかりなのよ。順を追ってゆっくりと説明させてちょ~だい。きっと、分からない事ばかりでしょうからねぇ~♪」
え~っと、あんたは【アダモゼウス】だっけ?
神様やってんの?
「うん、そうよぉ♪この水晶の中に存在する世界【木草界】の神様やってまぁ~す♪」
そう言ってアダモゼウスは、私を水晶の近くに持ってくる。
水晶の中を覗き込むと、そこにはとんでもない大きさの木が生えていた。
巨大な木、その木の根を足場に暮らす人々、空を飛ぶ鳥、水晶の中には確かに【世界】が存在していた。
「見えたみたいねぇ~。これが、私の担当する世界!そして、あなたが旅をする世界ぃ~♪」
……ん?
それは、いったいどういうことなの?
このアダモゼウスとかいう神様の発言は、突拍子も無くて全然意味が分からない。
「とりあえず、自分の姿を確認するところから始めましょうか?」
アダモゼウスがパチンと指を鳴らすと、彼女より一回り大きな鏡が目の前まで移動してきた。
その鏡には、身長140センチほどの白髪に真っ白い肌の少女が、左手の上に青白い光の玉を持っているところが映し出された。
青白い光の玉は、まるで燃える炎のように光を纏って……って、あれ?
「そう、これがあなたの姿よん♪」
……どうやら、この青い光の玉が私のようだ。
ある意味では、非常に綺麗なんだけど……これって何?
私の存在って、何なのよー!!
「貴方は、私の魂を……半分にした存在なのよ。神様の魂2分の1個が、あなたの正体。どう?理解できたかしらぁ~♪」
……………………は?
なんていうか、言葉が出てこない。
既に私が処理できる情報量を超えたみたい。
私は深く考えることを放棄して、ただこの少女の話に合わせることにした。
「私にはある目的があって、魂を2つに分ける研究をしていたのだけど……。苦節……あれ?……何年だったかしら?……もう、遠い昔のこと過ぎて忘れてしまったわ。……ま、いっか!そんなわけで、ついに成功して、貴方を生み出したわけよん♪」
へー、すごいっすねー。
「まぁ~ねぇ!私は神だからねぇ!基本的に出来ないことはあまりないのよねぇ~♪」
無い胸を張ってドヤるアダモゼウス。
っていうか、私の半身ってことになるのかな?
なんで、わざわざアダモゼウスは、こんな面倒臭いことをしたのだろう?
彼女の半身のはずなのに、私には彼女が何を考えてるか全然分からなかった。
「ああ、私の本当の目的部分は、卵ちゃんの記憶から消去させてもらってるわよぉ~?バレたら嫌だしねぇ……」
……え?
それは、なんで?
「そ・れ・は・内緒ぉ☆彡」
アダモゼウスは私に向かって胡散臭いウインクをしてから、クスクスと笑った。
何かすごく嫌な予感がした。
私が生み出された理由。
それが、とんでもなく面倒くさそうな意味を持っていそうな……そんな嫌な予感。
「ほぉ~……!さっすが、私の魂ちゃん!!嫌な予感大的中!!大正解~♪」
……おい、正解しちまったぞ!
誰か!正解の御褒美に、旅行券でもプレゼントしてちょうだい!!
「くっくっく、旅行券ねぇ~♪いいわぁ~、私がぁ~、それをぉ~、プレゼントしちゃうわねぇ~♪」
お、意外と話が分かりそうな女神様だったようだ。
どういう意味かも理解しないまま、私はワクワクと旅行券を待った。
すると、次に聞かされたのは、またしても突拍子もない言葉だった。
「じゃあ早速、卵ちゃんには、色々な生物へ転生してもらおうと思いまぁ~す!」
……はい?
思考が止まった。
「死んで魂が抜けた生物に、魂の卵ちゃんを送り込むのぉ~♪すると、卵ちゃんはその生物に転生することが出来るんだよぉ~♪」
……ばぶー?
「『転生した生物の一生を理解する』こと!これが、卵ちゃんの旅の目的になるわ。大丈夫、その為の力は授けてあるから!……但し、一つだけ注意点があるわ!元々死ぬ予定だった生物に卵ちゃんを入れて強制的に生き永らえるから、24時間しか活動出来ないのよ。そこの所だけは、注意してねん♪」
……ちゃーん?
「知らないだろうから、教えておくわねぇ~?魂って強化出来るのよん♪魂が精神力の塊なのは、【木草界】では常識なの。分かる?魂だって 修 行 出来るのよぉ~!!!」
……あぁ、クソ!
こんなどうでもいい所で、ようやくアダモゼウスの考えが読めてしまった!
この女神、私を使って自分の魂を強化するつもりだ!
魂の半分である私を、【木草界】の様々な生物に転生させて、知識と経験で修行させる気だ!!
「あ~っはっはっはっはっは!!!ピンポン、ピンポ~ン!正解、正解、大正解!さぁ~てと、正解者には、旅行券をプレゼントしなくちゃねぇ~♪」
そう言って、アダモゼウスは私を水晶玉の中へ押し込もうとした。
ひぃ~、せっかくの正解のプレゼントなのに、ちっとも嬉しくな~い!!
「あ、そうだったわぁ。……さっきも言ったけど、24時間経過すると強制的に他の生物へ転生するから、気を付けることね!あと、24時間以内に死んでも強制転生が発動するから、安心して ……死・ん・で・ね☆」
簡単に言いやがってぇええええええええ!
いつか痛い目見せてやるぅうううううううう!!
「あははは!それじゃ、転生旅行へいってらっしゃ~い!」
アダモゼウスの軽い「えいっ!」と言う掛け声とともに、私は【木草界】に放り込まれた。
急速に体が落ちていく感覚と共に、目の前が真っ暗になっていく。
生後、およそ10分。
獅子は、生まれた子を谷底に突き落として、上がってきた子を育てるって話があるけど……。
世界へ突き落された魂って、恐らく私が初めてなんじゃないだろうか?
こうして、私の非常に過酷な転生生活が始まったのだった。
<卵ちゃんイメージ>




