コスモニート~宇宙穀潰士~
俺が選ばれた。
地球には数年前から大量の隕石が降り注いでいる。
現在の地球の人口は30億人と言われているが、定かではない。安否不明の人が皆死んでるとしたら、もっと人口は少ないだろう。兎に角たくさん死んだ。
今までで最大級の隕石が地球に迫っている。
これが落ちたら、もう人類は終わりかもしれないとニュース番組が告げている。
国境を超えて巨大隕石対策チームが組織された。
やることは簡単、核爆弾を積んだロケットで隕石に突っ込む。それだけだ。
※ ※ ※
俺は日本の片隅に住むただの穀潰し、ニートだった。
巨大隕石対策チームはロケットのパイロットを公募していた。
ちなみにこのミッションは自爆なので、地球に生きて帰って来れない。
だが、相当な数の志願者が集まったらしい。英雄願望が強い奴らか、自殺願望が強い奴らか知らないが。
俺はどちらかと言えば後者にあたるが、ぶっちゃけ冷やかしのつもりだった。
が、なんということか選ばれてしまった。
※ ※ ※
俺は世界的に有名なシューティングゲームのトップランカーだった。
これが選考の理由かどうかは分からないがそうだとすれば、現実とゲームは違うだろと、ニートの俺でも突っ込みたくなる話だ。しかも、今回のミッションはロケットごと突っ込んで自爆だ。こんなの初心者シューターでも外さないだろ。
モニターにあと3時間と表示されている。隕石到達まであと3時間ということだ。
ロケットの進路を微調整する。地球との通信は隕石の影響で乱れている、自力でやるしかない。なに、簡単、簡単。もうだいたい位置は定まったからこのまま突っ込むだけ。
ああ、そうか。
「俺、あと3時間で死ぬんだな」
※ ※ ※
地球を旅立つ時、見送りに来た父親と母親は”お前は誇りだ”と言っていた。嘘つけ。散々おれを邪魔者扱いしたクセに何が誇りだ。むしろ埃のように思っていただろ。
俺に冷たかった兄夫婦も急に態度を変えて泣く芝居なんかしてさ。お前らって元演劇部か何かか?
お前ら実家の連中は、世界を救う為に旅立った勇敢な男の家族の称号と、たくさんのお金を手にしてホクホクだろうが。
見送りの時、態度を変えずいつもどおり接してくれたのは愛犬のシロだけだよ。俺はお前を救えることだけが誇りだよ。他の地球上の奴らは皆死ねばいいと思ってるよ。
※ ※ ※
「ワン!」
シロの鳴く声。なんだ、死の間際の走馬灯が始まるのか。早くないか?まだ2時間もある。いや、まてよ。
操縦席後ろのドアを開けると、そこにはシロが居た。
「なんだシロ。まさか、着いて来ちゃったのか?」
「ワン!」
俺の顔を舐めまわすシロ。
「そうか、来ちゃったか・・・」
隕石が目の前に迫っている。たしかに目前にするとデカイ。こいつが地球に落ちたとしたら大変なことになるぞ。確かになぁ、俺は今まで何かひとの役に立つようなことしてこなかったからなぁ。まぁ、親はともかく他人に迷惑はかけてないつもりなんだが。そんなこと言っても”税金も納めてない穀潰しが何を言う”って一蹴されるだけだろうな。
俺だってね、人の役に立ちたいと思っていたことはあるのよ。大学受験失敗した辺りからかなぁ、心の中の何かが折れちゃったのよ。で、第二志望の大学に入ったけど馴染めなくて、それから就活でも失敗しまくって。って、俺の回想はもういいか。だって、これで帳消しだよ。俺が何万人の命を救おうとしてると思ってるのよ。帳消しどころかお釣り貰わないと吊り合わないよなぁ?シロ。
俺の独り言にシロは首をかしげるだけだった。
「なぁ、シロ。俺とどっかの星で一緒に暮らすか?」
シロは嬉しそうに尻尾を振った。
「そうか!」
俺は進路を変えた。