第五話 堕ちていく~11月25日~
「お父様、今日はお話が」
「どうした? 」
のんびりと昼食をとっていたお父様に話しかける。少し勇気がいった。
「その、ツェンとの婚約を解消したいのです」
「……構わないが、今から相手は見つからないと思うが。フォルツェ家のユイやユナは別の男性と結婚すると聞いたばかりだ。リルシェもそうだと」
「……いいのです。結婚できなくても」
お父様は立ち上がり、思い切り私の頬を叩いた。
「お前が結婚しなければカーン家は滅ぶのだぞ! カトレア姉様もリハイデ姉様もいない今何を……! 」
「それでは、跡継ぎをどうにかすればよいのですか? たとえ兄と妹でも」
「それはダメだろう」
「ハーソンはリハイデ伯母様の息子と聞きましたよ? 従兄とならいいんですか」
「……」
お父様は静かに座った。やはり当たったようだ。
「……知らんぞ、ハーソンが怒っても。あいつがヴェルナと結婚したいと言ってきたのだから。リュメヒ家を敵にするぞ」
「いいように利用されるよりましかと」
私はそのまま庭園に出た。すると、玄関に誰かがいた。
「おや、君がヴェルナの兄か」
「なんのようだ、ハーソン」
「ヴェルナが会いに来てくれなくて寂しいんだ」
「バカだな」
「もう1ヶ月だ。見張りさせていたが、寂しそうにしていたそうじゃないか」
「それはだな」
ナイフが飛んできた。まだ誰かいるのか。
「じゃあ、理由を聞かせなさいよ」
「誰だ」
「いいから理由」
ナイフを二本も突きつけてきた。何本持っているのだろうか。
「見たところ君も女性のようだが分からないのか? 舞踏会の時のこと」
「は? あんな浮かれたバカを見て寂しい? 意味分からないわ」
「婚約者を選べる幸せ。それをかみしめることなく結婚するのだからな」
「よく分からないわねえ。ハーソンはヴェルナと結婚したいのよ。いいでしょ」
「お兄様~」
ちょうどヴェルナがやってきた。ま、まずい!
「どうかな? 新しい服をユイから貰ったの。えへへ」
「「似合っているよ」」
「ありがとう、お兄様」
ご機嫌そうにヴェルナは戻っていった。ハーソンには気づかずに……。
「どういうことなんだ……」
ふらふらとハーソンは帰っていった。名の知れぬ人も。




