第四話 孤独な蝶~11月2日~
婚約者であるツェンは美しいが、ヴェルナには劣る。
「今日も楽しかったわ。また来てくださるかしら」
「ああ、もちろんだ」
未だに結婚に踏み切れないのは、ヴェルナのことがあるからだ。ヴェルナに気持ちを聞くまでは結婚しないと決めているのだ。
「今日は舞踏会だから早めに帰ろう」
「承知しました」
今日こそは、聞かないと。いい加減にしないとツェンに怒られてしまう。
「お帰りなさい、お兄様! 」
「ヴェルナ! 」
ヴェルナを抱きしめる。口調もハーソンと過ごすうちに丁寧になったようだ。少し寂しい。
「今日は舞踏会だな」
「楽しみだわ」
「あたしも踊っていいの?」
「あなたはダメよ」
悪魔がいた。こいつ、また出てきたのか。
「じゃああたし、友達のところに行くね」
「あ、うん」
「ヴェルナ、今日の舞踏会は一緒に踊ろうな」
「もちろんですわ! 」
ハーソンに気はないようだ。安心した。
舞踏会にはリルシェ(ト・モル公爵の娘)やユイ(フォルツェ公爵の娘)、ツィイー(リュメヒ公爵の従兄弟の娘)もやってきていた。
「ユナお姉さまが来なくてすみません。本当に……」
「相変わらず逃げてるのかしらあのバカ」
ツィイーとユナは親同士が仲が悪いため、仲良くしようとしない。ユイはそんなの気にせず、仲良くしているようだが。
「二人とも、ほら早く踊りましょう? あちらにすてきな方々がいらしてよ」
「まあ、そうだわ」
ヴェルナは一人でぽつんと座っていた。
「ヴェルナ、踊ろう」
「ええ……」
悲しそうにほほえむヴェルナは立ち上がった。そして私に抱きついてきた。
「ヴェルナ、まずい」
「……お兄様、私はもう抑えきれないのです」
「……」
もう、その一言で十分だった。そっと抱きしめた。




