第一話 許嫁~59年10月26日~
今日は許嫁のお家まで向かう。とは言え、家から1日以上かかるらしいから既に王都にいた。シェフがいたから錯覚しちゃった。
「東に時間、か」
「結構かかるのねー」
馬車に揺られ、やってきたのは立派なお屋敷。お腹がすいた。
「どうもこんにちは、ハーソン=リュメヒです。リュメヒ公爵の息子です」
「こんにちはー」
私はぺこりとお辞儀をし、さっさと中に入る。お腹がすいた。
「何しているのですかヴェルナさん」
「お腹がすいたんです、お食事を」
「ええ、用意してあります。君が誕生日ということもあり、豪勢です」
「やったー! 」
私は食間で待つ。すると出てきたのは昨日塩焼きにして食べたレムアが蒸し焼きになっている。あまりオススメできない調理法。案の定、美味しくなかった。
次に出てきたのはパトレシアの炒めもの。味付けがかなりヒドい。貴重な野菜パトレシアがずさんにあつかわれている。
パンはパサパサしている。デザートも美味しくない。
「どうしたのですか」
「……こんな料理初めてです」
「誉めてくれてこ」
「こんなまずい料理よく食べれますね! 料理の基本がなっていません」
「……そこまでけなさないでください。どこがまずいのですか? 」
「レムアは塩焼き以外オススメできません。パトレシアの炒めものの作り方もおかしいです。それにパンもパサパサしています」
「私にはよくわかりませんが、あなたにはそう捉えられるのですね。改善する努力はします」
私の態度にリュメヒ公爵さんはキョトンとしている。しかし、お父様は深くうなずいた。
「どういうことですか? カーン公爵」
「レムアは調理法は塩焼きのみ、パトレシアの炒めものにはレモンを必ずいれること、パンは朝に持ってきてもらうこと、そして、初めてのお客様が来たらベレツオのトマト煮込みを出すこと」
「……我々はとりあえず食べれて生きれればよいのです。まあ、1週間あります」
1週間も耐えれない。早起きして作るしかない。
「それでは二人だけにしましょう」
「そうですね」
残されて不安になる。一応完食したけど、これからどうしよう。
「リュメヒ公爵、私のお父様のことはどう思いますか? 」
「うーん、あなたにそっくりだなあって」
「そうですか。ちなみにお誕生日には何が欲しいですか? 」
「幻のお魚・ディアースが食べたいです! 」
「……」
あれ? 黙られてしまった。おかしいのかな?
「君の価値観はよく分からないな。普通なら宝石を望むはずだが」
「宝石? 」
「箱入り娘すぎるなあ、困ったものだ」
キラキラしたキレイなもののことかな? お母様が持っていたあれ?
「おやつまで庭園を散歩しましょう」
「まあ、おやつ! どんなおやつですか? 」
「ラメロドス」
「……私、自分で作ります。2時になったら厨房まで案内してください」
「え」
庭園はキレイ。本当にスバラシイ。でも、お食事の腕も態度もおにーさまの方がいい。
「つまらないですか? 」
「……別に、そんなことは」
おにーさまに会いたい。しばらくは耐えなければいけないのかしら。
「そういえば料理以外に得意なことはありますか? 」
「お洋服を作ったり、本を写したりができるの」
「なるほど」
それにしても、生きていければいいと発言していたけれど、そんなつまらなくていいと思っているのかしら。
「おやつを作りたいと言っていたようだから特別に厨房に入らせてあげよう」
「ありがとうございます」
厨房はまあ、悪くはなかった。さっきこっそり庭園で摘んだ木苺でムースを作ることにする。
「それは木苺か? 」
「おいしいんです」
とは言え、材料も安っぽく、上手くいかなかった。残念。
「いただきます」
ちょっと違うけど美味しい。えへへ。
「ピンク色でとてもまずそうだな」
「あなたには分からないの! 」
ちょうどお父様たちが戻ってきた。
「なあ、木苺摘みたいな」
「まあ、お父様も! 」
気がとてもあうわ!
夕食は相変わらず悲惨。変える気すらないようだ。でも、かまわない。逃げればいいのだから。




