第十八話 物書きとコック見習い~6月27日~
海が見える素敵な場所で結婚式をあげ、私達は放浪の旅に出た。そうするのが一番だと感じたのは、あることを聞いてしまったからだ。
──カーン公爵、愛人に騙されたらしいぜ
──本当か?
──ああ。カーン公爵、行方不明だってさ。今はその愛人の父親が公爵だってよ。
──それは困ったなあ。
──だよなあ。
お父様の生死が分からない今、留まって生活すれば恐らくユリエさんの魔の手が伸びてくるだろう。
「本、上手く書けてる? 」
「あ、リハイデ」
「そろそろ休憩にしようか」
世間も私達を行方不明の公爵の子供だときちんと理解してくれているのか、きちんと放置してくれている。お兄様──リハイデなんて王宮でコック見習いをしていた。
リハイデは私の側に座り、私に紅茶を差し出した。
「お父様について調査はすんだの? 」
「それが、あまりのガードの堅さに苦戦しているんだ。恐らくあのリュメヒ家が関わっている。となると話は別だ。ヴェルナが向き合えるようになるまで残酷な真実は探らない方がいいと思うんだ」
「そう……」
リュメヒ家。彼らは裏で何をしているのだろう。再び訪れるのが怖くてリュメヒ領にすら足を踏み入れていない。
「そろそろ定住地を決めようか」
「……え」
「そうしないと、赤ちゃんにも悪いだろ? 馬車は揺れるからな」
「でも、」
「海を渡った先に素敵な場所があるらしいんだ。そこにお店を開きたい」
「……いいよ。お店、夢だもんね」
「ああ」
将来のことをきちんと考えてくれている。やっぱりしっかりしているなあ。
お兄様──リハイデは笑顔のまま手を握ってくれた。




