第十五話 華
夕食の時間になり、私は目の前の彼女の言葉を未だに信じられないまま夕食を食べることとなった。お父様たちはもうすぐ帰ってくるはず。
彼女は私が座る席の目の前に座った。かつてのお母様の席。
「美味しいわね。ほら、ムスッとしないで。あたしに怒っているだろうけれども」
「あの、お母様がどこにいるか、知ってますか」
「……会いに行くの? 」
「はい。会いたいです」
「……無理だと思う。隣国よ? それに彼、許さないだろうし」
お母様が、隣国に。いくら親しくても行けない。
彼女は微笑み、また食べ始めた。
「お、ユリエ。来てたのか」
「あら、お帰りなさい」
「お、お母様……」
「リハイデ! 久しぶりじゃないの」
お兄様は怒っている感じだった。席にも座らず、部屋に戻っていった。
「……私、お兄様の部屋に行くわ」
「え? 」
食べ終わったので、お兄様の部屋に行くことにした。
「お兄様、どうしたの? 」
「逃げよう、ヴェルナ」
「え、ちょっ」
理由が分からなくて混乱する。むきゅう。
お兄様は座るように、とイスを出してきた。
「私のお母様は危険だ。諜報員として王宮にいた」
「それじゃあ、入れ違いになったのも」
「ああ。私と会わせないためだ。リュメヒ家、あそこも諜報員がいるからな」
「……ここに居座る気になったのも」
「私とヴェルナを引き裂くためだ」
お父様は勝手にしろ、という感じだったのに。ずるいよ。
泣いている私にお兄様は言葉を重ねる。
「世間知らずに育てたのも策略だ。お祖父様を越えるべく、な」
「そんな、お父様は優しいわ。いつも優しくしてくれて……」
「ヴェルナ、人を信用しちゃダメだ。特に公爵家、王家の人間と関わる人間は」
「……お兄様は信じていいの? 」
「もちろんだよ、ヴェルナ」
お兄様は私を抱きしめた。私はお兄様の腕の中で散々泣いた。




