緑の庭
黒ネコのルウルウが、レンガに小さな穴があいているのを見つけたのは、昼さがり。
ツタの葉っぱに半分かくれていたけれど、ほっそりとしたネコなら、かんたんに通れるくらいの大きさだった。
野原のまん中に、その家は、一けんだけ、ぽつんとたっていた。
前から気になってはいたけれど、レンガの塀は、とてもネコが飛び上がれないほどの高さ。だから、庭に入りこむのは、これがはじめて。そっと体をすべりこませると、
「ニャアゴ」
緑色の目で、用心ぶかく、あたりをながめた。
いちめんの芝生は、午後の陽ざしをあびて、金色にかがやいて見えた。たった今まで、だれかが遊んでいたように、ぶらんこがゆれていた。
きいっ。
きいっ、
という音にまじって、小さな女の子の笑い声が、聞こえたような気がした。ルウルウは、ぴんと聞き耳を立てた。
だれもいない……
緑の庭は、赤いレンガでできた、大きな家まで続いている。家もやっぱり、緑のツタに半分かくれている。
陽ざしの中、しのび足で庭のまん中あたりまで進んだとき、ルウルウは、またくすくす笑う声をきいた。ふりかえると、まっ白い服を着た女の子が、そこに立っていた。
「きれいなネコがいるわ」
さしのばされた指が、小さな頭にふれるのを、ルウルウは、おとなしく、まっていた。まるでガラスでできているように、女の子の指はひんやりと、かたく感じられた。
緑色の目を細めると、その子は、楽しそうに肩をゆすった。白い大きなリボンが、チョウのはねみたいに、頭の上で、ふわり、ふわりとゆれた。
それからルウルウは、夕方まで、女の子のひざにだかれて、ぶらんこにゆられていた。
やわらかい陽ざしをあびて、うとうとと眠っては、目をさました。そのたびに、やっぱり、白い、ふぅわりとしたスカートの上にいたし、
きいっ。
きいっ、
と、ぶらんこはゆれていた。
ルウルウはまた、うっとりとまぶたをとじた。ふと、夜のにおいを感じて、目を開けると、ぶらんこはもう、止まっていた。
女の子は人形になっていた。
ぱっちりと見ひらいたガラスの目。そこにうつっている空に、二つ、三つ、星が光っていた。
庭を横ぎって、レンガの穴をくぐろうとしたとき、うしろで女の子の笑う声を、ルウルウはたしかにきいた。
「また遊びましょうね」