タマゴの行進
パレードが通るといううわさをきいて、ぼくたちは、サボテン大通りへ出かけた。
うそかもしれないと思っていたけれど、黒ネコのルウルウを抱いていなければ、はぐれてしまいそうなくらい、歩道は人で、にぎわっていた。
人ごみの中を泳いで、並木のかわりに、にょっきりと生えている、背の高いサボテンの間からのぞきこんだ。道のまん中だけ、みょうに、ひっそりとしていた。
向かいの歩道からも、ぼくたちと同じように、サボテンの間から、たくさんの人たちが顔を出して、道のまん中を見つめていた。
「いたい、いたい」
「おすな、おすな」
あっちからも、こっちからも、そんな声が聞こえてくる。
うっすらと、空がむらさき色に染まり、星が二つ三つ、光りはじめるまで、ぼくたちは待たされた。
まわりにいる人たちの顔も見えないほど、あたりは暗い。なのに、道のまん中だけが、ぼうっと白く光って見えた。
もうだれも、「いたい」とも「おすな」とも、さわがなくなった。
まばたきする音が、きこえそうなくらい、歩道は、しんと、しずまりかえった。
そのうち一人が、
「やっぱりパレードなんて通らないんだ」
そうつぶやくのを合図に、見物人たちは、ぞろぞろと帰りはじめた。
今の声が聞こえるはずもない、向かいがわの歩道でも、同じように、人たちが動きはじめていた。
やがて、夕やみのにとけてしまったように、あれだけ大ぜいいた人の姿が見えなくなった。ぼくとルウルウが、いっしょに目をパチリとさせたのは、そのとき。
見れば、道の両がわに並んだサボテンが、ネオンみたいに、ぼぅっと、緑色にかがやいているんだ。
ぼくはなんだか、こわくなってきた。
(早く帰らなくちゃ)
そう考えていると、パレードが来るはずだった、大通りの端のほうから、
カラカラ、
コロコロ、
軽い車輪の回るような、変な音が聞こえてきた。
たくさんのタマゴが、大通りをころがってくるのだった。
赤やむらさきや緑に、うっすらと光りながら、コロコロころがるかと思えば、ポンと飛び上がり、おたがいにぶつかって、カチンと音をたてた。
赤やむらさきや緑の、小さな火花がパッと、ちった。
タマゴはみんな、ガラスでできているみたいに、つるりとして、少しも割れていなかった。けれど、中身が入っているのなら、あんなふうに鳴るわけがない。
(もしかしたら、からっぽな中に、小石が入っているのかもしれない)
ぼんやりと、そんなことを考えているうちに、タマゴたちはコロコロ、楽しそうに通りすぎて、やがてサボテン大通りの向こう側へ消えていった。
見わたすと、まわりにはもう、だれもいない。
どうやらパレードを見ることができたのは、ぼくたちだけみたいだ。