小人ロボット
ゼンマイで動く汽車ができたというので、黒ネコのルウルウといっしょに赤コウモリ駅まで見に出かけた。
ついたころには陽が暮れはじめていた。うす紫色の空の下に、砂漠の国の帽子みたいな形の屋根が、黒く浮かんだ。その上で、コウモリのマークが赤く光っていた。
駅には、たくさんの人が集まっていた。けれども、来ると言っていた同じクラスの子の姿は、ひとりも見えない。おとなたちは、みんな寒いのか、体がふくれるほど服を着ているから、小さな駅が、よけいせまく感じられた。
ぼくたちは細長いプラットホームに立っていた。目の前に止まっている列車はなかった。みんな口々に、
「汽車はどこから来るのかね?」
と話しあっていたけれど、そのうち誰かが、向こうを指さして、
「あれがそうらしいぞ」
と言った。
見れば、並んだレールの奥に、木でできた小屋があり、外灯が一本、ぽつんと前に立っていた。黒く、まるい笠の下から、オレンジ色の光がこぼれて、小屋の、しめきった黒い窓や、レールの間にはえた草などを照らしていた。
なにか黒い大きなかたまりが、そこにうずくまっているようだ。
ぼくは、ルウルウを抱いたまま、背のびをして、目をぱちぱちさせた。
最初、細長いクジラのように見えたものが、どうやら、ゼンマイじかけの汽車らしい。前の部分はエビの顔とそっくりだけれど、ずっと、のっぺりしていて、アンテナや、大きなボールの形のライトが、ふたつずつ、つき出ていた。
客車は、とても短く、潜水艦みたいな丸い小窓が並び、うしろには、平たい尾ヒレのようなものがついてる。
これが大きなゼンマイなのだった。
それにしても、試運転されると聞いたから、見に来たのに、あんな倉庫の前に、ほったらかしにしてあるなんて。
「今夜は動かさないつもりだろうか?」
ルウルウに、そうささやいたとき、とつぜん小屋のとびらが、ポンと開いて、制服の下にワタを入れたみたいに、体が丸く見えるほどふくらんだ駅長さんが出てきた。
帽子をちょこんと上げて、こちらへ、あいさつすると、ピピピピッと、笛をふいた。
すると、小屋の中から、今度は背たけが駅長さんの半分くらいの、やっぱり体が丸い人たちが、次々と出てきた。赤や緑や青のピカピカ光るボールから、えんぴつみたいに細い手足が生えたよう。白くて丸い頭には、体の色と同じ、円筒形の帽子が、ちょこんと乗っていた。
「ごらん、ルウルウ。あの人たちも、ゼンマイじかけだよ」
丸い小人ロボットたちは、駅長さんの横に、ずらりと並び、いっせいに、ちょこんと帽子をとった。短いヒゲをひねりながら、駅長さんが、せきばらいする。
「えー、オッホン。つまり、こういうわけですナ。列車が動かるほどの大きなゼンマイは、これはとても、一人や二人の力では、回すことができません。しかしながら、ホイ!」
肩をたたかれ、となりにいた小人が、くるり。後ろを向いた。 銀のチョウの羽根みたいなネジが、背中で、ゆっくりと動いていた。
「これッくらいのネジなら、ワガハイひとりでも簡単に巻けるわけでして。エー、これを十個も集めれば、あの大きなゼンマイも動かせるというわけでアリます。ピピピピピッ」
笛の音をきいて、小人ロボットたちは、かっけこでもするように同時に走りだし、わらわらと汽車の尾ヒレに飛びついた。両側から五人ずつで引っ張りあうものだから……
「これではとても回るわけがないよ」
あきれて、ぼくはつぶやいた。
「アー、コラ。コラッ。そんなに強く引っぱっちゃイカン。アー、コラ、そうは言っても、回すのをやめちゃイカンぞ。アー、しょうがいないナ、こまったナ。ワガハイも手伝うぞ、ホイッ!」
駅長さんは腕まくりして駆けだすと、ネジの向こう側を押さえ、こっち側を引っぱり、行ったり来たりしながら、ふうふう、汗をかいている。
ぼくは、こらえきれずに、くすくす肩を揺すった。ほかの人たちも笑いをこらえているらしく、まわりが小きざみに揺れていた。
ネジは少しも動かないまま、駅長さんが、とうとう尻もちをつくと、帽子のてっぺんが外れて、中から白い蒸気が勢いよく吹き出した。
ポォーーーーーッ。
汽笛みたいな音が、いつのまにか月がのぼっていた空にとけた。
少したってから、みんな大声で笑いだした。