リア充が爆発する世界
目の前でリア充が爆発した。
何が起きたか一瞬わからない。しかし目の前のリア充は確かに爆発したのだ。
進むのが遅かったリア充を抜かそうとしていた鈴木君はボンバーヘッドになっている。
呆然としていると後方からもチュドーンと爆発音。振り返ると地面が黒こげになっていた。
何ぞ……?
その疑問を心で唱えている間も四方八方から爆発音がしている。
携帯に着信が入る。同じモテない仲間の一人、田中君からだ。
「お、おい、目の前で人が爆発したんだけど!」
「落ち着け田中。今こそ冷静になるべきだ。どこかで合流しよう」
建物の中にいると爆発の影響で火事が起きるかもしれない。
なのでモテない同盟の一人、佐藤君の寮部屋で集合することにした。
「おお、二人とも来てくれたか」
緊急事態にも関わらず佐藤君は部屋に招きいれてくれた。ちなみに俺と田中君は煤まみれだった。道中、リア充の爆発に五度程巻き込まれたからだ。爆発の影響でガラスが割れて上空から降ってきたときは流石に死を覚悟した。
「何が起きてる」
田中君が訊いた。
「とにかくこれを見てくれ……」
凄く……大きいテレビです。
いや注目すべきはそこじゃない。問題は内容の方だ。
『現在、世界中で人が前触れなく爆発をしています! 原因は不明! 各国の首脳がこの問題に対して緊急議会を行うということですが……各国の首脳の半分以上が爆発したとの情報です!』
チャンネルを変えてみる。どの番組も謎の爆発現象を取り上げている。
『人体発火はありえるのか専門家の方に聞いてみましょう』
『これは通常の人体発火ではありません。いわゆるリア充――恋人を持つ者が爆発しているのです』
『何言ってるんだあん――』
突っ込みを入れようとしたニュースキャスターが爆発し、画面が暗転した。
「どういうことだってばよ」
「リア充爆発しろとは思ってたけどこんなことになるなんて……!」
二人が真剣に考えてる間、俺はあることを思い返していた。
昨日の夜のことだ。コンビニに寄った帰りにクラスのイケメン君があの子は絶対清楚だろう!と思っていた女の子と二人でイチャイチャしていた。
現実を知った俺は心の中でリア充爆発しろ!と願った。その時ふと夜空を見たら流れ星が空を横断してたので後二回ほど爆発しろ!と心の中で思った。
つまりこの現象の原因は――俺か!
やべえやっちまった。
「しかし幸いだったな。リア充の本当の意味はリアルが充実している人間――つまり恋人がいなくても友達がいたりして人生満喫してることだ。そっちが適用されてたらもっと大勢の人間が爆発していた」
「あ、ああ……そうだな」
本当の意味を知らなくて良かった。
「とにかく、俺達のもう一人の仲間、山田君も招集しよう。彼がいればこの事態をどうにかするきっかも生まれるはずだ」
佐藤君の提案で山田君に電話をかける。しかし出ない。
「くそっ、何で……!」
「……確かあいつ、用事があるから学校に残るって言ってた」
彼に最後に会った時の記憶を語る。
「……となると、今も助けを求めてるってわけか」
「学校に行こう! 我らの仲間を助けに――この壊れた世界でも壊れないものがあると世に思い知らせてやろう!」
俺達は立ち上がる。死ぬかもしれない。けれど、仲間のためには逃げてはいけないこともある。
さらばわが嫁達――彼の部屋に飾ってあるフィギュアに敬礼して俺達は戦場へと走り出す。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
学校に着いた。三人だった俺達は二人になってしまっていた。
道中、佐藤君が今にも爆発しかけているリア充の近くにいた幼女を助けるため――彼は身を挺して幼女を守ったのだ。背中に大やけどを負い、「俺はやり遂げたのか……?」と幼女に問いただしてる時、幼女が嫌そうな顔をしていたのを俺は忘れない。
先にゴールしてしまった佐藤君のため、俺と田中君は学校を走る。
「お前ら無事だったか!」
廊下を駆けているとクラスのイケメン君――昨日俺があの願い事をしたきっかけになった彼が話しかけてきた。
「お前の方こそ無事だったのか!」
「ああ、何とかな!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。何で爆発してないんだ? 昨日女の子と一緒にいるのを俺は見たぞ!」
「ああ、彼女、山田君が好きらしくてね。俺に相談してきてたんだ」
何……だと……?
じゃあ、俺が、俺が叶えてしまった願い事は――一体何のために存在していたというんだ!?
「ん? ちょっと待て。その山田君とはクラスの山田君のことか?」
絶望に打ちひしがれていると、田中君がそんな言葉を発した。
「勿論だ。あの子は今日山田君に告白するって言ってたから、きっと山田君はもう……!」
何てこった。山田君は隠れリア充だったのだ。リア充だったがためにあいつは――、
『ざまああああああああああ!』
この掌返しである。リア充のくせに俺達の仲間とか反吐が出るわ!
「とにかく、ここは危険だ! ここを離れよう!」
「ああ、賛成だ!」
イケメン君を仲間に加えて俺達は再び逃走を試みることにした。
昇降口に差し掛かる。
「待ってください――!」
後ろから甲高い声が俺達を止めた。振り返ると女の子がいた。
「何だ!? 早くあんたも逃げろ!」
田中君が叫ぶ。
「私――私はこ、怖いんです。気が付いたら友達は皆爆発しちゃって、それで――」
彼女はこちらに駆け寄ってきて――田中君の胸元に飛び込む。
「…………え?」
「世界が壊れる前に、私が生きてるうちに想いを伝えたかったんです。私、ずっとずっと田中君が好きだったんです」
そこで繰り広げられているのは終末の世界の中の美しき愛物語。
だが、それが意味することは――
「たな――」
「止めるなぁ!!」
田中君は怒声を放つ。
「俺は――俺は今幸せなんだ。生まれて初めて女の子に告白されて、抱きしめられて。ここで死ねるなら俺は本望だ」
「お前、命を軽々しく扱うんじゃねえ! 山田君も佐藤君も何のために死んだかわからないじゃないか!?」
ちなみに佐藤君はまだ死んでない。
「……すまない。俺のことは置いていくんだ」
「でも!」
「――とっとといけえ!!」
田中君を取り戻そうと手を伸ばす。が、それはイケメン君に妨害される。
「邪魔するな!」
「田中君の気持ちを無駄にするな! 今はとにかく走れ!!」
イケメン君に手を引かれて走る。見る見る田中君が遠ざかっていく。ぼやけてくる彼の顔には微笑と涙が浮かんでいた。彼は女の子と抱きしめあいながら、何かを呟き、そして、
――その命を失った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「どうして、どうしてこんなことに!」
「嘆いちゃ駄目だ。諦めなければ何とでも――」
「なるわけないだろ! だって、これは、この現象は全部……俺がやったんだ」
涙が溢れてくる。壊れた水道管のように流れる。
同時にこのリア充爆発現象の本当の原因も意思と関係なしにあふれ出た。
「だから……俺が佐藤君と山田君と田中君を殺したようなものだ……!」
ちなみに佐藤君はまだ死んでいない。
「……そんなことが。でも、間接的な原因は俺のせいなんだよな?」
「そうかもしれない。けど俺の思い違いだった。女の子と二人でいる=彼女と二人でいるって図式が俺の中では成り立っていたから……!」
地面を叩く。痛い。
「これは俺の罪だ。イケメン君には関係ない」
「そんなことない。君を勘違いさせてしまった俺もこの世界を壊してしまった犯人の一人だ。君と共に罪を償おう」
「イケメン君」
彼はこんな俺に手を差し伸べてくれる。俺はその手をしっかりと握り――
「実を言うと、俺、ホモなんだよね。ずっと前から君のことを良いと思ってた。さあ、俺と共に二人で歩もう!」
「え、ちょ、何で服脱がせるの!? や、やめろ……うわああああああああああアッー!」
俺とイケメン君は濃厚な時間を過ごし、互いに想いを分かち合った。その瞬間、
――俺達は爆発した。
こうして世界は滅びましたとさ。
滅びてくれて本当に良かった