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1京のスキルを持つ僕の世界  作者: Red_stone
人との決別
33/33

第30話 仕組まれた試合

さて、昨日はエージェント君と話し合った後は部屋でレポートをまとめていたわけだけど。

今日は試合の日だ。

単なる書類なら『自動書記<ゴーストライター>』が使えるから楽だけど、あれは考察とかを考えなきゃいけないから使えないんだよね。

まったく、研究者も楽じゃない。


『さあて、結晶祭も最終日! 前座は特別クラスの面々と特別ゲストとの試合だ! 特別ゲストが練り上げた腕に、特別クラスはどこまで噛みつけるか見ものです! 解説は私、『ノイジィメイカー』放送徒まつりがお送りします』


昨日もマイクを持っていた女だ。

とりあえず、美しく透き通る声は認めよう。

あまり知性は感じられないけどね。


『さあ、始まります。第一試合は地検和エドムラVS残骸院いちご。なんと残骸院いちごは“あの”残骸院家のお姫様。『深淵より這い寄る朱色』の異名を持つ無所属の研究者。赤いゴスロリがトレードマークの可憐な少女。多くのコレクションを持つとの噂ですが、戦闘能力は未知数! 我々に何を見せてくれるのか!?』


『おっと、地検和エドムラも負けていないぞ! 引退間際とはいえ、かの“地竜騎士団”のメンバー。ダンディな筋骨隆々のおじいさん。『不動の岩戸』の異名を持つ守護者。彼の防御を打ち崩せる者はどこにもいない! 未知の『深淵より這い寄る朱色』に対しても絶対防御を発揮できるのか!?』


説明ご苦労様。

『地竜騎士団』ねぇ。

聞いたことはないけど、学園生とはさすがにレベルが違うね。

それでも、僕のレベルには程遠い。


遠慮無くて加減して、魅せてあげよう。

この僕の力を!


『試合開始ぃ!』


さあ、匙は投げられた。


「僕は『深淵より這い寄る朱色』残骸院いちご。君に混沌を魅せてあげよう。思う存分に楽しむといい」

「『不動の岩戸』地検和エドムラ。貴様の無力を我が鉄壁にして証明しよう。思う存分に嘆け」


いいねぇ。

そんなことを言われたら笑みが止まらなくなっちゃうよ。

存分に楽しませてもらおうかな?


まずは『泡吹き笛人<バブルズ・ハーメルン>』だ。

口笛を起点に大量の泡を作り出す。

もちろんただの泡じゃあない。

触れれば爆発する。

殺傷力はあまりないけど、武器くらいなら場外まで吹き飛ばせる。

遅いけど、その分数がある。


さて、どうする?


『不動の岩戸』は笑みを浮かべたままで待ち構える。

よほど防御に自身があるようだね。


「これがお前の能力か? 貧弱だな。『地竜咆哮――震脚』!」


ガンと足を地に叩きつける音、そのすぐ後にシャボン玉が爆発する“パァン”という音。

シャボン玉が一気に炸裂なんてさせたら、爆心地の人間は壁に激突死してもおかしくないというのに。

10mくらい離れている僕ですら、吹き飛びそうになってしまった。

というか、普通の10歳児なら壁に叩きつけられて死んでるね。


「けれど、微動だにしていないとは。流石、騎士団メンバーだ」


そう――、彼はこの程度では眉さえ動かさないのだった。

ふふ、さすがに小手調べとはいえ手加減しすぎたかな?

外野も僕の力が通用しないとか騒いでいることだしね。

次を見せてあげようか。

さあ、エンターテイメントはこれからだよ。


「貴様の能力がこれだけというのなら、期待はずれだな。おとなしく研究室にこもっていたほうが良いのではないか?」

「ふふ。酷い言われようだね。そこまで言うのならペースを上げてあげるよ。予定では3個目か4個目に使うつもりだったんだけどね――」


「見せてもらおうか、貴様の本気をな」

「無理だね、君程度では。精々観客を楽しませるために踊ることだ――」


ぐおん、と鎌が出現する。

人間に倍する大きさの鎌が計5つ。

その漆黒は死を連想させる禍々しさ。


「『死神の舞踏会<ダンス・ウィズ・マリシャステイル>』。さあて、無様に逃げまわってみるかい?」


ニヤニヤと嘲笑う余裕な僕。

相手は愕然として口を閉じれないでいる。


「ば、馬鹿な。能力は一人一つのはず! 貴様――?」

「化け物さ。僕は1京のスキルを持っている」


「う、嘘だ。そんな人間が居るわけが……」

「現実を見なよ。君がこれから無様に悲鳴を上げて逃げまわるという現実をね」


回転する鎌が動揺する『不動の岩戸』に迫る。

とても戦闘できる精神状態には見えないけど――。


「ぐ……! ぬぉおおおおおおおおおお!」


一本目を弾き、2本目を弾き、弾き、弾き、弾き、弾く。

まさか、全て叩き落とすとは。

これは予想外。

足の一本くらいは持っていけると思ったんだけど、読み間違えたか。


「ぜあああああああああ!」


必死だねぇ。

僕の方に向かって来ちゃって。

ま、後ろから鎌が迫ってきているのだから正解だけど。

そう、これは鎌を操る能力。

叩き落としたところで時間稼ぎにしかならない。

変幻自在に動く鎌は当てるのにすら苦労する。

しかし、投げた鎌は瞬間的には引き戻せない。


「――『死神の舞踏会<ダンス・ウィズ・マリシャステイル>』。今出したので全部だと思った?」


更に二本の鎌が空中より出現、カウンター気味に『不動の岩戸』に襲いかかる。

それを、人間のものとは思えないほどの反射速度で弾く。

この動き、まさか――!


「まだだよ! これが全力の『死神の舞踏会<ダンス・ウィズ・マリシャステイル>』! 30の鎌に貫かれて死ぬがいい」

「がああああああああああああ!」


まさか、30の鎌を全て撃ち落とす――?

さすがに人間の所業じゃないよ。

とはいえ、カラクリもわかった。

わかったからどうこうというわけでもないのだけれど。


ともかく、今は退避――。

いくら反応速度が強化されているからといって、速さ自体は低い。

『不動』だしね――。




なに!? 足が動かない。

いや、動かないんじゃない。

地に張り付いている。

そうか、これが奴の……。


「が……!?」


殴られた。

これは、かなりの衝撃だ。

自分から飛んでダメージを軽減する格闘技技があったと思うけど。

これは――その真逆!

殴られても動けないから、衝撃が100%僕の体に通る。

そう、奴の力は地に物を縛り付けること。

『不動たる大地<アースボンド>』ね。


第二撃は喰らわない!

刃引きしてあるとはいえ、流石に剣は喰らいたくないからね。

『天を穿つ翼炎<フライング・スカイ>』


轟、と舞台のすべてを炎が包み込む。


「ふふ、僕もここまでする気はなかったんだけどね。ま、君だって悪いだよ。さすがに薬物を使って、無事に舞台を降りられると思っていたわけじゃないだろう? ま、舞台は傷つけてないから勘弁して貰いたいね。とはいえ、そこそこに楽しめはし……た……?」


剣が、僕の腹に……。

まさか、アレでも生きて――。

いや、殺すつもりはなかったけど。

『不動たる大地<アースボンド>』で無理やり体を留めておいたのか?

そんなことをしても消し飛ばないとは、呆れるほどに頑丈な体だ。


顔に灼熱が走る。

……殴られた。

本当に手加減しないね。

敗れた服を気にしていたら、踏ん張りが効かなかった。


「まだ戦える、と言いたいけど――」


「決着――! 勝者は『不動の岩戸』地検和エドムラだ!」


どうやら、場外負けらしい。


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