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1京のスキルを持つ僕の世界  作者: Red_stone
人との決別
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第28話 覚悟なき者と自覚ある者

「こんにちは、君たちが世乖学を志した理由について教えてもらえるかな」


その場に居るのは3人だった。

サークルには最低5人必要だから、他のメンバーはここに居ないだけなのだろう。

しかし、髪は揃って灰色。

さらに沈鬱な面構えをしている。

女も居ない。

これは、外れかな?


「い、いきなり来て何なんですか? 入部希望者ですか?」


なんかコミュ症っぽいんだよね、こいつら。

はじめから知る人ぞ知る傑物なんて期待してなかったけどさ。

勝手ながら、こんなんには世乖学を学んでほしくないな。


「僕が質問しているんだけどね? ちなみに陰秘学に限らず、全ての研究においてチャンスを掴む力は必要だ。研究者だからこそ、自分を売り込まなければいけないんだよ。つまり、すでに君たちは不合格だ。理想もなくダラダラしているといい」

「な……! いきなり現れて不合格だと? ガキが、ふざけるんじゃない!」


激高する。

顔を赤くしちゃって、まるでトマトみたいだ。

こっちではトメトだったっけ。

中途半端に似てるな。

そういうことを研究しても面白そうだけど――、こういう日常的な疑問は後回しになっちゃうんだよね。

まあ、覚えていたら研究してみよう。


「おい、聞いてるのか!? お前だ、お前! 大人に対してそんな口を聞いていいと思ってるのか」


ああ、聞いてなかった。

どうでもいいしね。

身分明かして黙らせてから、お菓子でも食べに行こうかな。


いや、お菓子はおあずけか。

無駄にピカピカした名前のやつが来た。




「消えろ、貴様等が対面して無事に済む相手ではない」

「あ、あなたは――」


パクパクと金魚みたいに口を開閉させて戸惑いを表す彼ら。

駄目だよ? 貴族が来たら自分の研究をアピールしなきゃ。

ま、どうせまともに研究する気など無いのだろうけど。


「我は支配剣シロガネ。栄光ある支配剣家の跡継ぎにして、この学園を支配する者。悪いことは言わん。貴様らの正気が喰われんうちにさっさと失せろ」

「そ、そんなこと言われても――」


一顧だにせずに言われても、言われる側はおろおろするだけ。

いくらブースを無人に出来ないといってもね。

判断能力がなさすぎるよ。


世乖学は覚悟がなければ研究など出来ない。

そう、世界を敵に回す覚悟が。

しかし奴らにあったのは、現実から逃避したいという劣等感だ。

それで『深淵より這い寄る朱色』と『王権たる剣』の間に入ろうとは。

滑稽すぎて笑えない。


「おい、我が消えろと言っている。逆らうからには、覚悟が出来ているのだろうな?」

「ひぃ!」


あーあ。

ひと睨みされただけで逃げ出しちゃって。

情けない奴ら。


「残骸院いちご、何が目的だ?」


やれやれ。

有名であるのも困ったものだ。

それが悪名ならなおさら。


「たしかに僕は目的のために色々と暗躍しているけどね――。ちょっとした興味本位でさえぐだぐだ言われたら面倒で仕方ないよ。とりあえず今の僕には目的なんて無いよ。あったとしても、お菓子を買おうとかそんな他愛もないものさ。ああ、雪辱戦でもする? 少しくらいなら時間があるから構わないよ」

「ほう――。それほど信用出来ない言葉もないな。しかし、生半可では吐くはずもないか。しかし一つだけ聞かせて貰いたいことがある。大事なことだ。人生において大切なことはこれしかないと言ってもいいほどのな」


へぇ――。

聞かせて貰いたいこと、ねぇ?

このタイプには人の話を聞く人間はほとんどいないんだけど。

これが王者の風格か。


「どうぞ。彼らに僕の話を聴く資格がなくとも、君の自覚は僕に相対するに十分な資格がある。さて――、話し合いをしようじゃないか」

「自覚? 我こそがより良く民草を収め無くてはならない、という自負のことか」


「その通り。僕はそれをノブリス・オブリージュと読んでいるけどね。貴き者の義務という意味さ。もっとも、僕自身については全く貴いとは思ってないんだけどね。貴族の特権なんて城に幽閉されたことくらいしか心あたりがないしね」

「ふん。貴様のような邪悪が貴いはずはないな。質問に移らせてもらおう」


あらあら、ばっさり切ってくれちゃって。

これでも僕の性格に多大な影響を与えた出来事なんだけど。


「もちろん拒む理由はないね」


ま、理解させようという気もない。

聞いてあげようじゃないか。

大切な質問とやらを。


「お前の目的は何だ?」

「はい? 僕は目的あってここに来たわけではないと――」


「否。貴様の目的だ。我の目的は『誰も泣かない世界を作る』ことだ」


それはそれは――、おかしなほど夢物語。

憧れるほどに純粋な祈りだ。


「……そんな願いを恥ずかしげもなく言えるって、すごいね。うん。すごいとしか言い様がない。憧れる余地も、尊敬する余地もないなぁ……。悪いけれど、僕の目的はとてもみすぼらしいものでしかないよ。『皆と一緒にいたい。力になってあげたい』。ただそれだけさ」

「ふざけているのか? 貴様が“皆のこと”など考えるはずがなかろうが。貴様の暗躍のおかげで何人死んだと思っている?」


「さあ? 直接的には多くとも数十人くらいじゃないかな。僕が動かしてきたお金に対しては0に等しい数字だと思うよ。確かに僕の身でもって人々に救いを与えることは出来たけど、やらなかったことを殺したとか言われてもね。適当に僕を快楽殺人者にしないでよ。後、皆の意味が違うよ」

「どういうことだ? 貴様に人殺しの自覚がないのはともかくとして。皆とは、人類の全て。それでなくとも村や都市全体を含んでいるのではないのか?」


「ううん、違うんだなぁ――、含んでないよ。僕と人間たちは違う人間、違う種族だから。僕の言う皆ってのは、そうだね。ここにいる二人と今のところは後二人かな」

「貴様を含めて5人が貴様の言う皆か。少なすぎるな。器が知れるぞ」


「そうだよ。僕の器は思われているほど大きくはないんだ。まあ、ちょっとした好奇心を満たすためにも動いているけどね。報酬と質問次第で君にも情報を流してあげるよ、格好いい騎士さん?」

「ならば聞いてみようか。私は皆が泣かない世界を目指していると言った。そんな方法があると思うか? 陰秘学の権威よ」


「うーん。一応、麻薬って手はあるけれど」

「却下だ」


「だよね。なら――、ああ。ディストピアというのがあったね」

「ディストピア? 絶望郷か、理想郷の対局に位置する概念だったな。何が行われていた?」


「コンピュータによる絶対管理さ。もちろん精神も管理されている。泣く心がなければ、誰も泣かずに済むというわけ」

「心がなければ、泣かずに済む? それは我の目指す世界ではない。確かに答えの一つではあろうがな。しかし、そんな堕落は――そんな邪悪は許されん」


「だと思ったよ。正直僕もこの方法には疑問を抱いているしね。でもね――、人類が幸せになるにはこの方法しか在り得ないと思うんだよ。人は、他者を不幸にしないではいられない生き物だから」

「人が例えどんな業を持っていようとも導くのが貴き者の使命だ」


はは、眩しいね。

僕にはこんな理想は目指せない。

現実に汚れるってのは、こういうことかな?


「立派だね。凄いや、本当に」

「貴様とて、人間の側に立つことは出来る」


「無理さ。僕達が人間の側に立つには奴隷になる以外にないからね。それだけは御免だ。奴隷になるくらいなら、死を選ぶ」

「ふ、それも一つの選択か。後悔する暇もなくて大変だな、お互いに」


「ふふ、そうだね――。微力を尽くして事にあたるしか無いものね、お互いに」


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