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1京のスキルを持つ僕の世界  作者: Red_stone
人との決別
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第27話 お祭りの序章

「さて、部屋から一歩でも出るとうるさくてしょうがないね」


とりあえず朝食をとった僕達は外へ。

まずは開会式を見に行く。

お祭りなんだから始まりの号令は聞いておかないと、だろう?

でも、一般生徒の学舎で開かれているから結構遠いんだ。

もちろんスキルを使ってワープする僕等には関係がない話なのだけど。


そうそう、この学園はいくつかの学舎に分かれている。

まず一般生徒、教師、そして僕らの特別校舎。これが教育のための施設。

さらに研究施設、各国の軍事を司る施設もある。

これらの施設は独立していて、あまりお互いの領土には入らない。



『しかし、こんなに騒がれているとトラウマを思い出しちゃうよ』

「へぇ、君がトラウマなんてものを持つほど素直だとは思わなかった。実際、全く堪えてないように見えるけど。でも、胸の悪くなるような話なんだろうね」


『聞きたい? 聞きたい?』


何故目を輝かす……。

まあ、最悪たるクロズミ君にとっては嫌な思い出も良い思い出も変わらないのかな?

ま、でもね。僕たちは家族だし。


「クロズミ君が少しでも楽になるなら聞くよ?」


別に僕は“普通”が何を犠牲にしていようと気にしない。

どんなに残酷なことをやっていても、やられていても自分から関与する気はない。

だから、後はクロズミ君の問題。

家族が抱えている問題を解決するためなら、僕はなんでもしよう。


『あは。まさか、そんな優しい答えが聞けるとは思ってなかったよ。でも、別に大したことなんかじゃないからいいんだ』

「そう、じゃ、お祭りを楽しむことにしよう。屋台があるから覗いてみようか」


屋台を物色し始めた僕には、今僕の近くにいてくれる人が存在することに比べればね、との言葉は聞こえなかった。

聞いていたのか、いなかったのか、たんぽぽちゃんは優しく微笑した。

そしてある屋台を指さして言う。


「ほら、アレなんていかがです? トラペゾヘドロン焼き」

「何だい!? その凄そうな名前は……!」


とりあえず見てみると――。

…………今川焼き?

不恰好な四角っぽい小麦粉を焼き固めたものか。

いくらトラペゾヘドロンが偏二十四面体だといっても、これは単なる適当だろう。


『ちょ、僕にもかまってよ』


とりあえず一つ買って騒がしいクロズミ君の口に放り込んでみる。

なんかそれほど美味しそうには見えない。

ところどころ焦げてるし。


『熱い! 口が焼け死ぬぅ……。あ、うまい』


何故体の一部分だけがピンポイントで死ぬのかわからないけど、どうやら美味しいらしい。

というわけで、僕もひとつ試してみる。

とはいえ、50度や60度くらいで騒ぐなんてクロズミ君も甘いね。


「まず……」


不味かった。

どうやら僕の口には合わないらしい。

まあ、他人が作ったもので口に合うものに出会ったことは数回しか無いけど。

ああ、甘いモノは除いて、ね。


やはり、その場の気分に流されてもいいことはない。

とりあえず、口直しに甘いものでも探してみよう。


「いちごちゃん、やっぱり駄目でしたか? なら、これをどうぞ。雲菓子です。甘いですよ」


うん。

こっちは普通に綿菓子だ。

あれ?

こっちよりも地球に馴染んでいる僕って……。


気にしないことにする。

うん。

考えても無駄。

この思考は発展させてはいけない。





「皆小食だね。お金ならたくさんあるから遠慮しなくていいのに。特にクロズミ君」

『うぐっ。うえ。ま、まだ食えって言うのかい? 僕の胃は炸裂寸前だよ』


お腹は膨れてるようには見えないけど。

ああ、あれか。

夜の食べ放題に備えて昼食抜く卑しい輩は夜あまり食べられなくなるっていう。

腹は常にある程度満たしておかなきゃ、食べられなくなるんだよね。

浮浪児だったクロズミ君は言わずもがな、かな。


「私も十分食べさせてもらいましたよ。というか、私っていちごちゃんにお小遣いもらってる現状なんですよね」

「それはしかたがないさ。アーカムシティでの生活中は残骸院家からの報酬が出ていなかったんだから。ま、僕が払えってことだったのだろうけど。研究者との取引の大部分は知られているだろうしね。それに、君は僕を守ってくれるんだろう?」


「そうですね。ちゃんと、守ってあげますよ」


そう言って、胸に手を当てる。

大切なモノを抱きしめるかのように。


『さ、これから開会式だ。僕ってこういうところを見たこと無いからワクワクするなぁ――。こんな祝場で吐いちゃう汚い奴とか居るかな』

「そうだね。その第一候補が目の前に居るのは気にしないでおこう。では開会式に出席しようか。普通にね」





開会式に出た僕は感心していた。

それはもう、別に見習いはしないけど、尊敬はするくらいに。


「いや、すごいすごい。まさか、あんなふうだったとはね。もう一度受けてもいいくらいだ」


しきりに頷く。

やはり、感情は行動へと直結させるべきだろう。

こういうのは溜め込まないほうが楽しく過ごせる。


「あの、いちごちゃん? どこに感心する要素が……。だらだらと似たような話を続けていただけだったじゃないですか」

『そうだよ。僕なんて退屈すぎて、眼をつむったまま眠っちゃったぜ』


何言ってるんだろう? という目で見られる。

それはこちらが言いたい。


「やれやれ。似たような話を続ける根性ってのは並大抵じゃないよ。それも、あんなものを恥ずかしげもなく何年も続けているのだろう? その精神は称賛に足ると思うね」


二人はため息をついて。


『君の感性、ずれてるぜ』

「あまり変なものに寄って行かないでくださいね」


酷いことを言われた。

やれやれ、僕は変態ごときに相手が勤めるほど弱くないというのに。

ここらへんが感性がずれているといわれる所以かな。

まあ、それはどうでもいい。


「今日は競技会があるけど、予選は見なくてもいいだろう? 僕は興味が無い」

『僕もどうでもいいぜ』


「それなら、あちらの方に陰秘学を研究しているサークルがあるらしいですよ」

「そうかい? こんなところではまともな研究を期待することはできないけど、一応覗いてはみようか。権威としてね」

『ははっ。いちごちゃんったら、まるで脂ぎった親父が言いそうなことを言ってるぜ』


とりあえずクロズミの腹に拳を叩きこんでから行ってみる。

案の定、裏寂れたというか、寂れたというか、とにかく人気のないところにあった。

どこでも爪弾きにされているものだねぇ。


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