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1京のスキルを持つ僕の世界  作者: Red_stone
人との決別
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第26話 競技会への招待

「おはよう、たんぽぽちゃん。ご飯は出来た?」

「ええ。クロズミも起こさなきゃなりませんね」


「適当に殴っておけば起きるよ。で、今日の予定は把握してるかい?」

「え? 何かありましたっけ」


「……別にいいけどね。予定表なんか見なくても、僕が知ってるから。今日は競技会だよ。明日も、明後日もね。僕達の出番は明後日だよ。喜ぶといい、新入生で競技会に出るのは特例クラスだけだよ」

「へぇ、入学早々にご苦労なことです。で、私たちは何をするんです? 大変なことなら見て見ぬふりをしますけど」


「それは止めておいたほうがいい。どこの誰とも知らぬ間抜けに馬鹿にされるから。ま、やることは簡単だ。闘技場に行って、敵を倒せばいい。殺しはご法度だよ」

「ああ、手加減しなくてはなりませんか。ま、雑魚に負けるつもりはありませんから気楽でいいです。他には?」


「さぁ。世間一般で言われる祭りらしいよ。僕が知っているのはたこ焼きにりんご飴――、実在自体が怪しいね。ま、見回ってみればいいんじゃないかな。君も祭りは初めてだろう?」

「いえ、私は物心つかない頃に一回だけ行ったことがありますよ。皆、楽しそうだった記憶があります。騒がしくて、楽しくて」


「そう。ま、3人居れば騒げもするんじゃないかな? 精々楽しんでみようよ。初めてなら、どんなことでもそこそこは楽しめるさ。人間が大量に群れていてもね」

「相変わらず人混みが嫌いですね。さ、朝ごはんが冷める前にクロズミを起こしましょう」


ゆさゆさと揺さぶる。

……全く起きる気配がない。

殴った。


『……おはよう、たんぽぽちゃん。起こしてくれてありがとう。ところで頭がいたいんだけど、心当たりある? 実はいつも道路で寝てたから、ベッドで起きるのは初めてでね。勝手がわからないんだ』

「そうですか、大変でしたね。朝ごはんが出来ていますよ」

「たんぽぽちゃんの料理は美味しいから頬を溶け落とすといい。あと、貧乏人の君には想像もつかない生活が待っているから、楽しみにしておくといい」


『残飯以外で人の作った料理を食べるのは初めてだよ! 嬉しいな。たんぽぽちゃん、僕の恋人になってくれないかな?』

「いちごちゃんは何食べても美味しいって言うじゃないですか。褒められるのは、嬉しいですけど」

「いや、たんぽぽちゃん以外のは大抵マズイよ。ほら、味覚って気分に左右されるしさ。好きな人が作ったものならなんでも美味しいよ」


クロズミの告白を聞いてすらいないたんぽぽだった。

しかし、今更この程度のことでクロズミがめげるはずもなく。


『たんぽぽちゃん、お祭りに一緒に行かないかい?』

「いいですよ。いちごちゃんも一緒に行きましょう?」

「うん、いいよ。クロズミ君もそれでいいよね?」


『えー。あれー。まあ、うん。妹には兄としてお世話をしてあげなくちゃね』

「あれ、クロズミ君お金持ってる? 僕はというと、恥ずかしながら城を数個買える程度の持ち合わせしか無いのだけどね」


『え? お城って……。それ、一般人が生活費何年分?』

「知らないけど、魔珠とか買ったらすぐに無くなっちゃうよ。現金は基本的に持たない主義なんだ」


魔珠の金銭的価値は最高級品の宝石を想像してもらえばいい。

市民でも数百年は遊んで暮らせる額だ。

これでも“漆黒”に”黄金”関連では雀の涙ほどでしかないけれど。


「ああ、実は私はいちごちゃんに養われている立場なのです。いちごちゃんの言うことにはなんでも従わないといけません。よよよ」

『ああ、なんて可哀想なたんぽぽちゃん! 僕のところにおいで』


「貧窮しそうなので嫌です。それに、私は一生いちごちゃんのお側にいると決めたのです」

「嬉しいよ。僕はたんぽぽちゃんが大好きだから」


『あれ? 僕ってお邪魔虫? ここは百合の園だったり?』

「そんなことはないよ。実際、僕たちはキスしたことすらないしね。別に僕は拒むつもりはないけど」

「私も拒む気はありませんよ? 強いて、そういうことをしたいという気はしませんけど」


『じゃあ、二人は付き合っていないということだね!? なら、僕にもチャンスが――』

「ないね」

「ありませんね」


『何故!?』

「君って弟だし」

「あなたは弟のようなものですから」


『禁忌を破るのは気持ちよくない?』

「禁忌なんてもの、僕は無視するだけだね。強いて破りたいとは思わないけど、守りたいとも思わない」

「そういうのは一度死んだ時に忘れてしまいました」


『あーあ。僕の未来の彼女は今どこに……』

「いないと思うよ」

「いないんじゃないですか?」


『ひどいよ。そこまで否定するなんて。そんなに否定されちゃったら、気持ちよくなってきちゃうじゃないか!?』


あ、たんぽぽちゃんがゴミを見る目でクロズミ君のことを見てる。

でも、ねぇ。

それは贅沢すぎると思うんだよ。


普通の人なら――

信頼出来る家族を得て。

理解し合える親友を得て。

愛し合う伴侶を得て。

愛すべき子供を得るのだろうけど。



特別――つまり生まれながらに強すぎる僕達にはそれを願うのは傲慢にすぎると思うんだ。

そもそも、僕は求めることを不幸になることと定義している。

そうだろう?

何かを欲しいと思うとき、君は不幸でしか無いわけだ。

欲しいものが手中にない不幸。

けれど、求めるものが手に入った時は不幸であったとき以上に幸福になれる。

つまり、際限なく求めることは自分を際限なく不幸にすることである。



だから、僕は。

信頼出来る家族を得て。

姉だけど、理解し合える親友を得て。


そこで求めることを止めた。

いや、伴侶を得ることを諦めて、家族でもっと幸せになる道を選んだ。

今の僕の家族をもっと幸せにする。

それが僕の求めるものだ。

もしくは、家族が永続することを求める。


僕は認めない。

家族の死を。不幸を。

僕の世界は家族だけで完結させた。

この世界にはまだ見ぬ家族が居るかもしれないけど。



けど、僕は伴侶を求めることは絶対にしない。

僕の伴侶となり得る生物は世界に存在しない。

だから、それを求めるのは茨の道。

僕を不幸にしかしない。


うん、今の僕は幸せだよ。

たんぽぽちゃんとクロズミ君と僕の3人で朝食を食べている。

ムラサキお兄ちゃんとお父さんも一緒だったら本当の十全なのに。

それは、いつかのお食事会で期待しよう。


……あ。


「二人共、学生証を渡すのを忘れてたよ。今際弱わすれな教師に渡された資料の中に入っていたんだ。無くしたら再発行されるまで行動が制限されるから気をつけてね」


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