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1京のスキルを持つ僕の世界  作者: Red_stone
人との決別
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第25話 枯葉森

『はは。ごめんね。負けちゃったよ』


早朝、まだ人が起きだして来ない時間帯にクロズミは帰ってきた。

迷子にでもなっていそうだったが、何故かいちごたちの場所がわかるので迷わなかった。

いや、やはりそれは嘘だ。

彼は階段を探すのに10分くらいかかった。

普通なら数秒で見つけられる階段を。


「そんなことを気にしている場合じゃないだろう。かなり手酷くやられたようじゃないか。傷は痛む?」

『いやぁ。僕ってほら、いたぶられ慣れてるからさ。痛がるのには、もう飽きちゃったんだ』


「ああ、そうだね。じゃ、服を綺麗にしてあげ――

『え? あれ? 何で納得しちゃったの? いくら慣れていても痛いものは痛いんだけど』


痛いのは平気なんじゃなかったの?

まあ、そう言うなら痛みも消しておこう。


「ふぅん? そんなものなんだ。じゃあ、傷も直しておくよ。これがいいかな? 『星光祝福<ライトロード・ブレス>』」

『おお! 痛みがなくなった。それに服も治った! ありがとう、いちごちゃん』


「どういたしまして。僕はまた寝るけど、君はどうする?」

『寝るよ。疲れちゃった』


「そ、おやすみ」

『おやすみ』


クロズミはいちごとたんぽぽの寝るベッドに潜り込んだ。

すぐに眠り込んでしまった。




「なぜクロズミがベッドにいるのでしょう? まあ、気にしないでおきましょう。ですが、3人でこの部屋を使うとなると手狭になりますね」


たんぽぽが起きだしてつぶやく。

この部屋に寝起きが悪い人間は存在しない。

そんな弱点を残しておくような3人ではない。


「さて、お料理を済ませておきましょうか。それと、お掃除ですか」


扉を睨みつける。


「気づかれていたか。貴様らはやりすぎた。『王権たる剣』を倒してしまうとはな――。貴様らはここで終わりだ」

「終わり? 貴方程度の人間が私に傷ひとつでも付けられるおつもりですか?」


たんぽぽが黒い男を睨みつける。

黒いとはいっても、クロズミとは全く異なる。

クロズミのそれはおぞましき邪神のそれ、黒服のそれは煮詰まった人間の悪意だ。


「とりあえず、自己紹介でもしておこうか。私は枯葉森枯人だ」

「……! 枯葉森――、聞いたことがあります」


「ほう、知っているのかい?」

「ええ、いちごちゃんから聞きました。『奇術死団』の7族の一つ、『黒鴉の守人』の枯葉森。いちごちゃんが言うには私たちにとっては気にする程の脅威でもない、と。むしろ『死にたがり』の心中連や『カラカラ風車』の運命歌に気をつけろと言っていましたね」


「へぇぇ。余裕だね。私たちは絶対に戦わない。君がどれだけ強くとも意味は無いんだ。私が敵の前に姿を表すのは決着が着いた後だけなのだから。現に僕がここにいるというのに横の二人は起きる気配すらなく――、君だってもう動けない」

「え――? か、体が動きません……」


「ふふん、君に見つけられたときは焦ったよ――。なんせ、毒が回り切っていなかったからね。まあ、ここまで時間を稼げたのは私の才覚といったところかな? どんな強者も毒にはかなわない」

「ぐ……! 何をするつもりです?」


「何をするつもりかって? そんなのわかりきっているじゃないか。君ほどに強力な駒を殺す人間がどこに居る。毒で弱めて、その後は洗脳でもするさ」

「私達の洗脳が目的ですか……!」


「そうさ。もう君は指一本動かすことはできない。連れて行かせてもらうよ」

「これ以上は聞けませんか。まあ、実行部隊などそんなものですね。『裏』の人間に雇い主を聞いたところで無駄でしょうから」


すっく、と立ち上がる。

まるで演技だったかのように。

しかし演技のはずがない。

たんぽぽの顔色の悪さ、体の震え、手足や顔の斑点は本物だった。

毒を支配する『黒鴉の守人』が見違うはずがない。


「な! そんな馬鹿な……。私の毒が効かなかった奴など、今まで一人だって居なかった。なのに、貴様は何だ!? なぜ立ち上がれる? いや――、そもそも。貴様には効いていたではないか。防げるのなら、最初から防いでいるはずだろう!? どんな効果があるかもわからない毒なんて、防いで当たり前のはずだ!!」

「? 何を言ってるのやら。毒で死ぬことなんて、いちごちゃんを守るためならお安いご用です。まあ、無駄みたいでしたけど」


「悪いね。私は所詮実行部隊。そのいちごちゃんとやらの方が私達について詳しいんじゃないかな?」

「そのようです。行っていいですよ」


うろうろと目をうろつかせている。

声には媚びるような響きが交じる。

直接戦闘になったら学園生相手ですら『黒鴉の守人』は負ける。


「いいのか? 私を殺すのは容易いぞ。いや、ごめんなさい。見逃してください」

「どうぞ。いちごちゃんが言うには、人間をいくら殺したところで無駄だとか」


「ありがとうございます! ありがとうございます」

「ああ、忘れ物ですよ」


黒い羽を投げる。

毒を媒介する触媒。

触れれば死ぬほどの猛毒を秘めた物体をあっさりと。

例え道化に見えていても相手は恐るべき殺し屋なのに。


「こ、これはどうも。し、失礼します!」


わたわたと去っていく。

余裕は微塵もなく、まるで猫から逃げる鼠だ。


いちごちゃんの3分教室 第25回『奇術死団』

戦闘を行わないことを信条とする恐ろしい暗殺者集団だ。

殺戮メイドである『病闇の使用人』名無苑とは正反対だね。こちらは直接武力で殺しに来る。

基本的に毒とか暗示とか呪いとかを使う。

僕にとって毒は恐ろしいものではないのだけれど、騎士とかには致命的だね。

これが一流貴族あたりになってくると祝福が施された食器を使うのだけれどね。

ああ、さすがに解毒能力があるわけではないよ。

毒が入った食べ物を乗せると色が変わるんだよ。

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