第22話 初めてのホームルーム
「話し込んでしまったね。ホームルームはどうしようか? どうせここからじゃ6時間はかかるから、間に合わせる気すらなかったんだけど」
『おいおい、ダメだぜ、いちごちゃん。サボりは兄として見過ごせないな』
「そうだね。僕も弟にサボりを許す気はないよ」
『へー。ちっさいちっさいいちごちゃんより小さい子がどこにいるのかなー?』
牽制を交えて睨み合う。
さっそくじゃれあう僕達だった。
やっぱりポジションは姉がいいよね!
「二人とも、何をじゃれあっているんです? 私も混ぜてください。それはそうと、ホームルームに行くと決めたら早く行きましょう。こうしている間にもホームルームは刻一刻と過ぎているんですよ」
「うん、そのとおりだ。スキルを使ってしまうおうか」
『おいおい、この学園にはスキルの使用を封じる結界が張られているんだぜ。何を馬鹿なことを言っているんだい?』
「そんなものが張られているんですか? 全く気が付きませんでした」
「スキルを普通に使っていた人間が何をほざくやら。この程度の結界では僕達に影響なんて及ぼせない。これだけの大規模な結界を持っても、たんぽぽちゃんに気付かせることすらできないなんてね。僕達が人外だということを再認識させられるね」
『えー。君たちと違って、僕は一般人だぜ。人外と一緒にしないで欲しいぜ』
あれほど禍々しいスキルを持つ人間が何を、とかは突っ込まないでおく。
こいつにツッコミをしていたら日が暮れる。
そもそも僕はボケだ。
そしてたんぽぽちゃんはボケときどきツッコミ。
曲がりなりにもツッコミは居るのだから十全だ。
「ほれ。僕が運んでやったぜ。感謝しろよ、クロズミ君。歩いて行くしかなかった君を運んでやったんだから」
『いやいや、君が運んでくれなくても三日くらいかけて行ったさ』
「さ、ドアを開けるよ――」
無視して扉を開いた。
その先には――
「我を待たせるとは良い度胸をしている。跪き頭を垂れ、許しを請うことを許す」
偉そうに見つめてくる全身甲冑の金髪。
我関せずの人影。
串刺しにされて放置されているのが6人ほど。
「あうあう。どうしたら良いのでしょう。これで13人全員が揃いましたが、床に転がってる子を治療しないと……。あわわわわ」
おっと、教師もいた。
弱気だな。
隅でガタガタと震えてやがる。
「は、面白い。この僕を従わせるに足る力――、そんなものは片鱗すら見たことがない。君がどれだけの力を隠しているのか、ご教示いだだこうか。まさか、まさか――、見ただけで分かる程度の力しかないわけじゃないんだろう?」
「ほう、我を挑発するか。調子に乗る蝿は叩き潰されるが定めよ。貴様も床に転がっている奴らと同じく血を這わせてやろう」
睨み合う僕と金髪。
空気が歪む。
いつでもスキルを発動できる体勢。
「あわ、あわわわわ。どどどど、どうしましょう? みなさーん、喧嘩はやめてくださーい」
『初めまして、僕は霊神負クロズミ。あなたの名前を聞かせてもらえるかな? 僕は貴方に一目惚れしてしまった』
一方、クロズミは教師に告白。
空気を読めと言いたい。
「え? ええ? えええええ? な、名前は今際弱わすれなですけど……。ごごごごご、ごめんなさい。生徒とは、ちょっと」
『ああ……。また、失恋しちまった。死にたい』
「あう,,,,,,。あうあうあう。ご、ごめんなさい。ごめんなさい」
露骨に沈んでいる。
心が弱いな。
体も弱いし。
スキルだけだね、強いのは。
「はいはい。クロズミは後でいくらでもお姉さんが慰めてあげます。さて、今際弱わすれな先生? 何も出来ないのなら、ここで見ていませんか? いちごちゃんも彼を殺す気はないでしょう。なんだかんだ言っても、あの子は甘いですから」
「えええ? 手伝ってくれないんですか?」
わすれなはたんぽぽを哀れっぽく見上げる。
教師としての威厳は初めから無かった。
たんぽぽは傍観する構え。
クロズミは相変わらず失恋に泣いている。
「僕は『深淵より這い寄る朱色』残骸院いちご。深淵より這い出でし朱色は惨劇をもたらす血色の闇。正気の用意は十分か?」
「我は『王権たる剣』支配剣シロガネ! 我こそ世界を支配し、民草に慈悲を与える王! 我は従わぬものよ、報い己が身に受けよ!」
名乗りも上げた。
相手の名乗りも聞いた。
さて、まずは小手調べといこうかな。
「まずはスキル『粋酔推水<ウォーティウォーティウォーティ>』。行くよ、『槍葬水舞』!」
「小賢しいわ! “水切り王刀”。『水車回し』!」
スキルにより剣を出現させたか。
あれは創造系ではなく特定のアイテムを自在に出し入れする能力だな。
水の槍が切り裂かれる。
どころか更に斬撃は僕に向かってきて。
「ち、スキル『縁円炎演<ファイラファイラ>』。斬撃ごと潰す、『炎舞堕天』!」
炎は斬撃ごとシロガネを飲み込み、部屋に溢れる。
しかし、特別製の部屋はびくともしない。
「ば、馬鹿な! 2つ目のスキルだと――!?」
「ははは! いい驚き様だ。期待に答えて3つ目を見せてやるよ。『伝殿田電<エレクトロ>』!」
「この……! いつまでも調子に乗らせると思うな! “雷切王刀”。『千鳥一両筒』!」
シロガネは持っていた剣をしまい、新たな剣を出す。
正に銃弾のような一撃。
雷を裂いて僕に――
――当たらねぇんだな、これが。
『粋酔推水<ウォーティウォーティウォーティ>』を一度しか使えないなんて言った覚えはない。
水流で弾き飛ばさせてもらった。
「はは! 遊び相手くらいにはなるね。次はもう少し威力を上げてみようか!?」
次は火属性攻撃で行こうかな? それとも意表をついて風属性? 天使と家族以外でこんなに強い奴に出会ったのは初めてだ。僕と遊んで死なないなんてね――。
「甘いわぁ! 我を前にその余裕、後悔し懺悔し地に伏せよ! “人斬り王刀”『断罪』!」
な!? いつの間に懐に――。
今から防御していては間に合わない!
「へぇ、やるねぇ――、王子様? でも」
斬撃を己が身に受ける。
斬られた場所から血が噴出し、紅いゴスロリを朱く染めていく。
しかし、ある時点で巻き戻されたかのように血がいちごの体に吸い込まれる。
「馬鹿な。3つのスキルに加えて治癒スキルまで……。貴様は一体何なんだ!?」
「スキル『身体修復<リ・コンバート>』。この程度のダメージで攻撃したつもりかい? それこそ甘いと言わざるを得ないね。『風神演舞<ハスターズ・ウィンド>』!」
シロガネが壁に叩きつける。
風に混ざったカマイタチがシロガネをズタズタに引き裂く。
やはり、この体ではスキルの発動速度が遅すぎるか――。
あの傷ではもう動けまい。
さすがにあの男まで治癒スキルを持っているわけがないだろう。
治癒の呪符も存在こそするが、回復速度は遅すぎる上に呪符は元々隠して使えるような道具ではない。
ま、そこそこ戦えて楽しかったよ。
いちごちゃんの3分教室 第22回『王権たる剣』
支配権シロガネの異名だね。
本人も気に入ってるようで、羨ましい限りだ。
能力は剣を仕舞っておくこと。
能力自体は弱いけど、使い勝手はよさそうだ。
問題は剣を手に入れることができなければどうしようもないといったところか。
ただ、この能力を持つのが力のある剣を聖剣、邪剣問わずに収集する支配剣家の御曹司だったことは運命と呼べるのかな?
支配剣はとある王国を代々支配する家で、この学園の調査のために送り込まれてきたみたいだ。




