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1京のスキルを持つ僕の世界  作者: Red_stone
人との決別
22/33

第19話 振り返る一日

「さて、3年も跳んでしまったね」

「何を言ってるんです? いちごちゃんのそういう人を煙に巻くところは悪化する一方で悲しいです」


やあ、あれから色々あって3年後だ。

研究生活というのは中々に僕の肌に合ったけど、研究の描写は省かせてもらうよ。

あまり物語にとって、それを明かすことが面白いことだとは思えないからね。

けれど、気をつけてくれたまえ。

今やったことといえば――、数十、数百の伏線を描写なしに張ったということだからね。

僕が何をやらかすか。

どんな縁を得たか。

何を”識”ったか。

楽しみにしていてくれ。


「僕は意外と適当に物を言うからね。あまり考え過ぎないほうがいいよ。大切なことはどうせ――伝わるわけがないのだから」

「けっこう突き放しますね。頭がいい人は皆そうなんですか? いちごちゃんは最近、学者さんらしすぎて困ります」


「いや、そういうことではないよ。思考伝達手段が音声によるものでは限界があるというだけの話だ。更に僕達の認識範囲にすら限りがある。だから、本質的に”識る”ことなど在り得ないのさ。僕はそれをわかっているだけだ」

「つまり、小難しいことを並べても完璧にものを伝えることは出来ないと。でも、いちごちゃんのことなら言葉で伝わらなくても、他の何かこう――温かいもので伝わりますよ?」


「それが理想形の一つだろうね。本当に伝わったのか、ただの勘違いなのかは確かめることが出来ないけれど」

「いちごちゃんと一緒に居られれば幸せですよ?」


「さあ、雑談はこれまでだ。物語を始めよう。安定は壊されるためにこそある。物語には加速を、僕達には戦いを、そして人類に破滅を」


バッとフリルに覆われた両腕を広げる。

高らかに歌い上げよう。


「さあ――、始まりだ! 始まるぞ? 始めるよ! 既に賽は投げられた! ハリィ、ハリィ、ハリィ! 海は紅く、地は黒く、天は光り、人類は破滅の刻に足を踏み入れた――。鍵はその手紙の中に。僕たちが何をするべきか、運命に身を任せよう」


「......あの、暇なのはわかりましたから落ち着いて。椅子の上に立たないで。お父上からの手紙は今読み上げますから」


ち、せっかく盛り上げたというのに。

たんぽぽちゃんはわかってないね。


「えーと、こほん。”対結晶体戦術研究学園『クリスタライズ』へ入学せよ”。以上です」

「くっくっく。娘に対しての気遣いのない一言。それも根回しする気が最初から皆無なんてね。中々にイカれた御仁だ。いいだろう、行ってあげようじゃないか」


「だから、お父上に対してのその態度は......。もう、いいです。いちごちゃんの好きにしてください」

「そう、そうさせてもらおうか。別にコネとか使わなくても入学できるだろうしね」


「そうなんですか?」

「うん、けっこう有名だよ? あそこは特別枠をとっているんだ。強い人間を結晶体の狩りに利用するためにね」


「え? 何かされちゃうんじゃないですか?」

「だろうね。表向きの理念がどんな人間でも受け入れる、で裏の理念が実験と狂戦士の育成。で、大きな力を持つ者は人々のために命を捧げる勇者と洗脳すること。僕たちは格好の素材だ。狂戦士としても、勇者としてもよく育つ才能がある。精神操作できたらの話だけどね」


「え? お薬とか飲まされちゃうんですか?」

「いや、それはないよ。薬物支配だと解ける可能性がある。だから、刷り込みやスキルによる干渉が主となるだろうね。意思をしっかり持てば防げるとはいえ、あまりにも厄介だ」


「操られるというのは、ゾッとしない話です」

「僕達くらい自我が出来てれば、そういう精神支配の効果は薄いよ。なんていっても二人だからね。ま、警戒されないように力は抑えておいたほうがいいかもね――、スキルまで」


「え? そこまでですか。まあ、ここにいる人たちも弱い人ばかりですもんね。目立ち過ぎますか」

「僕達と比べるのは可哀想だよ。彼らは彼らで、それなりにお稽古を積んで兵士だか冒険者だかになったんだ。僕達のような人外と同じ括りで語るべきではない」


「それはそうなんですけどね。それでも私から見ると弱すぎて」

「それでいいんだよ。強すぎると排斥される。たんぽぽちゃんが干渉されずに僕と暮らせるのは何故? それは恐れられているからだよ。無用な善意ほど鬱陶しいものはないのかもしれないけど、僕たちは善意なんか受けられない。強すぎるからね」


「あー。世の中には井戸端会議やお裾分けなんてものが存在するらしいですね。以前からお願いごとはよくされましたが――。考えてみれば、心配されたことはありません」

「だろうね。僕たちは化け物だけど、都合の良い神様扱いされることはよくあることさ。利益をもたらせ続けることが出来れば、崇められ続けられる。しかし、少しでも不利益をもたらせば邪神扱いだ」


「ああ。そう言えば、私って屋敷でいちごちゃんを飼ってる放蕩貴族だとか見られたことがありました。私が戦場に来なかったせいで誰それが死んだとかも。私の役割は街自体の防衛なんですけど、どう見られてるんでしょう?」

「人々を守る鳳凰様とでも見られているのだろうさ。その点、僕は楽だった。禁じられた知識と引き換えに研究者と取引をしていただけだからね。まあ、身の程知らずが何人も失踪したようだけど。責められることはなかったな。おそらく、初めから邪神扱いされていたのだろうさ」


「『深淵より這い寄る朱色』」

「『慈悲深き鳳凰』」


ぼそりとつぶやく。

この本質にかすりすらしていない名前こそが――。


「「とんだ異名をつけられてしまった」」


やっぱり合わないね。そう言って笑い合う。

肩をすくめる以外にないよ。

いちごちゃんの3分教室 第19回『深淵より這い寄る朱色』

僕の恥ずかしい異名だ。

研究室を回って、色々と情報を交換していたらこんな名前を貰ってしまったよ。

まあ、瞬間移動を多用した僕も悪いんだけど。

朱色なのは、単に僕の服が紅かったからだろうね。

でもゴスロリを脱ぐつもりはないよ。

この喋り方をやめるつもりもね。

僕が一方的に施しをしたわけではないから、有意義な時間だったよ。

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