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1京のスキルを持つ僕の世界  作者: Red_stone
人との決別
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第18話 破滅の使者”結晶体”

「さて、代理君。僕たちはこのまま滞在してもいいのかな? お望みとあらば、出て行ってあげてもいい」

「おやおや、いちごちゃん。わざわざそれと話す必要なんてないさ。話しならどこででも出来るよ」


「......好きにするがいい。私では止められない」


「ふむ。一応お礼を言っておくよ。他人の物を壊すのはそれほど気分が良くないからね」

「え? いちごちゃん、そんなことを気にしているのかい? 他人を気にかけるのなんて馬鹿のすることだよ」


「それでもさ。僕は負い目を持ちたくない。無駄で愚かであってもね」

「ふーん。まあ、いいんじゃない? 僕だって、こんな獲物を使ってるわけだしね」


鋏を指し示す。

それは武器ではなく、文房具――そんな反論は”それ”の前には通用しない。

視界に入れるのもおぞましい紋章、うぞめくかのような血管。

悪魔的としか言い用のない呪具。

人を呪い、人を殺す邪悪の結晶。

死色の紫。

一度刃を噛み合わせるだけで100の人間を葬り去った鋏。


「それの銘は? 無知なもので、”漆黒”を見たのはこれが初めてでね」

「ああ、『聖鋏(せいさん)ギヨティーヌ』と言うんだ。でも、悪いことをしてしまったかな。初めて見る”漆黒”がこれだというのなら、悪影響も甚だしかろうね」


”漆黒”。

それは呪いにより形作られた呪器。

人を壊すための力。

権威を示す神の御業である”黄金”とは逆をなす兵器。


「別にそんなことはないさ。僕をその程度の器だと思われたくはないね。平気さ――見るだけならね」

「そうか。でも、ま、呪いだからね。さっさと仕舞っておこう」


それは助かる。

見てるだけで何処かに引き釣りこまれそうな気がしていたから。


「で、それはそうと――」


いよいよ結晶体についての話だ。

僕が使っていた寝室で話し合おうということになった。

お兄ちゃんが扉を開ける。

......流石に僕は歩いてるよ?


「おお! ここがいちごちゃんの住んでいた部屋か! スゥゥゥー、ハァァァー」


いきなり深呼吸を始める。


「何をいきなり奇行を始めているの?」

「いや、ここはいちごちゃんの住んでいた部屋なんだろう!? なら、いちごちゃんの匂いが充満しているはずじゃないか」


何を当然のことを、という顔で返された。

お兄ちゃん、さっき僕をお姫様抱っこしていたはずなんだけどね。

ま、支障はないから好きにさせておこう。





「......で、結晶体についての話はどうなったんだい?」

「ああ、結晶体ね。何から話したもんかな」


そう前置きして話してくれた。

過剰に脚色、かつ回り道をされたので僕がまとめよう。

一般人がわかる範囲で、ね。


まず、結晶体とはその名の通り結晶状の生命体だ。

壊したら、さらさらと砂となって消える。

今確認されているのは四面体や、六面体の個体だけだ。

ただし、意思の疎通が出来た例は確認されていない。

その上、現時点では例外なく人類に敵意を持っている。

人間を殺す以外の目的は不明。

自然発生ではなく、何者かが生み出した兵器という線も考えられる。

どこの地球外生命体だよ。


攻撃方法は主に2つ。

体当たりと光線だ。

体当たりはそのまま突っ込んでくるだけ。

それでもかなり恐ろしい。

そこそこの質量を持った鉄をはるかに超える強度を誇る人間大の物体が時速30km以上で迫ってくるんだから。

まともに当たったら生死の境をさまようことになる。

光線だって怖い。

体当たりと違って、かわせばいいという問題じゃない。

地面に当たって爆発するからね。

こっちは拡散するだけ威力は落ちる。

鎧を着てたいたら、死なずには済むかな。


とはいえ、僕の前ではか弱い仔兎だ。

これは結晶体が弱いんじゃなくて、僕が強すぎるだけだけど。

ああ、四面体より六面体のほうが強いよ。


人間で兵卒レベルなら1対1では勝ち目がないね。

普通は集団戦法をとるんだけど。

ま、騎士クラスなら10対1でも楽勝だね。

だから混乱こそ起こってるものの、別に人類の危機というわけでもない。

人類の敵にはなり得ないんだよね。

四面体や六面体クラスでは。



むしろ、食糧危機のほうが深刻視されている。

異変が起きたのさ。

土地が黒く染まり、恵みが枯れた。

海が紅く染まり、魚が取れなくなった。

光の矢により、大勢の人間が死んだ。


これは一部の地域で起こったことだ。

一部とはいっても、かなり広い範囲だけどね。

そうだね、全部合わせるとこの世界の三分の一くらいにはなるかな。

いくつかの国が滅びかけてるくらいだから、やはり一部なんて気軽には言えないか。


結晶体がもう少し強かったら、本気で人類滅亡の危機だよ。

異変前は70億くらいいた人口が数億まで減ってたかもしれないぜ。

まあ――、このまま手をこまねいてるようだったら半減くらいはするだろうな。

僕は手を貸すつもりはないけどね。

民草の世話は政府にでも任せるよ。

僕は、そうだね――。

研究機関にでも潜り込ませてもらおうかな。




ちょうどたんぽぽちゃんが向かったという”アーカムシティ”は研究と工業の街だ。

実はここには普通の産業用の研究に隠れて『隠秘学』の研究が行われている。

とはいっても陰秘学は二通りに別れる。

『怨霊学』と『世乖学』。

前者は主に”漆黒”、後者はこの世界でないものの研究。

違いははっきりとしているのだけど、他者から見ればどっちも似たような危ない研究にしか見えないというのは、やはり”普通”に付随する罪悪であろう。


僕が興味を持っているのは怨霊学。

言ってしまえば、正しい力の結晶が”黄金”、邪悪な力の結晶が”漆黒”と言われている。

この人外にしてみれば、暗黒の力に興味を抱くのはむしろ当然。

”黄金”の所有者に力を与え、破壊出来ないという性質は興味を惹かれる。

だが、”漆黒”の所有者に呪いと在り得ざる力をもたらす性質はもはや興味を惹かれるどころではない。

”黄金”の前に”漆黒”! 絶対に手に入れてみせる。

そして”アーカムシティ”で研究するんだ。

合間にはたんぽぽちゃんとお茶でもしながらね。

いちごちゃんの3分教室 第18回『漆黒』

武器だね、わかりやすく言えば。

それも呪いがかかった武器だ。

『聖鋏ギヨティーヌ』はその中でも最高級、いや最”低”級かな。

効果は鋏が噛み合わされると同時に人間の体が切断されること。

油断すると自分が切り刻まれかねない最悪の武器だ。

使うには強い精神力が必要とされ、扱うには更に強固な精神力が必要とされる。

実はほんの少し集中力がブレただけでもお兄ちゃんは死んでいた。

『病闇の使用人』はそれほど甘くない。

1秒あれば人の体なんてバラバラに出来る。

その中でも眉一つ動かさない精神力は流石といえる。

まあ、”漆黒”を操るのならその程度は児戯であるのだけれど。

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