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1京のスキルを持つ僕の世界  作者: Red_stone
人との決別
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第17話 『紫紺の道化』

「激戦区、もしくは立ち入り禁止区域に出没する貴様がなぜここにいるかは、もはや問わん。全ての国家に指名手配されている貴様が、この残骸院の本拠地に乗り込んでくるとは無謀な真似をしたものだ。貴様は今、此処で死ね」


残骸院の偽物が宣言する。

ああ、ヤダヤダ。

バレてるのにまだ続けてるよ。

正体を表すことですら、ご主人様の命令がないと判断できないんだね。

本当、ああいう自分の意志がないやつって嫌い。

樹脂細工の人形のほうがよっぽどマシ。

お人形に失礼だったかな?


「おやおや、ここで僕達二人を敵に回してどうやって勝とうと言うんだい?」

「うんうん、そのとおり。僕達兄妹のコンビネーションは相当ねちっこいんだ」


「さて――」

「まずは、此処を見ている奴の掃除から始めようか」


「え.....?」

「......ん?」


僕はお兄ちゃんを見る。

お兄ちゃんは僕を見る。


「もう、そっちは『無色の毒<オキシジェネイト>』で片付けてあるよ」

「......」


ぐだぐだだった。

コンビネーションの欠片もないね。

僕は、「こそこそと伺ってる奴らに期待しても無駄だぜ」みたいなことを言おうと思っていたんだけど。


「ぐぅ......。やれ!」


掛け声。

別に振り向くとかはしない。

あいつらも忍者なら卑怯卑劣は売りでしかないだろう。

なら......


「後ろからかな!?」


え? お兄ちゃん振り向いちゃうんだ。

って、振り向かれたら僕も後ろ向きに!

僕を抱えたままで体ごと振り向かないで......。


「ああ、もう! 『千里眼<クレアヴォリアス>』。何をしようと、お見通しだよ!」


何もない?

いや――。


「あれ? 来ないな......。いちごちゃん、彼らが何してるのか分かるかい?」

「もう! あいつらの狙いは僕達を怯ませることだよ。あの一瞬で城の攻性結界を起動、さらに仲間を呼び集めてる! 僕は穏便にこの場を立ち去るつもりだったのに」


「へー。そんなことまで分かるなんて、すごいね。さて、どうするべきかな?」

「僕の『座標転換<ワープポイント>』で逃げるよ。そのまま僕を抱いててね――。わっ」


下ろされた。

僕の思惑をことごとく阻止してくれるね、お兄ちゃん!

こんなことをするからには――、お兄ちゃんの手腕を見せてもらおうか。


「ふふん。囲まれたところで、どうということもないさ。君たちはこの混濁色を相手に何をしてくれるつもりだい?」

「貴様と話すことはない」


「あらら、んなこと言っちゃって。本当は戦力が足りないんだろう? 別に戦争の用意をしていたわけでもないんだ。唐突に僕の訪問を受けて、準備万端という方がおかしい」

「否。この城には残骸院いちご捕獲のための特別戦力が用意されている。如何に残骸院いちご、並びに『紫紺の道化』とはいえ、100という数を相手に出来るはずがない」


淡々と相変わらず感情のない声だ。

お兄ちゃんの過剰な身振りと演技過剰な声を見習ってほしいものだ。


「100? それは驚きだ。僕はとても、とても驚いてしまったよ。なんと、100! 戦力というからには君達程の手練なのだろう? ああ、恐ろしく、おぞましく、忌まわしいことこの上ない――」

「貴様でも恐れることがあるのか? ――戯言は貴様の魂まで拘束してから聞いてやろう」


嘆くように天を仰ぐ。

そして偽物はまともに取り合うのをやめたようだ。


「――ああ? 何を勘違いしているのだい? 僕が恐れると? 僕が拘束されると? はぁ。そんなんだから、そんなんなんだよ」

「何を? まあ、無駄話をされる分には構わん。こちらも準備ができる」


やれやれとお兄ちゃんが首を振る。

まあ、常人に想像できるような理由があるとは思えないね。


「はっ! 脳をかっぽじってよぅく聞け――」

「......」


......死刑宣告?


「僕は流浪人、使命は糸紡ぎ! 十二の星痕を身に纏い、これより剪定を......開始する!」


「......っ!」


おもむろに武器を引き抜こうとした瞬間、影が襲い掛かる。

前後左右、プラス上下。逃げ場なし。

そして、十数人が狙撃を狙っているのを感じる。

決め台詞を吐いたところで悪いけど、まさに絶体絶命。

さあ、見せてみな。混濁色の力とやらを。


「その力を得るのには苦労したろう。感情を捨て、国家絡みの拷問じみた教育を受けて。その陵辱の果てにその力を得たんだろう? けれど、ね。僕はそんな君達ですら、死を超えるほどの研鑽を重ねてきた君達ですら束になろうと敵わないほどの圧倒的武力を持っている......持ってしまえている。本当に僕の力というやつは忌まわしい――」


断!


斬った、ではなく断った。

――鋏。

それが彼の獲物だった。

禍々しい紫色に、おぞましい装飾。

彼は一瞬で襲いかかる影全ての首をぶつりと断ってしまった。

次元が違う。

確かに、束になってかかろうとお兄ちゃんには指一本触れられずに殺されてしまうだろう。

遠くに隠れていた影達まで。


「『紫紺の道化』......!」

「ああ、まだ生きてたんだ? 向かってこないものだから忘れてたよ。さよな――」

「ストップ。あれに敵対する気はないようだし、放っておこう」


「何故だい? あんなやつは生きていても世界に影響しない、単なるクズなんだよ? 一度敵意を向けてきたからには殺すべきだ」

「アイツの代替品はいくらでもいる。それなら、別に殺す必要だってないさ」


「優しいね、いちごちゃん。でも、その考え方は敵を増やすよ」

「それこそ影響なんてしない。弱者は強者を認めない。敵なんて何処にでも、いくらでもいる。実行に移さないなら、対処する必要はない」


「ふぅん。それがいちごちゃんの考えなら僕は構わないよ」

「......ありがと」

いちごちゃんの3分教室 第17回『絆』

僕とたんぽぽちゃんやムラサキお兄ちゃんを繋いでいるものだね。

能力というわけでは――ないのかな?

そこら辺ははっきりしないね。

効果はお互いの居場所がぼんやりと分かる程度。

忌避感を感じないのも効果かな?

僕は普通の人間を嫌っているし、初対面の人間は大体が大嫌いだ。

けれど、初対面でもムラサキお兄ちゃんに対しては嫌いと思えなかった。

それどころか、親近感を感じた。

たんぽぽちゃん以外で初めてだね。

ま、大人になれば――、絆というものが分かるものかなぁ?

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