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1京のスキルを持つ僕の世界  作者: Red_stone
人との決別
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第16話 お兄ちゃん登場

「さて、他に言うことはあるかな? 先程の世迷言だけなら僕は行かせてもらうよ。行きたいところがあるんでね」

「何処へだ?」


「ふむ......。興味が有るのかい? それとも発言に一々突っ込みを入れろと命令されているのかい?」

「残骸院いちごが命令に従わない場合、行動予定を探れと命令されている」


「行動予定か。さて――、一度人間でも滅ぼしてみようかな......」

「そうか」


「いやいや、本気にしないでよ。冗談が通じないね。人形と話していてもつまらない。全く何の詰まりも無い。何の意義もなく、無機質に朽ち果ててしまえ」


僕はさっさと出て行こうとする。

父上殿は人形を通してでも面白い人間だった。

けれど、僕には人形と話す趣味はない。

伝言だけ聞いたら用済みだ。


「待て」


声が掛かる。

人形の言葉を聞く気はない。

今操ってる他の人形に殴らせて、口を防いでやろ――


......!?

体が動かない。

スキルも使えない。

まるで、神経が断裂したかのように、指令が僕の体を伝わらない。

体に力が入らず、俯けで寝っ転がるような体制に。


「な...に......が......?」


駄目だ。

口もうまく動かない。

筋弛緩剤でも打ち込まれたか?

そんな馬鹿な。

空気中に散布した所で僕には届かない。

食事に混ぜていたとしても、既に解毒は完了しているはず。


「僕に......何を...した......?」

「残骸院いちご、命令に従わない場合には拘束せよとの命令だ。お前は反省するまで、拘束からは逃げられない」


確かに――、魔力が使えない。

これではスキルも使えない。

脱出は不可能。

哀れ僕は囚われの身というわけだ。


10年前だったらね。

あの10年で僕は強くなった。

この程度の拘束は壊して、後にスキルで完全除去すればいい。


けれど、こちらを見ている人間が居る。

馬車の道中すっと僕達を観察していた。

僕が囚えられたらどういう反応をするのか、見ておくのも悪くない。

もちろん、エッチなことをされたら。いや、される前に拘束壊して、その人間も壊すけど。




暗殺者の支配が解ける。

あいつら、僕みたいな幼女に支配されて恥ずかしくないのかな?

そんな感情持ってるわけがないか。

人形なら触られたところで嫌悪感はそれほどないかな――。


実を言うと、僕って潔癖症の嫌いがあるんだよ。

素手で他人に触れるのって、おぞましくないかい?

手袋がなければ握手だって嫌だね。

触られるのなんて、それはもう殺してやりたくなるほどだ。

まあ、実際にはスキルで完全殺菌で極薄の空気膜で手袋、というかスーツ? を作るんだけどさ。

もちろん、たんぽぽちゃんは別だよ。


ああ、変なこと言ってる間に暗殺者共が来たよ。

『潔癖症候群<リジェクト・シンドローム>』!

.........発動しない!?

今封じられてるよ。

うわわ!? 他人の手が僕のそばに。

汚いよ。

汚染されるよ。

べったべたに菌が付いちゃうよ。

来るな来るな来るな!


「そこまでだ!」


へ?

やっぱり力技で拘束を解こうかなぁ、と思ってると声が響いた。

中々に男らしい声だ。

けど、わざわざこの状況で?

放っておけば僕の力の一端が見れたのに。

まさか助けに来たわけでも――。


「お兄ちゃんが助けに来たよ! もう安心だ。全てこの引力詩ムラサキに任せてくれ――。そう、お兄ちゃんが朝のお着替えから夜の添い寝まで全て面倒を見よう!」


助けに来たようだ。

しかもこの人、変態だ。

僕、正装オールバック変態に知り合いは居ないんだけど。

正装っつっても、スーツじゃなくて騎士服とかに近いやつだぜ。


「大丈夫かい? さあ、僕に名前を教えるんだ。なに、僕の腕の中にいるからって恥ずかしがることはない。いつでも僕はオープンさ」


........何が?

とりあえず、僕をお姫様抱っこするのは......やめなくてもいいか。

なんとなく安心できるし。

何でだろ?

嫌悪感とか全くわかねーなー。

って、いつのまにか拘束が解けてる。


「お兄ちゃん、僕の名前は残骸院いちごだよ。いちごでもいちごちゃんでも好きに呼んでくれ。で、どうしてこんなところに来たのかな? 意思疎通は大事だと思うのだけど」

「うんうんうん。意思疎通か、いちごちゃんとはゆっくりとお話を聞きたいね。思う存分、僕にその可愛い声を聞かせてくれたまえ」


「へー。短い付き合いでもここまで性格が分かってしまう人なんて珍しいね。ま、分かり易いに越したことはないよ。で、此処に来たのは僕に会いに来てくれたということかい? お兄ちゃん」

「そうだとも。この5日間じっくりたっぷり観察させてもらった。残念ながらたんぽぽちゃんとの会話は先延ばしになりそうだけど」


「そうだね。多分今頃は”アーカムシティ”にでも居るんじゃないかな。僕を置いていったのは、『彼岸にて嗤う無貌』に防衛の責務を任されたからだろう」

「ふむ。あそこは色々と秘密が多い場所だからねぇ。まあ、深い奈落の果てにある秘密なんだ。たんぽぽちゃんが関わることはありえないと言えるから安心だね」


「たんぽぽちゃんは強いぜ? 誰が相手でも大丈夫さ」

「そうでもないよ。世界に君に敵う敵が居なくとも、外にはおぞましい程に強い化け物以上の、ただ強いだけの人間が居る」


「ふん。知っているさ。僕はそんなのとは関わりたくもないね」

「同感だよ。本当に」


「で、僕は結晶体ってのをこいつらに聞こうと思ってたんだけど、お兄ちゃんは知っているかい?」

「もちろんだとも」


「じゃ、寝室で話を聞こうか。いつまでもこんな場所と言うのもなんだし。お兄ちゃんだって腕が疲れてこないかい?」

「いや――。そんなことは全然、全く、完璧にないと力強く断言させてもらおう。可愛いいちごちゃんなら、何時までだって抱いていられるさ。なにせ僕は世界一妹を愛する男だ」


うわーー。

恥ずかしげもなく宣言しちゃったよ、この変態お兄ちゃん。

でも、ま。

会ったばかりだけど僕も愛してるぜ、お兄ちゃん。

人を好きになるのは一瞬で十全ってことかねぇ――。


「待て、『紫紺の道化』。秘密や危険のある場所に貴様が出没するのは珍しいことではない。しかし、

残骸院いちごに何用があるというのだ? 貴様と残骸院いちごに何の関係があるというのだ?」


「関係? 面白いことを言うねぇ――。この混濁色にそれを聞くか。僕はいちごちゃんを妹として愛している。もちろん、それだけではないけどね」

「血にも恋にも依らない苺色よりも深い色の糸で繋がっているのさ。僕にはそもそもの思惑とかないけどね。ほら、僕は可愛い可愛い幼女だから」

いちごちゃんの3分教室 第16回『アーカムシティ』

工業と商業の街だよ。

数少ない貴族に支配されない自治区でもある。

中世に似たこの世界において、産業革命を果たした唯一の場所といってもいい。

ここ以外では大規模な工場なんて無いよ。

精々が工房だね。

けれど、それは表の顔。

裏では忌避の的である学問『怨霊学』と『世乖学』が研究されているのさ。

もちろん貴族や王族にすら秘密でね。

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