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1京のスキルを持つ僕の世界  作者: Red_stone
人との決別
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第10話 魔女の嫌疑

「やれやれ。大変だったよ。まあ、終わってみれば......楽しかったりもしたかな?」

「いちごちゃん......。私はもうごめんですよ。二度とあんな戦いしたくありません」


戦闘を終えた二人はゆっくりとお茶を楽しんでいた。

大仕事を終えた後の気怠るげで、それでも達成感を含んだ特有の空気がやわらかく二人を包む。

声にはどこか覇気がなく、眠たげであった。


「そうだねぇ。二度とは言わないけど、1週間ほど戦闘行為は慎みたいところだね。疲れちゃったよ」

「流石のいちごちゃんでも次の日には元気いっぱいというわけにはいきませんか......」


それじゃ子供だ。

いや、僕は子供か。

でも精神はけっこう老成してるんだよね。


「ま、どうせ常にだらだらしていたんだ。普段と同じようにしてるだけで休息にはなるさ」

「それはいちごちゃんだけですよぅ。私にはたくさん仕事があるんですよ? ちょっと手伝ってくれません?」


「いいよ。『清星掃送<クリーニング・スター>』で掃除なんてちゃっちゃと終わらせようか」

「へ? そんな便利なスキルがあったんですか? なら、毎日お願いしても......?」


本来は証拠隠滅用のスキルなのだけれどね。

ま、こういう平和利用も良いものだ。


「別に良いよ。君のメイドとしての誇りが許すのならば、だけどね」

「あぅ......! メイドとして主人に掃除なんて雑用を押し付けるわけには......」


たんぽぽが苦悩している間に星のきらめきが周囲を駆け巡る。

残念ながら見てわかるほどに汚れてはいないので、効果のほどはわかりづらいが。


「もう、やっちゃったけどね。ま、ゆっくり悩めば良いさ。僕はゆっくり紅茶でも嗜んでいることにするよ」

「あうぅぅ。いちごちゃんに掃除をさせるか、メイドとしてのなけなしの誇りを捨てるか......! 実に悩まし問題です!」


......うん?

ま、いいか。


「ところで、たんぽぽちゃん。この屋敷に集団が近づいているよ。近くの村の者だろうね」

「へ? 何の用でしょう? 心当たりはありませんが......」


「警戒しておくに越したことはないね。昨日はいきなり襲い掛かられたのだから」

「ああ.......。村の人なら、そんなことにはならないと思いますが」


「だから警戒なのさ。完全に敵と分かっていたら先制攻撃を叩き込んでいる。ま、あんなに無防備なら戦闘しようなんて気はないのだろうさ」


実際は冒険者でもない村人が必死に装備をかき集めた結果の完全装備状態がいちごには丸見えだったのだが、いちごの目には単なる獣よけにしか見えなかった。

まあ、天使やたんぽぽの実力を見た後で村人など見れば、どんな格好をしていても戦闘のための装備には見えなかっただろうが......。

この場合、弱さが良い方向に働いたと言って良いだろう。

少なくとも、村人にとっては。

喰らえばこの世から消失しかねない先制攻撃を受けずに済んだのだから。


「うーん? 食材なら配達を頼んだこともありませんし、家具も用意されたものを運んだだけで彼らに頼んだことはありませんし......。本当に何しに来たんでしょうね?」

「世間知らずの僕には分からないね。ま、村人が何をどうしようと僕らをどうにかすることはできないさ」


ガンガン、と扉を叩く音がする。

粗野な奴らもいたものだ。

扉を壊したいのかな?


「ここは残骸院様の屋敷で相違ないか!?」


さて、僕をお呼びか。

流石に父目当てではないだろう。

ここには僕とたんぽぽちゃんしかいない。


「来たみたいだね。彼らは魔鈴のことを知らないと見える」

「まあ、村人が知っているようなことではありませんからね。さ、私が行きますから待っててください」


貴族には周知のことでも、村人に知れというのは無理か。

良い音色を鳴らすには、結構な魔力運用の技術が必要だしね。

貴い人物ほど良い音を鳴らす。


「いや、僕も行くよ。なんせ僕は残骸院なのだから」

「こういうときは従者に任せるものですよ」


普通ならね。でも――


「何か嫌な予感がするものでね。予感に従って外れてもさほど残念には思わないけど、無視して当たったてじまったら無念極まりないだろう? いいじゃないか、子供の我が侭を聞いてやっても」

「むぅ......。分かりました。分かりましたよ! どうせいちごちゃんは断ってもスキルで何とかしちゃうんでしょう?」


「はは。分かってるじゃないか。では行こうか、彼らとの協議へ」




「さて、君らの発言をもう一度繰り返してもらおうじゃないか?」

「言ったはずだ。貴様のような子供に用はない。わし等はそちらの使用人を断罪するためにこんな場所まで来たのだ」


いきなり押しかけてきて何を言うかと思えば。

せっかく椅子まで用意してあげたのに、この言い草。

殺してどこかに捨てちゃおうかと思っちゃったよ。


「へぇ。たんぽぽを断罪しにねぇ......。覚えてるかい? 君らが僕を見て最初に言ったことは”ガキは引っ込んでいろ”だったよね。発言内容が増えているんだけど、そこはどう考えているのかな?」

「黙れ! ガキが屁理屈をほざくな! 貴様はさっさとその使用人を引き渡せばよろしい」


ふん?

たんぽぽちゃんをどうするつもりだ、こいつらは?

どうせ、ろくなことではないのだろう。

こいつらは普通の人間で、僕たちは化け物なのだから。


「よろしい? 僕にとってよろしいこととは君らに退去してもらうことなんだけどね。慈悲深い僕が君たちを冥界送りにする前に早く帰ることをお勧めしよう。君たちが存在していられるのは、僕が人殺しを好まないからでしかない」

「ほぅ。力ずくか? ガキには数の差が分からないと見える」


「老人には自分がまるで武器を持っているかのように見えているようだ。そんな料理道具で何をする気だい? 精々同士討ちの役に立つか立たないかと言ったところではないかな? もし、それを武器に見えるのなら哀れなものだよ」

「ガキにはこの剣が包丁にでも見えるらしい。道理を知らんガキだ」


これもたんぽぽが強すぎたことの弊害。

というか、たんぽぽは剣を用いて料理している。

包丁よりも剣の方が扱いなれてるのだ。

だからいちごは村人たちが持っているような安物の剣など料理道具にすぎないと認識してしまっていた。

剣は安物でもかなり高価なのだが。少なくとも包丁よりは。


「道理? 道理ねぇ......。僕の知ってる道理というのは強い方が我を通すということなんだけどねぇ。まさか、君たちは10対1なら僕に擦り傷でも付けられると? ははは! 笑っちゃうくらいに滑稽だ。おかしくてたまらない」

「貴様......。良かろう。年上への礼儀を知らぬガキにはしつけが必要だな」


おっと、顔を真っ赤にして起こっちゃった。

これだから老害は。

状況を認識できていないどころか、長生きした程度で自分が偉いと勘違いしている。

もう馬鹿すぎて滑稽だ。

ここまで来れば、笑えるレベルだよ。


「ははは! またまた面白い冗談だ! いいね! そのまま続けてくれれば僕の腹筋を笑い死にさせるという快挙を遂げられるかもね!! 君が人類史上初、人を笑い殺した男だ。誇りたまえ!! ......ぷっ。あははっ」

「きっさまぁ......!」


顔を憎々しげに歪めている。

今にも手が出そうだ。

けれど、言いたいことは言わせてもらう。

僕は君に尊敬もしてなければ、義理もない。


「年上への礼儀ぃ? そんなものはねぇ、自分より物を知ってる相手にするものだよ。無駄に年を重ねただけの痴呆老人に尊敬を払うなんて、馬鹿馬鹿しいことこの上ない! 無駄どころか、害悪ですらある」

「おのれぇぇ......!」


「ははは! 言い返せないかい? ま、無駄に年を重ねた人間などそんなものさ! 生きる価値のない人間など、この世に嫌というほど溢れているから心配するなよ。馬鹿仲間なんてたくさんいるさ!」

「くっ......! 殺してやる。殺してやるぞ......!」


ぶるぶると震えた腕で剣を掲げて。


「お止めください、長老! 残骸院様のご子息を殺したら、この村は......!」


お連れの一人に止められた。

その隊長らしき人物は仲間に向かって怒鳴る。

流石に長老が貴族の、それも村を統括する貴族の娘を殺したら自分達がどうなるか分からないはずがない。


「ええい! 長老様は私が抑える! チュウキ、貴様が用件を話せ!」

「は! 昨夜、この屋敷に向かって禍々しい光が墜落するのが見えたとの証言がありました。よって、再生烙たんぽぽを異端審問に掛けることが決定いたしました!」


その間にも長老は剣を振り回し続ける。

完全に理性を失っていた。

もはや、3人がかりでないと抑えていられない。


もっとも、彼らの戦闘能力を100とするといちごの戦闘能力は万を軽く超える。

30や20になったところで、弱いということは少しも変わりはしなかった。


「審問日時は明後日の正午です。再生烙たんぽぽはそれまでに広場に出頭すること! 以上です!」


「では、ゆめゆめ忘れることのないように――。ショウジョウ、セイジ、タイシャ、ベンガラ! 長老を抑えろ。外に出るぞ!」


リーダーが補足して去って行った。

やれやれ、天使を退けたところで――

――十全とは行かなかったらしい。

いちごちゃんの3分教室 第10回『異端審問』

異端審問とは魔女の嫌疑がかけられた者を捕まえて裁判にかけることだ。

もちろん、周り全てが敵の出来レースだけどね。

裁判に勝てる道理なんて初めから存在すらしていない。

相手を殺すための裁判なのだから。

ま、殺される前に相手方を皆殺しにしてしまえば勝ち――でもないね。

それでいいんなら、最初から捕まったりはしない。

最初は人に害を与える魔女を倒して、平和を勝ち取ることが目的だったんだ。

ちなみに、魔女ってのは魔法で人に悪いことをする者のことだ。

だから、定義上では良い魔女は存在しない。

そっちは賢者に担当するのかな?

けれど、段々と娯楽的側面が強くなっていってね。

お金のためとか、処刑のためにやるようになっていった。

それが異端審問さ。

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