夜警さんがゆく(四百文字お題小説)
沢木先生のお題に基づくお話です。
今回は「夜警」をお借りしました。
佐々木次郎はある会社の警備員。
元日だと言うのに夜勤だ。
今日は家で妻と二人でゆっくりしたかったなと思う次郎である。
しかし仕事は仕事だ。
「じゃあ、定期巡回に行って来ます」
もう一人の警備員の宮本武男が言い、警備室を出て行った。
「次郎さん、明けましておめでとうございます」
そこに晴れ着姿のスチャラカOLの律子と紋付き袴の彼氏の藤崎君が現れた。
「おう、おめでとう、律ちゃん、藤崎君。二人揃ってどうしたんだ?」
次郎は驚いて尋ねた。
「いつもお世話になってるから」
律子は缶ビールをレジ袋から出して見せる。
「いや、勤務中だからまずいよ、律ちゃん」
次郎はつい嬉しそうな顔をしてしまったが、慌てて断わった。
「大丈夫。ノンアルコールだから。宮本君と飲んでね」
律子はレジ袋を机の上に置くと警備室を出て行った。
「ありがとうな、律ちゃん、藤崎君」
次郎は部屋を飛び出し、通路を歩いて行く二人に言った。
皺だらけの目尻に涙が滲んでいた。
お読みくださり、ありがとうございました。