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村の大掃除

「ちょっと、待たせたかね?」

 先に来ていた一生達に、民子が森の奥から現れ、話しかける。

「いいえ。私達も、今来たところですから」

 一生は、微笑み答える。

 ガサガサッ・・・!

 近くの木が揺れ、同じ顔をした、文也とフミヤが現れる。

「・・・?文也が、2人?」

 まるで、ドッペルンガーを見た様に、稔は驚く。

「紹介の必要はないかも知れないけど、こちらはリナさんの婚約者のフミヤさん。森の奥の洞窟に捕まってたんだ」

 自分の横に立つフミヤを、一生達に文也が紹介する。

「これは驚いた。こんなに似ていたとは・・・。初めまして、私は勇者をやっている、井上 一生といいます。リナさんが、あなたの事をとても心配していましたよ」

 少し驚いた後で、一生はフミヤに手を差し出す。

「初めまして。リナが、心配していましたか・・・」

 一生の手を握り返し、フミヤはうつむく。

「私は、魔女の魚住 民子。そして、こっちが吟遊詩人の花形 稔。で、あんたのそっくりさんが、武道家の長居 文也。これで紹介は終わったね。立ち話もなんだから、そこに座っとくれ」

 自分を含め、残りのメンバーの紹介を手早く済ませ、民子はフミヤに、その辺に適当に座る様に促す。

 フミヤは、言われるがままに、近くの石の上に腰を降ろす。

「それで?どうして、あんなところに閉じ込められていたんですか?」 

 自分も同じ様に座り、文也がフミヤに問いかける。

「1か月位、前の事になります。怪物が、俺達の村に出るようになって、村の男達で順番に夜警をする事になったんです。何回目かの夜警の時に、仲間とはぐれてしまい、俺は見てしまったんです・・・」

 フミヤは、一旦そこで、言葉を区切る。

「一体、何を見たの?」

 青い顔でうつむいているフミヤに、稔が尋ねる。

「あの時は、暗くて方角を見失って、森の奥深くまで踏み込んでしまったんです。そしたら、村を襲っていた怪物と村長が、何かを話し合ってました。最初は、直接交渉かと思って、気づかれない様に近づいたんですが、会話を聞いていたら、全く違う事が、直ぐにわかりました」

「彼等は、一体、何を話していたのですか?」

 一生は、フミヤに先を話す様に促す。

「怪物は、4枚の紙を見せて、この4人を生贄に差し出せば、村に多額の報償金を与えると話していました。村長は、迷う事なく怪物と握手をして、約束をかわしていました。俺、あまりの事に驚いて、そのまま逃げ帰ったんですが、どうも村長達に見られたらしくて・・・。それで、その日の内に呼び出され、後はずっと、あそこに閉じ込められていたんです」

 抱えていた秘密を吐き出し、フミヤは肩の力を抜く。

「もしかして、その生贄ってのは、私等の事かい?」

「はい、そうだと思います。この村に、冴えない4人組の旅人が来れば、それが勇者の一行だと、村長達は話していました」

 民子の問いかけに、フミヤは答える。

 冴えないという言葉に、一行の眉がぴくりと揺れる。

「あっ、すいません。でも、俺が言ったんじゃなくて、あいつ等が言ってたんです」

 全員に軽く睨まれ、フミヤは申し訳なさそうに目を逸らす。

「・・・確かに地味ですが、人に言われると、思いの他、頭に来るもんですね」

 普段は温厚な一生も、村長達の無礼な物言いに、腹だたしさを感じていた。

「いいじゃないか。言いたい事を言われた分、明日は十二分に仕返しをしてやる」

 民子は、今から、明日のシュミレーションを、頭の中で繰り広げている様だ。

「全くです。村の人を騙し、怪物と手を組んだ奴に、そこまで言われる筋合いはありませんよ」

 村長の顔を思い出し、文也は苛立ちを覚える。

「いいんじゃない?冴えないかどうかは、本人達の目と耳で、直接判断して貰えば済むだけだし」

 そう言い、稔は静かに笑う。

 明日は、悲鳴も出ない程のリサイタルを、あいつ等に聴かせてやろう。

「・・・あの。それで、俺はどうすればいいですか?」

 それぞれの思いに耽っている一生達に、フミヤは恐る恐る問いかける。

「そうだね。さっきの洞窟に戻って、明日全てが終わってから、私達が迎えに来るのを待っておくといい。今、あんたに出てこられると、話がややこしくなっちまうからね」

 軽く肩をすくめ、民子は、フミヤの問いに答える。

「えっ・・・?大丈夫でしょうか?」

「大丈夫。俺達は、何も知らないふりをしておくから、村長達もフミヤさんの方にまで、気は回らないと思うよ」

 不安そうなフミヤに、稔は微笑む。

「生贄役のリナさんは、私達が守るから、君は何があっても出てこないで欲しい。」

「・・・!そんな、リナが生贄って、一体どういう事ですか?」

 一生の言葉を聞き、フミヤは取り乱す。

「大丈夫、ただの飾りです。俺達に怪物退治をさせるために、村長達が立てた桜ですから、リナさんの身には何の危険もありません」

 文也は、フミヤに落ち付く様に言い聞かす。

「でも・・・」

「大丈夫と言ったら、大丈夫なんだよ。とにかく、あんたは洞窟に戻って、明日までそこで待機しておく事!いいね?」

 まだ不安そうにしているフミヤに、民子はたたみ込む様に言い聞かす。

 フミヤは稔と文也に送られ、さっきまでいた洞窟に逆戻りにされる。

「民子さん。見つかったフミヤさんの事は、リナさんにも内緒にしておきませんか?何より、私は怪物が私達を狙う理由を知りたいですしね」

 3人を見送った後で、一生は民子に話しかける。

「井上さん。私も、全くの同感だね。私はどうも、影でこそこそされるのが嫌いな性分みたいでね。全員生け捕りにして、誰の差し金か、洗いざらい吐かせてやろうじゃないか」

 そう言い、笑う民子と顔を見合わせ、一生も頷く。

 やがて、フミヤを送り届けた文也と稔が戻ってきたため、4人は連れ立って、村長の家へと戻って行く。

 何の収穫もなく、疲れた芝居をした4人に、村長は満足そうに微笑んでいた。

 4人はうなだれた様子で食事を取り、あてがわれた部屋で、眠りにつく。



 次の日の夜、白いドレスに身を包み、頭から白いベールを被せられたリナが、何も知らない村人達が見守る中、怪物の指定の場所へと連れて行かれる。臆病な村人は、沈痛な面持ちで、生贄の列を見送る。

 一生達も、黒いフードを頭からすっぽりと被り、列の最後尾に着く。

 しばらくして、生贄の列は、約束の場所に辿り着き、リナ一人をその場に残して、他の者達は去って行く。

 一生達は、一旦は、他の者達と共にその場を離れ、その後直ぐにリナの元へと引き返す。

「着いて来ているね」

 村長達も、自分達の後を尾けて来ている事を確認し、民子は笑う。

「リナさん。ここは危ないから、直ぐに村に戻って!」

 一人立ちつくしていたリナに、文也が話しかける。

「でも、皆さんは・・・」

「大丈夫。どんなに貧相に見えても、私達は勇者一行ですから。勇者の仕事は悪い奴を倒し、皆が暮らしやすくする事です」

 不安そうに全員を見渡すリナに、一生は安心する様に言い聞かせる。そして、目線だけを村長達が潜んでいる木陰に移す。

 ウオオオオオッ!

 リナは、一生の言葉に頷き、その場を離れ様とするが、突然響いた凄まじい咆哮に、足がすくみ、動けなくなる。

「遅かったみたいだ。仕方がない。リナさん、俺達から離れないで!」

 リナを避難させる事を諦め、稔はリナを自分達の背後に庇う。

 声に負けないぐらいの地響きの後で、怪物が姿を現す。

 その容姿は、上半身は屈強な人間の男で、下半身は牛の姿をしていた。身長は2m近くもあり、かなりの迫力がある。今までの怪物とは違い、かなり強そうだ。

 初めて見る半人半獣の怪物を、一生達は睨みつける。

「うわははははっ!聞いていたよりも、益々、非弱そうな連中だな。大丈夫かぁ?お前等、戦えるんだろうな?」

 一生達を見下ろし、怪物は豪快に笑う。

「初めましてですよね?どうも私は、あなたとは初対面な気がするんですが?人間の知り合いはいても、あなたの様な半分牛の人は知らない筈です」

 怪物を見上げ、一生は話しかける。

「面白い事を言う人間だな。わしも、本来なら、お前等みたいな小物には、一切興味はない。それにこんな痩せた土地など、魅力も感じんわ」

「その割には、手の込んだ罠を張って、私達を待っていたみたいだけど?悪いけど私、牛男には興味はないのよ」

 つまらなさそうに、鼻を鳴らす怪物を挑発する様に、民子は手を振り、追い返す素振りをする。

「ふざけんな!わしだって、お前みたいな不味そうな婆には、興味なんかない。大体、お前等全員、瘠せてたり、太ってたりで、食欲すら湧かんわ!まあ、その後ろの女なら美味そうだが」

 民子の言葉に怒鳴り、怪物は稔の後ろで身をかがめているリナを見て、喉を低く鳴らす。

 怪物の視線を受け、リナは震える。

「おっと、サーロインステーキになるのはそっちだろ?狙いが俺達なら、浮気はしないで欲しいね。両方欲しがると、どっちも逃すよ?」

 稔は体をずらし、怪物の視線からリナを完全に隠す。

「生意気な小僧だな。おかまみたいな恰好をしやがって。もしかして、お前は女か?」

 ヒラヒラとした衣装を着た稔を、怪物はからかい笑う。

「下半身が牛な奴に、馬鹿にされる覚えはない」

 怪物の言葉に、稔は不快そうに言い返す。

「それで、どうして俺達を狙ってたんです?あんたに興味がないのなら、一体誰が、俺達に興味を持っているのか、じっくり聞かせて貰いたいですね」

 文也は、怪物を見つめ、問いかける。

「はん!お前等みたいな奴に、誰が教えるものか。知りたければ、わしを倒してからにしろ!まあ、無理な話だろうが。お前等は、今日ここで死ぬんだ」

 文也の問いかけを、怪物は鼻で笑い飛ばす。

「いいですよ。こちらも、最初から力づくでお願いするつもりでしたし、あなたが駄目でも、後ろの方々に、ゆっくり時間をかけて教えて貰いますから、何の問題もありません」

 潜んで、事の成り行きを見守っている村長達に軽く視線を移し、一生は怪物に肩をすくめて見せる。

 その後、しばらくは沈黙が辺りを支配する。

 一生達も怪物も、お互いの隙を窺い、容易に動こうとはしない。

 先に動いたのは、怪物の方だった。

 彼は、長引く沈黙にしびれを切らし、巨大な体を揺らし、一生達に突進して来る。

 一生達は、散り散りに散らばり、怪物の突進をかわす。

 怪物は、太って動きが鈍そうな一生に狙いを定め、残忍な笑みを浮かべ飛びかかって行く。

 一生は、腰から剣を素早く抜き去り、怪物の攻撃をかわした後で、今度は攻撃に転じる。

「・・・!」

 何も出来ないと、たかをくくっていた怪物は、予想を裏切り素早かった一生の動きに、まずは驚く。

 次に、一生の攻撃を完全にはよけ損ね、左腕を軽く切りつけられた事に、怒りを覚え、悔しそうに歯ぎしりをする。

「・・・おのれ!」

「どうですか?私、見た目よりは素早いんですよ。ここに来てから、メタボも解消されつつありますし、人間世界に戻ったら、『勇者ダイエット法』という本でも、出そうかと思っている位ですよ」

 凄まじい表情で、自分を睨みつける怪物に、一生は油断なく剣を構えたまま、話しかける。

 今度は、怪物の一瞬の隙をつき、文也が素早く背後に忍び寄り、両肩の後ろと両ひざの後ろのツボを突く。

 その瞬間、怪物は、縫いつけられた様に、その場から一歩も動けなくなる。

「・・・くっ!お前等、一体、何をした?」

 一生達を見渡し、怪物は悔しそうに唸り、尚も暴れ、その場から逃れようと試みる。

「なあに、何て事はないよ。これからあんたには、素直に話したくなるまで、素晴らしい歌声に浸って貰おうと思ってね」

 そう言い、民子は怪物を見つめ、可笑しそうに笑う。

 一つ咳払いをし、稔は恭しく一礼をする。

 一生達は、直ぐに耳腺をはめ、準備を整える。

「あれは・・・!村長、ここは危険です。早く逃げましょう」

 木陰から、事態の一部始終を見守っていた店主は、昼間の稔の歌声を思い出し、怯えた表情で村長の手を引き、その場を離れようとする。

「・・・ああ」

 訳がわからないままで、村長は、店主の言葉に従う。

 直ぐにやられると思っていた一生達は、思いの他強く、明らかに分が悪かったため、そろそろ逃げようと考えていたところだ。

「・・・!」

 振り返った2人の目に、腕組をした、文也の姿が映る。

「おや、お二人さん。こんな場所でどうしたんですか?ここは、危ない場所ですよ。特に、あんた達にはね!」

 言葉が終わる前に、文也は村長達のツボを素早く突き、その場に縫い付ける。

 その直後に、稔の恐怖のリサイタルが幕を開ける。

 耳腺をしている、一生達とリナ以外には、稔の歌声は殺人兵器にも等しい。

 防ぐ術を持たず、悶え苦しむ怪物や、村長達を観察しながら、稔は何曲かを続けて歌う。

「・・・や・・止めてくれ」

 稔の歌声が途切れた時に、怪物は息も絶え絶えに、それだけを吐き出す。

 あまりの酷い歌声に、頭は割れそうに痛くなり、胸は必要以上にムカついている。

「おや、素直に話す気になったのかい?」

 動けないまま、青い顔で震えている怪物を、民子が、覗きこむ。

「・・・誰が、言うものか・・・」

 民子を睨みつけ、怪物は答える。

「そうですか。それじゃ、仕方ありませんね。稔君、取っておきの名曲を、彼等のために聞かせてあげて下さい」

 文也が、怪物の近くまで連れて来た、村長達と怪物を指さし、一生は善良そうな笑みを浮かべ、稔に頼む。

「おやっさん、わかりました。それじゃ、次は出来たばかりの新曲を・・・」

 軽く声出しをし、稔は再び歌い始めようと、口を大きく開く。

「・・・わ、わかった!何でも話すから、もう止めてくれ・・・!」

 泣きだしそうな声で、怪物は一生達に必死に頼み込む。

 これ以上聞かされると、本当に頭がおかしくなってしまいそうだった。

 隣で立たされている村長達も、青白い顔で今にも気絶しそうになっていた。

「あれ?もう話しちゃうの?何だ、折角の自信作だったのに・・・」

 歌を途中で止められ、稔はつまらなそうにしている。

「よし。それじゃ、話して」

「・・・魔王様から、命じられたんだ。お前等4人を倒し、魔王様の願いが叶うようにしろと・・・」

 文也に促され、怪物は、悔しそうに話し始める。

「私達を倒して、魔王の願いが叶う?ここには、他にも勇者を名乗る連中がたくさんいるだろう?一体、どういう事だい?」

 怪物の言葉を聞き、民子が詰め寄り、鋭い瞳で覗きこむ。

「この世界には、誰も会った事のない『時空の魔女』がいる。何でもその魔女が、お前等を倒せたら、何でも願いを一つ叶えてやると、魔王様に言ったそうだ。魔王様もお前等も、元はこの世界の住人ではない。だから、魔女に願いを叶えて貰う資格を持つのは、この世界では、たった5人しかいないという事になるんだ」

 やけになった怪物は、民子の質問にすらすらと答える。

「時空の魔女?何でも叶う願い・・・。私達には、魔王を倒し、世界を平和にしろと言っておきながら、その反面、魔王には、逆の事を持ちかける・・・。一体、どういうつもりなんでしょうか?」

 同志討ちをさせられている気分になり、一生は考え込む。

 まるで、小さな箱庭の中に放たれた自分達が、見知らぬ誰かに、都合にいい様に操られている気がしてならない。

「さあ、もういいだろう。わしを離せ!」

 まだ動けない怪物が、一生達を睨みつける。

「いいけど、離したらどうするつもりです?」

「そりゃ、勿論。お前等を血祭りにあげて・・・」

 文也の問いかけに、怪物はうっかりと口を滑らす。

「せがれ2号。新曲を聞かせてやりな」

 民子の言葉に、稔はニッと笑い、再び大音量で歌い始める。

「ぐあああああっ!やめろおおおおおおっ!」

 悲痛な怪物の叫び声は、無残にも、稔の歌声にかき消された。

 村長達は、遂には立ったまま、気を失ってしまう。

 稔の歌が終わった後で、文也は怪物の動きを元に戻してやり、正面からパーティーで彼と戦う。怪物も粘ったが、かなり弱りきっていたため、最後には一生に止めを刺され、命を落とした。

 こうして、村を襲っていた偽りの怪物騒動は、一件落着する。

「皆さん、ありがとうございました」

 数日後、リナと仲良く並び、平和の戻った村の中で、フミヤが礼を述べる。

「本当に、皆さんのおかげです。なのに、騙す様な事をしてしまい、私・・・」

 村長達に命じられるままに、一生達をはめようとした事を気にかけ、リナはうつむく。

「何、言ってんだい。結果オーライだよ」

 民子は、気にした様子もなく、豪快に笑い飛ばす。

「そうだよ。おかげで俺達も、新しい情報が入ったし。怪物を倒せて、経験値も上がったし、いい事ばっかりだったよ」

 稔も、すっきりとした笑顔で話す。

「そんな事より、村長達はどうするつもりですか?」

 今は、フミヤが捕えられていた洞窟の住人となっている、村長達を思い浮かべ、文也が尋ねる。

「村の皆で相談して、しばらくは、あそこに入れて反省させる事にしました。でも、いずれは彼等も許して、村の復興のために一緒に手を取って行くつもりです。それと、俺も今度こそ定職に就いて、リナを安心させます」

 晴れやかな表情を浮かべ、フミヤは微笑む。

 リナは、そんな彼の手を取り、嬉しそうに微笑み返す。

「良かった。お幸せに」

 目の前にいる、自分そっくりなフミヤと、別れた彼女にそっくりなリナの、明るい門出を祝い、文也は心からの祝福を送る。


 もし、自分も生き方を変える事が出来ていたら、里奈との未来もあったのかも知れない。


「あの、リナさんに聞きたいんだけど・・・。もし、『未来が見えない』と言われたら、それは、愛想を尽かされたという事なんでしょうか?」

 別れ際に、里奈に言われた言葉を思い出しながら、文也は、恐る恐るリナに尋ねてみる。

 振られた事を人に話すなど、あまりにかっこ悪いが、この答えには、里奈そっくりな、リナにしか答えられないと、文也は思いきって聞いてみた。

「そうですね。確かに、そうとも取れますが・・・。でも、私もフミヤには何度も愛想を尽かしましたし、何時も未来なんて見えませんでした。でも、それは彼が変わる前の話で、今でははっきりと未来が見えます。その方も、私と同じ様な考えの方なら、一度、正面から話し合って見た方がいいと思いますよ。女心は、言葉とは真逆な事がありますから」

 文也の質問に、少し考えた後で、微笑を浮かべながら、リナは答える。

「そうですか・・・。ありがとうございます。突然、変な質問をしてすいません」

 まるで、里奈に言って貰えた様で、文也は、少しだけ嬉しくなる。

「それでは、私達は、これで失礼します。皆さん、どうかお元気で」

 リナとフミヤに手を差し出し、一生は別れを告げる。

「ありがとうございました。ご恩は一生忘れません。近くに寄る事があれば、何時でも訪ねて下さい」

 一生と握手を交わし、リナは微笑む。

「ありがとうございました。あなた方のおかげで、俺は変わる事が出来ました。あきらめさえしなければ、人は変われる事を教えて貰えました。あなた達は、最高の勇者様一行です」

 感動した様に、一生達を見つめ、フミヤは照れた様に笑う。

 それから、民子、稔、文也とも握手を交わし、別れを惜しむ。

 一生達は、フミヤとリナに見送られ、次の場所へと旅立って行く。


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