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荒れ果てた村

 途中の道のりで遭遇した怪物達は、段々と体も大きくなり、攻撃力も増して行った。中には、人語を理解する怪物まで現れ始めた。

 一生達は、力を合わせ怪物を倒し、2日をかけ、次の村へと到着する。村に着く頃には、戦利品を入れる袋は一杯になっていた。

 辿り着いた村は、前の村よりは大きいものの、どこかくたびれて、寂しそうな印象を受ける。家は、所々が壊され、畑は無残にあらされ、作物は土の上にまき散らされている。村の中には、人の姿すら見当たらない。視線を感じるところをみると、おそらくは、家の中で息を潜めているのだろう。

「何だか、随分と寂れた村だね」

 薄気味悪そうに、民子は村を見渡す。

 何所かで見覚えがあると思えば、この光景はテレビでよく見る、紛争地帯の村に酷似している。

「人がいないみたいですね」 

 文也も、不安そうに、村を見渡している。

「何にしても、鑑定小屋に行って、情報を聞きませんか?」

 微かに感じる視線を払いながら、稔が、一同を見渡す。

「そうだね。換金もあるし、村の様子も気になるしね」

 稔の言葉に一生は頷き、この村の鑑定小屋へと歩き始める。

 今度の鑑定小屋の主人は、まだ30代位で若かったが、どこか怯えた暗い表情をしていた。

 一生は、何時も通り、まずは換金を済まし、続いて情報収集に入る。

「聞きたいんですが、この村に一体、何があったんですか?ここに来る途中、随分と荒れていた様ですが?」

「・・・あんた達、知らないで村に来たのかい?今、この村は、怪物に夜な夜な襲われていて、逃げだす事も出来ない状態なんだよ」

 少し声を潜め、店主は怯えた様に答える。

「いや、噂は聞いてたんだけど。ここまで酷いとは、思ってなかったから」

 活気のない村と思い返し、稔は暗い表情の店主に話しかける。

「あんた達、見たところ、勇者様御一行かい?」

 どこか貧相な、一生達パーティーを見渡し、店主が尋ねる。

「まあ、一応は」

 店主の問いかけに、文也は頷く。

「・・・良かった。ずっと、あんた達の様な人を、待っていたんだ。お願いだ!どうか、この村を助けてくれ!礼なら、出来る限りの事をさせて貰うから・・・」

 文也の返答に、安心した様なため息を漏らし、店主は哀願する。その瞳には、必死の願いが込められていた。

「礼の話は後にして、取りあえず、話を聞かせて貰おうか。一体、何があったんだい?」

 必死な店主を見つめ、民子が、口を開く。

「もう、ひと月位前から、この村に怪物が出始めたんだ。始めは家畜を襲ったり、村を荒らす程度だったんだが、最近になって、奴は生贄を要求して来た。村でも散々話し合ったんだが、対抗する手段がなくて、明日、村の女を差し出す事になっている」

 店主の声は、最後の方は、聞きとれない位、小さくなる。

「それで、その怪物というのは、どんな奴ですか?」

「下半身は牛、上半身は屈強な男の姿をしている。腕力も強くて、頭もそんなに悪くない。部下もたくさんいるし、私達には、手に負えないんだ・・・」

 一生の問いかけに、男は怯えた様子で答える。

「・・・人型。ここに来るまでもそうだったんですが、怪物は強くなると、言葉を理解したり、人になったりするんですか?」

 段々と変わって行く、怪物の形態を不思議に思い、一生は首を傾げる。

「あんた達、何も知らないのかい?怪物は強くなればなるほど、人に近くなっていくんだ。噂では、魔王は、人と同じ姿をしているらしい。お願いだ、どうかリナを助けてやってくれ!」

 この世界の事を、何も知らない一生に、店主は軽く目をむくが、そんな事も気にする余裕もないのか、直ぐに、カウンターすれすれまで頭を下げ、体を震わす。


「・・・リナ?」

 聞き慣れた名前に、文也は、一瞬体を震わす。


「おや、知ってる名前かい?」

 民子が、微かな文也の変化に気づき、尋ねる。

「あっちで付き合っていた彼女と、同じ名前だったんで。まあ、ここに来る前に、別れたんですが・・・」

 複雑な表情で、文也は答える。

 まさか、こんな世界にまで、彼女が来ている筈はない。

「それで?その怪物が、生贄を要求する理由って何?」

 稔が、店主に尋ねる。

「さあ・・・。食べるとか、嫁にするとか、色々言われてますが、実のところはわかりません」

「牛の化け物のくせに、人間の嫁?いい度胸をしているね。体を真っ二つにして、思い知らせてやろうじゃないか。私は、身の程を知らない奴が、嫌いなんだよ。いいね、皆?」

 怖い顔で唸った後で、民子は仲間を見渡し、同意を求める。

「どちらにしても、世界を平和にしないと元の世界には戻れないし、受けるしかないでしょう」

 民子に、一生は頷く。

「ありがとうございます」

 店主は、感激した様に深々と頭を下げる。

「それで、もっと詳しく話を聞きたいんだけど、何所に行けば聞ける?」

「それなら、村長の家に案内します」

 稔に、そう答えた後で、店主は店じまいを始める。

「・・・あの、生贄の女の人にも会えます?」

 生贄に選ばれた女性の事が気になり、文也が店主に尋ねる。

「はい。勿論、会って頂きます。それでは、こちらにどうぞ」

 それから一行は、村長の家へと案内される。その途中でも、やはり、伺う様な視線は感じた。

「村長。勇者様御一行の方をお連れしました」

 店主は、この村で唯一無傷な村長の家のドアを叩く。中からは、入る様にとの返答が返って来る。

「さあ、どうぞ」

 ドアを開け、店主は、一生達を家の中へと招く。


「・・・?」

 一生は、村の中で、この場所だけが無事な事に、微かな違和感を感じとる。

 他の家は酷いあり様なのに、一番目立つこの家が、無事だというのはどこかおかしい・・・。


「井上さん、どうしたんだい?中に入るよ」

「ああ、はい・・・」

 民子に促され、釈然としないながらも、一生は、村長の家のドアをくぐる。

「それじゃ。私は、リナを呼んで来ますんで」

 一生達を、村長に引き合わせた後で、店主は村の中へと消えて行く。

「やれやれ、これで村は救われる・・・」

 そう言い、先程までの怯えた表情の消えた店主は、懐から4枚の紙を出し、すれた笑みを浮かべる。

 そこには、一生達の顔写真と、データが載せられていた。



 一方、村長の元に案内された一生達は、椅子を勧められ、村長と向かい合わせて座る。

 村長は、白髪の混じった中肉中背の男で、年は60才位だろう。その表情は、店主同様、怯えと疲れが見える。

「ようこそ、来て下さいました。勇者様。どうか、我々の村をお救い下さい」

 一生を真っすぐに見つめ、村長は、すがる様に話しかける。

「それで、村で一体、何があったんですか?」

「さっきの男からも、お聞きになったと思いますが、明日の夜に、生贄を差し出す様に、怪物から命じられております。もし刃向かえば、村を根絶やしにすると・・・」

 一生の問いかけに答え、村長は恐ろしそうに、肩を震わす。

「それで?あんた達は、怪物とは戦おうと思わなかったの?」

 人にすがる事しか知らない、村の住人に、軽い苛立ちを覚え、稔は、真っすぐに村長を見つめる。

「・・・も、勿論。我々も、当初は戦いましたが、とても歯が立ちませんでした。我々だって、悔しいんです!」

 稔の問いかけに、村長は、悔しそうに顔を歪ませる。

「生贄が、女に決まったのは、怪物がそうしろと言ったのかい?」

「・・・いいえ。村の男全員で話し合い、そう決まりました」

 村長は、民子に言いづらそうに答え、うつむく。

「ふ~ん・・・。男だけで、本人の意思は無視してかい」

 村長の返答に、民子は、不快そうにしている。

 今の日本社会と一緒で、いくら男女平等を叫んでも、結局は、最後の決定は男が下す。自分の身さえ無事ならば、弱者がどうなっても構わないのだ。

 どこの世界も、大して変わらないね・・・。

 民子は、胸の中で、失望のため息を漏らす。

「生贄に選ばれた、リナさんは、承知しているんですか?」

 村長たちの言い分に、身勝手なものを感じながらも、リナという女性が気にかかり、文也は問いかける。

「はい、リナは村思いの女です。自分の身を犠牲にすると、志願してくれました」

 目がしらを覆い、村長は感きわまった様につぶやく。しかし、その仕草は、どこか演技じみている。

「村長、リナを連れて来ました」

 そこに、先程の店主が、一人の女を連れて戻って来る。

「ああ、ご苦労。皆さん、こちらがリナです。リナ、こちらは勇者様ご一行だ。ご挨拶をして」

「・・・。初めまして、リナです」

 うつむいていた女は、村長に促され、顔を上げる。



「・・・里奈・・・」

 その顔に、文也は、目を見開く。

 そこに立っていたのは、昔の彼女と瓜二つの女だった。年の頃も、全く同じだろう。

「・・・フミヤ・・・」

 リナの方も、文也を見て、驚いている。



「あれ、知り合い?」

 お互いが顔を見合わせ、驚いている2人に、稔が尋ねる。

「・・ああ、いえ・・・。私の婚約者に、そっくりだったもので・・・」

 うつむき、リナが答える。

「リナ、フミヤの事は忘れろ。アイツは村の一大事に、逃げだした根性無しだ。今のお前には、俺がついている」

 店主は、リナの肩に軽く手を回し、優しく囁く。

 その様子を見ていて、文也は、自分の事の様をけなされた様で、ムッとなる。

「そのフミヤという方と、私達の仲間は、そんなに似ているんですか?」

 一生が、村長に尋ねる。

「ええ、まあ・・・。でも、こちらのフミヤは、定職にもつかず、頼りない男でして・・・。勇者様と一緒にするなど失礼だと思い、黙っておりました。それに、あの男は、怪物が来てから直ぐに、村も婚約者も捨てて逃げ出した臆病者です」

 一生の問いかけに、村長は、どこかひきつった笑みを浮かべ答える。

 リナは、何かを言いたそうにしていたが、村長と店主に睨まれ、黙ってうつむく。

 人間世界にいた時の、自分の事を言われた様で、文也は落ち込む。どうやら、こっちの世界のフミヤも、自分と大差はないらしい。

「それで、引き受けて下さいますか?」

 一生達を見渡し、村長が尋ねる。

「いいよ。ただし、あんた達の為じゃない!女を、道具程度にしか思ってない奴は、怪物にやられてしまえばいい。私は、そこにいるリナさんの為なら、喜んで引き受けるよ」

 村長を睨み、民子は言い放つ。

「構いませんよ。引き受けて下さるのなら、こちらとしては、ありがたいばかりです」

 頬を軽く引きつらせながら、村長は愛想笑いを浮かべる。

「俺も、別にいいけど。ただし、詳しい情報をもっと教えて欲しい」

「それなら、後でお持ちします」

 店主は、稔に恭しく話しかける。

「俺も、引き受けます。ただし、リナさんに、後で詳しい話を聞かせて貰いますよ」

 うつむいたままのリナを見つめ、文也も頷く。

「必要であれば、どうぞ」

 村長は、不承不承な様子で、一応は快諾して見せる。

「私にも、異論はありません。自分達のためにも、怪物は倒します」

 府に落ちない何かを感じながら、一生も頷いて見せる。

「ありがとうございます。では、私の家を当面の宿としてお使い下さい。部屋は直ぐに用意をさせます」

 一生達に、嬉しそうに頭を下げた後で、村長は、女中に一生達の部屋を用意するよう命じる。

「私達は、村の中と近くの森を見てきます。案内はいりません」

 椅子から立ち上がり、一生は、民子達に目配せをする。

「そうだね。下調べに行こう。後は、日銭に稼ぎだ」

 一生の視線に何かを感じ取り、民子達も立ち上がり、その後に続く。

「お気を付け下さい」

 出て行こうとする一生達に、村長が、後ろから声をかける。

「ああ、そう言えば。この家だけ、どうして無事だったんですか?ひび一つ入っていない」

 出て行き際に振り返り、一生は、村長に尋ねる。

「・・・さあ。私には、わかりかねます。偶然だったのでしょう。怪物の考える事は、我々には理解出来ませんから・・・」

 突然の一生の問いかけに、村長は、しどろもどろになりながら答える。

「そうですか・・・」

 一生は、それだけを言い、部屋を出て行く。



「くれぐれも、気をつけて下さい、井上さん」

 店主は、気遣う仕草で、一生達を見送る。

「まさか、気づかれていないだろうな?」

 一生達を見送った後で、村長が険しい表情で、店主に問いかける。

「大丈夫ですよ。連中を見て下さい。太ったおっさんに、ガキが2人。後は、人相が悪いおばさんが一人。あんな馬鹿な連中に、何も分かる筈はありませんよ。純粋に人助けと信じているでしょう」

 さっきまでの善良な仮面を脱ぎ棄て、店主は、一生達を馬鹿にしたように笑う。

「リナも分かっていると思うが、余計な事は話すなよ。村が助かるためなんだ」

「・・・はい。わかっています」

 村長の命令に、リナはうつむいたまま微かに頷き、瞳を閉じる。

 そして、今も自分の肩を抱いていた、店主の手を振り払い、自分の家へと戻って行く。

「約束ですよ、村長。あの男を始末した後は、リナは私にくださいよ。そのために、協力してるんですから。あんな男より、俺の方が、ずっと幸せにしてやれるんだ」

 立ち去ったリナを、未練たらしく見送った後で、店主は、村長に話しかける。

「分かっている。他の村の連中には知られるな。生贄はリナで、彼等は善意に溢れる勇者様御一行のままで通せ。いいな?」

 村長は、厳しい表情で、店主に命じる。

「わかっていますよ。俺は、口の堅い男です。約束さえ守って頂ければ、秘密は墓まで持って行きますよ」

 軽く頭を下げ、店主は村長の屋敷を出て行く。

 村長はそれを見送り、何かを企んだ様に笑っていた。



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