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幽霊の住む町

 ここに来てから3か月目に突入し、一生達も、今では勇者一行らしくなっていた。

 魔王の城までの道のりは、半分を過ぎた所まで迫っていた。

 全員のレベルは桁違いに上がり、武器や防具、それに衣装も始めに与えられたものから、全員が似合う物に変える事が出来ていた。

 現在の敵はほとんどが人型で、魔法も扱う様になって来ている。以前に比べ、傷を負う回数も増えていったが、魔女の民子が、回復薬や解毒剤を作れる様になり、旅は快適になっている。



「お前達が、勇者の一行か?」

 青い肌をした魔族の青年が、一生達の前に立ちはだかり、その行く手を阻んでいる。

「いかにも。何時までも、お前達のような使い魔ではなく、本人に出て来るように、魔王に伝えて貰えませんか?いい加減、言いがかりばかりつけられて、うんざりしてるんですよね」

 油断なく腰から剣を抜き放ち、一生は魔族の青年に話しかける。

 経験値と金が手に入るのはありがたいが、こうしょっちゅう絡まれては、たまったものではない。

「何だと!人間の分際で、我等の魔王様を愚弄するとは許せん。死んでその罪を償え!」

 残忍な笑みを浮かべた後で、魔族の青年は呪文を唱え、魔獣の召喚を始める。

 やがて、大きなドラゴンが姿を現し、一生達を見下ろす。

「皆、私の後ろに下がりな!」

 ドラゴンが火を噴くより早く、民子は一生達を自分の後ろに避難させ、バリアーを張り、炎の直撃を防ぐ。

 その後ろで、稔が静かにハープを奏で始める。

『・・・?』

 その音を聞き、ドラゴンは攻撃を止め、しばし音楽に聴き入る。

「おい、どうした?さっさと、あの人間達を始末しろ!」

 ドラゴンの背を蹴とばし、魔族の青年が腹立たしげに叫ぶ。

 青年に背中を蹴られ、ドラゴンは視線を一生達から、自分を召喚した主人(マスター)へと移す。

 しかし、その瞳は焦点が定まっていない。

 ウガアアアアアアッ!

 ドラゴンは、突然、怒り狂った様に叫び、魔族の青年に重い自分の足を叩き落とす。

「・・・うわっ!」

 予期せぬ出来事に怯えながら、魔族の青年は、辛うじてその攻撃をかわす。

「どうした?敵は、あいつ等の方だぞ!」

 混乱したまま、青年はぼんやりとした瞳をしているドラゴンに、一生達を指さし、襲いかかるよう、再度指示を出す。

 しかし、ドラゴンはその指示には従おうとはしない。

 その様子を見ていた稔が、再び、今度は先程とは違うメロディーを奏でる。

 その音を聞き、ドラゴンは、大人しい犬の様になり、地面の上に体を丸め、眠りについてしまう。

「・・・何だ?一体、何をした?」

 ドラゴンを、難なく眠らせた稔に、青年が取り乱し気味に尋ねる。

「何んて事ないさ。ちょっと曲を聴いて貰って、大人しくして貰っただけ。だって、動物は大切にしてあげないと」

 青年の問いかけに、稔は肩をすくめ、つまらなそうに答える。

 ここに来るまでの間に、稔は歌うだけではなく、曲を奏でる事で、相手を操る能力も習得していた。 簡単に済ましたい時は、こちらの方が負担も少なく、穏やかに物事が運ぶのだ。

「でも、あんたは動物じゃない。ここで、死んで貰うよ」

 民子の後ろから移動し、文也は、魔族の青年を見つめる。

「はっ・・・。お前みたいなもやしに、一体何が出来るというんだ」

 前よりは逞しくはなってはいるが、まだ体の細い文也を、青年はせせら笑う。

「ああ、一つだけ忠告しておきますが、あまり、彼を甘く見ない方がいいですよ」

 民子と並び、一生は、青年に忠告をしてやる。

「うるさい!おっさんに、同情されるいわれはない!こいつを始末したら、お前を殺してやるからな!」

 プライドを傷つけられ怒り狂い、一生に叫んだ後で、魔族の青年は腰の剣を抜き、文也に切りかかって行く。

 文也はその一撃を交わし、相手の懐に飛び込む。そして、相手の心臓部分を少し激しく突く。

「・・・ぐはっ!」

 魔族の青年は激しく吐血をし、その場に崩れる。心臓は不規則な音を立て、今にも止まりそうになっている。

「・・・ど・・うし・・て・・・?」

 かすれる声で文也に尋ね、青年は最後の力を振り絞り、文也を見上げる。

「俺は、確かに力は弱いけど、何故だか、相手の急所を見つけ出す事が出来るんだ。その場所を思いっきり突けば、相手に止めを刺す事も出来る。今みたいにね」

「・・・化け物どもめ・・・」

 自分を見下ろすた文也と、一生達を見つめ、青年は最後にそうつぶやき、そのまま絶命する。

「全く、どっちが化け物なんだか」

 民子は、少しむっとした様に、青年を見下ろす。

 魔族の青年に召喚されていたドラゴンは、主人が死んだ事により、行き場所を失う。

 ドラゴンは、稔にかけられたマインドコントロールから解かれ、困った様にうろうろしている。

「これは、困りましたね。こんな大きな生き物を、野放しにするわけにもいかないし。どうせなら、死ぬ前に、元の場所に戻しておいてくれれば良かったんですが。こんなに大きすぎたら、ペットにも出来ない・・・」

 大きすぎる迷子のペットの処理に、一生は困り果てる。

「おやっさん。それですよ!こいつ、俺達のペットにしましょう」

 一生の言葉に、稔は目を輝かす。

「おいおい・・・。大体、餌はどうするんですか?それに、こんなでかいものは、連れては歩けませんよ。どの街からも、入場拒否をされてしまいます」

 息子が拾ってきたペットを、元の場所に戻して来るよう、言い聞かす父親の様に、一生は反対する。

「でも、おやっさん。こういうのを、1匹飼っていると、移動の時なんか、凄く便利ですよ」

 文也も、ドラゴンを飼いたそうにしている。

「でもね・・・」

「井上さん。要は小さければいいんだよね?だったら、私に任せて。どうせ、ここには置いてはいけないし、ちょうどいい薬を作ってあったんだ」

 尚も、反対色の強い一生に、民子は腰の袋から薬品の瓶を取り出し、彼等に示す。

「民子さん、それは?」

「まあ、見てなって。う~ん、そうだねえ・・・。連れていて、目立たないもの・・・」

 何か聞きたそうにしている、稔を、手で制し、民子はしばらく考えた後で、薬品をドラゴンに振りかける。

 薬をかけられたドラゴンの体は、眩しい光を放ち、時間をかけゆっくりと縮み、やがて、白い羽に覆われた1羽の鸚鵡へと変化する。

「どうだい?これなら、連れて歩いていても、ただの鳥にしか見えない」

 そう言い、民子は鸚鵡の足に、呪文が刻まれた銀の輪っかをはめ、封印を施す。

「凄い、どうやったの?」

 鸚鵡を手に乗せ、稔が、無邪気に尋ねる。

「あの薬はね、かけられた者が、かけた者の思い描いた姿に、化けるという代物さ。ちなみに、足の銀の輪っかを外せば、何時でも、元のドラゴンに戻す事も出来るからね」

「民子さん。本当の魔女みたいですね」

 民子を見つめ、文也は関心した様につぶやく。

「何、言ってんだい。私は、始めっから魔女だろ?後は箒で空でも飛べたら、言う事なしさ。井上さん、これならいいだろう?」

 民子は、一生に話しかける。

「参りましたよ。それなら、私も反対する事は出来ません」

 一生は、降参した様に方をすくめ、両手を上げて見せる。

 一行は、鸚鵡になったドラゴンも仲間に加え、魔族の青年から金目のものを奪った後で、そのまま旅を続ける。



 着いた場所は、今までの中で一番大きな商都だった。まだ日も高いため、街の中は人でごったがえしていた。

 一生だけが鑑定場所に出向き、他のメンバーは早速情報収集に取り掛かる。

 この街は、武力も充実しているため、怪物の侵攻からは、守られているとの事だった。特に、倒すべき怪物の話や、魔王についての新しい情報は、得る事が出来なかった。

「なんだ。何の収穫もなしか」

 稔は、つまらそうに肩を落とし、何気なく視線を遠くに巡らせる。

「・・・!母さん・・・?」

 その瞳が、少し離れた場所で、自分を凝視している中年の女性の元で止まる。

 そこに立っていたのは、稔の母と同じ顔をした女の人だった。

 相手の女は、まるで幽霊でも見る様な感じで、稔の顔を穴があきそうな勢いで見つめている。

「・・・まさか、そんな・・・」

 人間世界にいる筈の母親が、異世界にいた事に驚き、稔は、思わず駆け寄ろうとする。

「・・・!」

 しかし、それよりも早く、女は弾かれた様に稔に背を向け、人ごみの中に紛れ込んで行く。

 稔は、何とか探しだそうとするも、あまりの人の多さに女を見失ってしまう。

「稔、どうした?」

 ぼんやりとした稔の肩を叩き、文也が、その顔を覗き込む。

「・・・えっ、いや・。今、そこに母さんがいた様な・・・」

 さっきまで女が立っていた場所を指さし、稔は茫然とつぶやく。

「稔のお母さん?俺の時みたいに、そっくりさんだったんじゃないの?良くわからないけど、民子さんも、死んだ姑さんと、息子さんのお嫁さんに、そっくりな人と会ったっていうし。『時空の魔女』の悪戯か?この世界には、たまにそういうバグがあるみたいだし」

 文也も、人ごみを見渡してみるが、こう人が多くては、安易には、目的の人物を探せそうにない。

「・・・だよね・・・」

 文也の言葉に稔は頷き、人探しをあきらめる。

 よく考えてみれば、母がこんな世界に来ている筈はない。

 しかし、彼女が自分を見つめる表情が、何時までも頭の中から離れなかった。


 そう、まるで幽霊でも見た様な、半分怯え、半分は懐かしそうな顔・・・。


「駄目だよ。ここじゃ、手がかりなしだね。ん?どうかしたのかい?」

 人ごみを強引にかき分け、肩に鸚鵡を乗せた民子が、少し疲れた表情で歩み寄って来る。

「お疲れ様です。稔が、お母さんそっくりな人を見たそうなんです」

 文也が、先程、稔の身の上に起った、出来事について、稔に代わりに説明する。

「多分、見間違いだと思います。世の中には、3人のそっくりさんがいるというし、全くの赤の他人だと思います」

 稔は、民子にそう答える。

「そうとも、限らないと思うよ。せがれ1号のそっくりさんもいたし、私の姑と嫁のそっくりさんもいた。それだけじゃなくて、この世界の彼等の抱えていた問題は、気持ち悪い位、現実世界の私達と酷似してた。もしかしたら、次はあんたの番かもね」

 奇妙に、現実世界とリンクしている事を考えながら、民子は、稔に話しかける。

「・・・俺の番・・・」

 ほんの少し前までは、引きこもっていた自分を思い出し、稔は考え込む。

「お待たせしました」

 鑑定小屋での換金を済ませ、一生は人ごみをかき分け、民子達に歩み寄る。

「どうかしましたか?店主に聞いた話では、この先に、安くてサービスのいい宿屋があるそうです。今日の宿は、そこにしましょう。それで、何か新しい情報は、聞けましたか?」

「何でもありません。皆で手分けして、聞いてはみたんですが、何も新しい情報は聞けませんでした」

 一生の問いかけに、稔が答える。さっき見かけた、母親のそっくりさんについては、何も話さなかった。

「そうですか。これだけの大きな街だったので、期待はしてたんですが・・・。取りあえずは、宿屋に行って休んで、それから今後の事を話し合いましょう」

 少しガッカリした表情を浮かべた後で、一生は、仲間を促し、店主から紹介された宿屋へと先導を始める。

 民子達は、人ごみをかき分けながら、その後に続く。

 程無くして、辿り着いた宿屋は、3階建ての結構大きく立派な建物だった。

 一行は、そのまま宿屋の門をくぐり、中へと入って行く。



「いらっしゃいませ」

 入って来た一生達に、フロントの中にいた若い女性が声をかける。

「あの、4人で泊まりたいんですが、部屋は空いてますか?」

 一行を代表して、一生が、宿泊の手続きに向かう。

「はい、ございます。お部屋の方は、おいくつとられますか?」

「2つでいいです。シングルの部屋が一つと、大きめの部屋を一つお願いします」

 宿帳に記帳しながら、一生は答える。

「かしこまりました。では、お部屋にご案内します」

 奥の部屋に一声かけ、フロントの女性は一生達を案内しようと、ロビーに姿を現す。

 そして、何気なく見渡した先で、視線を稔で止め、驚いた様に目を見開いている。

「・・・ミノル・・・」

 まるで、幽霊にでも遭遇した様に、女はつぶやく。

「・・・奈美姉なみねえ・・」

 稔も女を見つめ、信じられない様につぶやく。

 そこに立ち、じっと自分を凝視していたのは、現実世界では弁護士をしている、長女の奈美と同じ姿をした女だった。

「嘘、ミノル・・・」

 ナミに代わり、フロントに出て来た女も、稔を見て驚きの声を上げる。

涼香姉すずかねえ・・・」

 今度は、公務員をしている次女の(すず)()そっくりな女に、稔は再び驚く。

「せがれ2号。知り合いかい?」

 ナミとスズカと向かい合い、お互いに驚き合っている稔に、民子が尋ねる。

「・・・えっ。あの、向こうの世界の姉2人とそっくりだったんで・・・」

 訳の分らないまま、稔はぼんやりと答える。

 本人達ではなさそうだが、信じられない位に酷似している。

 そう感じたのは、相手も同じ様で、2人共稔以上に戸惑っていた。

「・・・失礼しました。あなたが、弟とよく似ていたもので・・・。さあ、こちらに・・・」

 少し引き攣った笑みを浮かべながら、ナミは一生達を部屋へと案内し始める。

 2階の客間へと上がって行く稔の後ろ姿を、フロントに残ったスズカは、まだ信じられない様に凝視していた。

「では、私はこれで・・・」

 先に民子を一人部屋に案内し、その後、一生達を大部屋に案内した後で、ナミは足早に立ち去ろうとする。

「あの、弟さん、どうかしたんですか?」 

 同じく、変な顔をしている稔と、ナミを交互に見ながら、文也が尋ねる。

「・・・いえ、何も。弟は、元気にしております。あなたのお仲間が、あまりにそっくりだったので、驚いただけです。失礼します・・・」

 文也の問いかけに、笑みを浮かべ答えた後で、ナミは一生達の部屋を出て行く。

 その際、もう一度だけ振り返り、少し懐かしそうな表情で稔を見つめていた。

「何か、意味深で気になりますね・・・。稔君、そんなに、君の家族に似てるんですか?」

 一生は、ナミの不自然な態度に、釈然としないものを感じ首を傾げる。

「似てるなんてもんじゃないです。声までそっくりで・・・。多分、こっちの世界の俺も、引きこもりなんでしょうね・・・。なんか、嫌な感じです・・・」

 文也のそっくりさんを見た時も驚いたが、自分の家族のそっくりさんとなると、話は違ってくる。何だか、くすぐったく、居心地の悪い心境に陥る。

 姉2人のそっくりさんがいるという事は、さっき街で見かけた母親は、この宿屋にいるのだろう。

 そして、自分にそっくりな男も・・・。

「・・・何か、変な気分。落ち付かない・・・」

 民子と文也を見つめ、稔は乾いた笑みをもらす。

「だろ?俺も、変な気分だった」

 フミヤとリナの事を思い出し、文也は軽く肩をすくめる。

「私も、妙な気分だったよ。何の悪戯かは知らないが、『時空の魔女』という奴は、色んな事で私達を試しているみたいだからね」

 民子も、複雑そうに笑う。

「だったら、この世界のどこかに、私のそっくりさんもいるんでしょうね?」

 一生はまだ見ぬ、自分のそっくりさんを思いつぶやく。

「全部越えなきゃ、簡単にゴールさせる気はないって事なんだろうよ」

 自分達を、もて遊んでいる『時空の魔女』を思い浮かべ、民子は気に喰わない様子でつぶやく。

 それから、一生達は夕飯までの時間を、各自の思い思いに過ごす。

 一生達は、街の観光へと出かけて行った。

 稔は一人宿屋に残り、ベットに腰を下ろし、何かを考え込んでいた。


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