プロローグ
そこは、現実とは違うもう一つの世界。
人間世界と並行する様に、その世界は存在している。
例えば、何気なく開けた家のドアの向うが、その世界に通じている事もある。しかし、ほとんどの者は、その存在には気付かない。
そう、夢に打ち砕かれ、世に疲れきった人間の瞳にしか、この世界は存在しない・・・。
「全く、退屈だ・・・」
何もない光の空間で、女はつぶやく。
女の容姿は、腰を超えた赤毛に、とび色の瞳、整った容姿をしている。整ったプロポーションを纏う服装は、どこかギリシャ時代の女神を、彷彿させるものがある。神々しいまでの彼女だが、その瞳には、どこか険が宿っている。
「どれ、久かたに、ゲームにでも興じよう」
そう言い、女は、手の中にサイコロを一つ出現させ、無造作にほり上げる。それを、手の中に受け止め、女は覗く。
「4・・・、今回は4人の人間を招待しよう」
目を細め笑い、女は、右手を軽く振る。
次の瞬間、何もなかった空間に、テレビの画像の様な物が4つ出現し、世界中のたくさんの人間を、目まぐるしく映し始める。やがて、画像は止まり、4人の男女の姿を映し出す。
「何だ、今回は随分と貧相なパーティーだな。まあいい。せいぜい私を楽しませておくれ」
選ばれた4人に、女は不満そうにしていたが、やがて妖艶な笑みを浮かべ、彼等の名を、石版に刻み始める。
「では、ゲームを始めよう」
女は楽しそうに笑い、その空間から姿を消す。
残された空間には、それぞれの画面に、一人ずつの顔を映した映像が、まるで絵の様に残されていた。
『疲れ果てた中年男―・・・
もやしの様に細い、目だけはぎらついた男―・・・
暗い顔をした、若い青年―・・・
中年太りした、小柄なおばさんー・・・』
さて、彼等の運命やいかに。
消えた女の狙いは、一体何なのか?
彼等の不思議な冒険の物語は、本人達の知らないところで、ひっそりと幕が開けられる。