第二話 その謝罪、エモにつき。3
放課後の図書室。
静寂が支配し、古本のにおいが漂うこの場所が、今まさに陽葵の放った『魔改造レター』によって爆破されようとしていた。
俺と陽葵は、本棚の隙間から静かに中の様子を伺っていた。
奥の席では、田中さんがぼーっとした様子で物思いに耽っている。そこへ鈴木さんが今にも倒れそうな足取りで近づいていった。
「……ま、マリちゃん」
「……何?ナミちゃん。私の好きな本のこと……また『面白くない』って言いに来たの?」
「ちっ、違うの!これ……読んでくださいっ!」
鈴木さんは躊躇いがちに、しかし陽葵の魔改造レターを挟んだあの交換日記を差し出した。
田中さんは不審げにそれを受け取り……数秒後、彼女の顔が劇的に変化した。
「……!」
田中さんの眼から、涙があふれる。
「ナミちゃん……あなた、私がおしゃべりの間も……ずっと本ばかり読んでいるものだから、寂しかったですって?私の感性を否定したんじゃなくて、本に嫉妬して……私を独り占めしたかったから、あんな意地悪言っちゃったの?」
(……なんか、話がおかしな方向に向かっているぞ……)
俺は顔を引きつらせた。陽葵はしてやったりの笑顔だ。
「えっ、あ、ええ……。まあ……その……」
鈴木さんは顔面を真っ赤にしながら、もはや否定する気力も失っている。
「……ごめんね、ナミちゃん。私、そんなに愛されているなんてちっとも気づかなくて!もう二度とそんなことしない。私たちの物語、終わらせないから!」
「ひゃあああっ‼」
静寂の誰もいない(とマリとナミの二人は思っている)図書室に叫び声が響き、二人の少女が固く抱き合った。
「……ねっ?善くん。成功でしょ?#百合の花に挟まりたい#エモい瞬間#」
陽葵は満足げにスマホの連射音を響かせる。
俺は、見てみなかったふりをして、棚に並んだ文豪たちの背表紙を見つめ、心の中で謝罪した。
結果として、「友情」は修復された。いや、修復され過ぎて以前よりはるかに密度の濃い何かに進化してしまった。
これでもし、あの二人が冷静になって
「これ、本当にナミちゃんが書いたの?」
という話になれば……代筆部の存続が危ぶまれるのではないか。
「……帰ろう、陽葵。俺たちがこれ以上、ここにいる理由はない」
「あはははっ、善くん、今の言葉良いね」
「何がだっ!」
俺は逃げるように図書室を後にした。
途中、廊下ですれ違った剛田が「おう、先生!」と声を掛けてきたときは、心臓が止まりそうになった。
「鮫島とさ、今夜公園でのメニュー決まったぜ」
と嬉しそうに手を振ってきたが、俺はそれすらも見なかったことにして足早にその場を去ったのだった。
楽しければそれでいいか(笑)




