第三話 その規律、エモにつき。
代筆部の前に並ぶ行列を、まるでモーゼが海を割るような冷たい視線で切り裂き、一人の女子生徒が現れた。
磨きあげられたローファ―の音、制服の乱れもなく整えられたその姿、生徒会長 氷室 涼香だ。
「……神崎さん、そして結城くん。……いい加減にしてもらえませんか?」
彼女は、陽葵が壁に貼った『#恋のノックは代筆部まで』というピンクのポスターを、その冷たい指先ではぎ取った。陽葵が突っ込む。
「氷室生徒会長!#生徒会#視察#抜き打ちチェック 今日も規律正しくてエモいですね」
「ふざけないで!校内での私的文書作成代行、はたまた他校の生徒(鮫島)を巻き込んだ騒動……これらは全て指導対象です。この『代筆部』とやらは、本日をもって廃止を勧告します」
部室に冷気が走る。さすが「氷室」だけのことはある。陽葵ですら、一瞬にしてスマホを置いた。
……だが俺は気づいてしまった。氷室会長が抱えている「生徒会広報」の原稿に。
「……会長、その廃止勧告、少し待ってもらえないか」
「……?何かしら?結城くん、貴方のその『ポエマー善』としての言い訳なら、後でじっくりと生徒会室で聞くけれど」
「……いや、そっちじゃないって。その原稿……だ。今度君が全校集会で話すそのクソ面白くもない『校則遵守のスピーチ』月並みで書けなくて困っているだろ?」
「……ええ、そうよ!正しさを伝えようとすればするほどみんなから『説教臭い』『つまんない』って煙たがられているわ。全校生徒の心を動かせるような力強い言葉が書けないの!」
氷室会長はついに切れた。
「善くん!あたしたちの出番だよ#デレ#言葉の壁。会長さんのガチガチな正論私たちが全校生徒の心に突き刺さる『魂のメッセージ』にアップデートしてあげる!」
「陽葵、お前はもう黙っていろ……会長、我が部が厳格で美しい演説原稿を書いてやる。だから廃止の話はそれからだ」
俺は万年筆を構えた。相手は生徒会長なのだ。剛田や鈴木さんとは訳が違う。一文字の妥協も許されないのだ。そうして、我々の闘いが始まった。
……数日後……俺の書いた原稿が……陽葵の魔改造によって立派な漫才風になってしまうとは……恐ろしい。




