プロローグ:言葉は刃、あるいはただの鈍器
「……なぁ、結城。これを『代筆』して欲しいんだ」
差し出されたのは、使い古されたノートでもなければ、恋心をつづる便箋でもない。
近所のスーパーのチラシの裏だ。そこには、ミミズののたくったような字で『明日、放課後、裏、こい』と単語だけが暗号のように書かれていた。
目の前で期待に満ちた目をしているのは、わが校の誇る「脳筋」こと柔道部の剛田。彼は、どうやら喧嘩の果たし状を書きたいらしい。
「剛田……。一応聞くけど、『代筆部』っていったい何だと思っている?」
「あ?うーん、『言葉で相手をボコボコにする部』……だろ?」
「違う……いや、合っている点もあるかもしれんが、根本的には違うんだ」
俺は深いため息をついた。
そもそも、俺がこの『代筆部(非公式)』なんて不名誉な活動を始める羽目になったのは、幼馴染の神崎陽葵のせいであった。
それはさておき、結構この部には、いろいろな依頼が入って来る。
ラブレターの代筆から、教師への言い訳文、果てはSNSの炎上謝罪文まで。
「……ってか、剛田、今の時代、果たし状なんてSNSで送れば一瞬だろう?」
俺が呆れてスマホを指差すと、剛田は岩のような拳を握りしめ、大真面目な顔で首を振った。
「馬鹿だなお前『デジタルタトゥー』を知らんのか?……学校のWi-Fiで送ってみろ、即座に生活指導の先生にスクショが回るぞ。その点、手紙なら証拠隠滅が楽だし、プリントアウトすればいい」
(脳筋の剛田に馬鹿と言われるかっ⁈)
「物騒な理由でアナログを信奉するなよ……それに手紙には『圧』があるだろ?」
俺は万年筆を回しながら考える。
「ふむ。SNSで『ボコす』よりもチラシで『明日、放課後、裏、こい』で伝える……か。分かった、やってみよう」
「おう、頼むぜ。代筆部部長(結城 善)さんよ」
こうして、俺の部としての初めての仕事が「果たし状の代筆」になったのである。
何か面白いネタはありませんか~?と思いながら書いています。




