第2話『入学試験』
「入れ、入学試験……頑張れよ」
正門の看守に通されて、見事、魔法都市エルムーアに入国出来た。
ロゼはうっきうきだった。
人々が笑顔で満ち溢れていて、それがたまらなく好きなんだとか。
魔法都市ゾルアートの人々には、笑顔がないらしい。
軍隊のように、皆が機械的に動くのはどうも落ち着かないとボヤくロゼ。
お国柄、魔法絶対主義の大国だから仕方ないっちゃ仕方ない。
エリートを最重要してる節もあるし、名門校と名乗るだけあるのだろう。
例にもれなく、ここも名門である。
堅苦しいやつぐらい、いてもおかしくない。
「ツエさん見て下さい。こんなにみんなの心が清い街は初めてですー!」
「ロゼよ、あんまり人前で俺に話しかけないでね。僕は魔法の杖だから。本来、喋らないから」
「それはそれで寂しいです……」
「分かった分かった。ひっそりと話しかけてくれ……」
ロゼの感情の昂りに忘れかけてた。
本来の目的は、入試試験なのだ。
学校の道など知らんが、街のガイドを頼り学校までの地図を貰う。
それを見つめて歩くだけで良かったのだ。
──変な男に会うまでは。
噴水のあるベンチにポツリと、男が一人で煙草を吹かしながら空を眺めていた。
何かぶつくさ一人ごとを言っているらしい。
やはり、二十代後半ぐらいの男だ。
仕事のストレスでおかしくなったのかな。
「はぁ……幼女のパンツ覗きてぇ……。白いローブ……ミニスカートから見えるあの白いパンツが……格別なんだよなぁ……」
──変態だった。
──それは、迷うことなく変態。
──ついてにロリコン。
あれに見つかっては……ロゼが危ない!!!!
迂回しようと提案するが、時は既に遅かった。
「やぁ!もしかして聞いてたかい!?」
目が合ってしまった。
しかも、話しかけてきやがった。
キチッとした、軍服を少しカジュアルにした服装。
右手に手袋。
左腕のない男。
顔は整っている方だ。
情けない話し、黒髪のイケメンだった。
ただし、変態である。
「いやぁ〜、今日からエルムーアの新任教師になったルート先生だよ!君のパンツは……何色だい?」
「ツエさん……この場合は教えた方が良いんでしょうか」
ロゼから耳打ちされた。
教えて良い訳ないでしょ。
襲われてしまいますわよ。
相手にするだけ時間の無駄だろう。
「あれに関わっちゃダメよ変態になっちゃうわ。シカトだシカト!」
「ご…めんなさーい!!」
謎の変態から逃走した。
回避レベルがほんの少しだけ上昇した。
この国には、イカれたロリコンがいるらしい、ということを学習した。
逃走の末、なんとかエルムーア校に到着。
受付の試験員に入試の申し込みをすることにした。
「この度は、ありがとうございます。試験の前に魔力測定と魔力適性の検査をしますね」
「よろしくお願いしまする!」
「なに緊張してんだよ……」
「私これ、苦手なんです……」
苦手と言った意味を理解した。
──魔力測定の結果。
──測定器故障により、測定不能。
──魔力適性の結果。
──全属性、適性無し。
こんなことがありえるか。
測定不能ってどういうことだ。
魔力はあるはずなのに?
スカルデーモンを一撃で倒しておいて!?
属性魔法なんてのは分からんがそんなものなのか。
もしかしてこの世界では、ロゼの使う魔法なんか基本中の基本。
スカルデーモンなんて、倒せて当たり前のような価値観なのか。
イカれてやがる、この世界。
「これは……ちょっと酷いですね。試験は合格しないと思いますが試験は受けれますよ。どうなさいますか?」
「受けます……合格するので」
「やる気満点!良いですね、ぜひチャレンジしてみて下さい」
合格すると……言い切った。
凄い根性だよ。
俺達は高みを目指さなきゃならんから。
ロゼの曇りなき言葉に安心した。
意を決しよう。
そのまま、試験会場に進むことにした。
試験内容は二つ。
──実技試験。
──そして、面接。
多くは、実技試験でふるいに落とされるらしい。
困ったことに、さっそく実技試験が始まった。
困ったってのが特殊でして……。
試験課題『オブジェクトの複数破壊』
これが本当に厄介だ。
「一節魔法──ファイア!」
他の受験生は、もの凄く弱そうな魔法でオブジェクトを破壊する。
一人だけじゃない。
ロゼ以外の全てがだ。
また、俺の中の常識が変わったのだ。
ロゼの魔法は、規格外の威力だったのだと。
スカルデーモンは、やはり普通では倒せないのだと。
「今日は、校長と校長代理のミレイ・マース様がいらっしゃってます。しっかりアピールして下さいね」
これは、アッカーン!
学校の偉いやつと、美人な先生に監視されてるも同然じゃないか!
ロゼが使える魔法なんか一つしかない。
こんなところで魔法なんか使ったら……。
罪人扱いになっちまう……。
「最後は、ロゼ・スカーレッドさんですね。試験を始めて下さい」
「は……はい!?」
「ちょっとマズいぞロゼ……」
「どうしたんですかツエさん?」
「こんなところじゃ、魔法が使えんて。みんな死んじゃうって」
「そ…そうでしたァァァァ!」
「どうするよ?」
「気合いでどうにかしてみせます!」
一向に魔法を使わないロゼに、試験官達がザワつく。
どう解決したら良いか分からんのだ。
変な邪魔をしないで貰いたい。
そんな融通も効くはずもなく、試験官は冷たい視線で呆れ果てていた。
「ロゼ・スカーレッドさん。いい加減、魔法を使ってオブジェクトを破壊して下さい。出来ないのなら失格です」
「……やります。一節魔法──ファイア!!!!」
──魔法は……起動しない。
「ファイア、ファイア、ファイア、ファイ……ア!」
──何度も……何度も魔法を唱える。
それでも、魔法は使えない。
「あいつ、魔法も使えないのに入試試験受けに来たのかよ!」
会場全体が、ロゼを嘲笑った。
──笑うな。
──ロゼを……笑うなよ。
こんなにロゼは泣きそうになっているのに、俺は何もしてやれない。
──人の努力を笑うんじゃねぇ。
──ロゼのことなんか何も知らないくせに。
──魔法が使えないんじゃない。
──魔法のスケールが違うだけ。
なのにどうして、うちのロゼがバカにされなきゃならん。
本当の本当に……クソったれた世界だ。
「もう気が済みましたか?ロゼ・スカーレッド、あなたは不合……」
「ちょっと待ちなさい試験官」
「あなたは……ミレイ副校長!?」
「校長がこの娘に話しがあるそうです」
間一髪のタイミングだった。
危うく不合格を告げられそうで焦った。
ロゼのメンタルも持ちそうじゃなかったし、丁度いい。
けど、なんか興味でも湧いたのだろうか。
すぐさま、校長もミレイ副校長に駆け寄ってきた。
エルムーア魔法学校校長、ガレック・クェーサー。
こいつがまぁ、いかつい。
顔に複数の傷。
白髪頭の短髪。
サングラス着用。
校長らしい、威厳のある軍服。
筋肉質で長身。
これは、校長というよりヤクザの組長だった。
そして、副校長ミレイ・マース。
金髪でモデルのような体型。
こちらも、長身。
メガネをかけた、超がつくほどの美人だ。
どっかの会社役員の秘書って感じ。
そんな凄そうなのが、揃いも揃ってなんの用だ。
ちょっと、身構えてしまう。
校長ガレックが、ミレイに耳打ちを始めた。
「初めまして、ロゼ・スカーレッドさん」
「は……初めまして!」
「校長は、あなたの肩に触れたいと言っています」
「か……肩……ですか?」
こいつも変態かよー!
なんで幼女の肩なんか触りたいんだよ。
てか自分で言えよ。
こんなお願いされてミレイさんも困るだろ。
「大丈夫です……ドンときて下さい!」
ここで校長がまたミレイに耳打ち。
「校長は、では遠慮なくと言っています」
校長がロゼの肩に触れた。
校長の顔色が変わったような……気のせいか。
数秒かかった後、校長がまたミレイに耳打ち。
「校長権限により、ロゼ・スカーレッドを実技合格とします」
──俺とロゼ、大歓喜!!!!
──会場は大ブーイング発生中!!!!
何が起こってんだか、とりあえずはラッキーだ。
バカにしたやつら、ざまぁみろ。
次は……面接か。
心して挑まなくてはならない。
二人で喜びを分かち合うのも束の間、また校長がミレイに耳打ち。
「校長があなたの面接は私自ら行いますと言っています。落ち着いたら校長室に来て下さい」
それだけの言葉を残して、校長とミレイは去っていった。
校長直々ってすんげぇーな。
あのクラスになると、ロゼの秀でた才能を一瞬で見抜けてしまうのもなのか。
「うぉー、なんか受かりましたぁー!」
「やったなロゼ……おじさん泣いちまったぜ」
「けど、なんで受かったんだろ」
「それだよな。ホント分からん。なんか裏がありそうだよな」
「心配だなぁ……」
「いや、俺がいるぞ。心配しなくていい」
「なにか起こったら助けてね?」
「当たり前さ。もう落ち着いたか?そろそろ校長室に行こうぜ」
「うん、行こうツエさん」
最悪の状況になったら、俺が考えた言葉をそのままロゼに喋ってもらう。
これで誤魔化しも効くだろう。
この勝負は貰った!
作戦を練りながら、校長室の扉まで到着。
数回ノックした後、室内に入る。
ミレイ副校長にソファに腰掛けるよう促され、そのまま座る。
俺はソファの縁に立て掛けられた。
校長が面接すると言ったが、今回は校長含め三人で面接をするらしい。
あと一人、まだ到着していない。
「ごめーん、お待たせぇー!遅刻したわぁ〜」
「遅いですよルート先生。何してたんですか?」
「なんだミレイか。あはは、生徒をナンパしてましたぁ〜」
「気持ち悪いですねルート先生」
「あれ、噴水前で出会った銀髪少女じゃん。まさか面接まですることになるなんてね。さぁ、問いの続きだ。君のパンツは……何色だい?」
「セクハラですよルート先生。殺しますよルート先生。クビにしますよルート先生」
「まぁミレイちゃんそんな怒んなってぇ〜」
──試験前に出会った変態の姿がそこにいた。
この試験、終わったかもしれん。
唯一の希望、唯一のマトモ人。
副校長ミレイ先生に全てをかけることにした。
「では、ロゼ・スカーレッドさん面接を行います」
「よろしくお願いします!」
「これから校長が喋りますから、必ず真剣に応答して下さいね。くれぐれも……真剣に!」
気難しい人なんだろか。
見た目はそうだけど、あの変態が来ても怒りもせず、顔色一つ変わらないのも気になる。
一癖も二癖もある。
本当に厄介なのは、校長かもしれない。
「ロゼくんでちゅね。前はどこの学校に居たのでちゅか?」
「は……はい!?」
「以前は、どこの学校に在学していたのかと校長は言っています」
いや、通訳要らねーし。
別に聞こえなかった訳じゃないし。
そのなりでなんで、語尾がでちゅなんだよ。
ふざけているのは校長じゃないか。
「……ゾルアート校でちゅ。追放されたのでここの試験を受けに来たんでちゅ」
ロゼにも移ったじゃん。
伝染病かよ。
僕もそんなだと困るでちゅ。
いかん、移った。
「才能がないと言われたでちゅ?」
「はい、はっきりと」
「そうでちゅか。ゾルアートも見る目が無いでちゅね。はっきり言って、君には才能があるでちゅ」
「ホントですか!?」
「魔力適性の話しからするでちゅ。君は七属性に適性が有りまちゅ。つまり全属性適合者……人類初でちゅ」
「は?おいおい嘘だろ!?」
「まさか、本当に全属性の魔法使いが現れるなんて……」
「どういうことですか!?なんでそんなことが分かるんです?」
「校長は……触れた人の魔法適性を見抜く力があるのよロゼ・スカーレッドさん」
空いた口が塞がらん。
ロゼはとんでもなく凄かったらしい。
変態とミレイもあっ気に取られている。
言うことないじゃないか。
──ロゼは才能ゼロの無能なんかじゃない。
──天才だったんだ。
「次に魔力測定の話しでちゅ。君の魔力が強すぎて測定不能になったでちゅ。適性検査も同様、三属性までしか測れないから適性無し判断でちゅ」
「光栄でこざいます!でも私……魔法が使えなくって……」
「そうでちゅか。じゃあ、どうやってあの街一つ分に相当するミカゲの森を消滅させたんでちゅか?」
──アッカーン!!!!
──バレてるぅー!!!!
よりにもよって、もっともバレたらいけない奴にバレている。
ロゼの才能を認めるのは良い。
だけど、そればかりを許容するのは良くない。
これは、面接なんて甘っちょろいものじゃい。
ただの尋問だ。
核心を突かれ、ロゼが俺に助言を聞く。
「ツエさんどうしよう……。もうバレてます……」
「よし!知らないって言い張れ。まだ、カマをかけてるだけかもしれん」
「分かりました。私は何も知らない……そのつもりで校長先生と話してみます」
ロゼの奇妙な行動に、ガレック校長が更に不審がる。
なんとか誤魔化してほしい。
自白だけは、避けたいところ。
こんなところで、ロゼの入学がパァになっては困るんだ。
「何をしているんでちゅ。どうなんでちゅか?」
「アタシ……ナニモ……シラナイ。アタシ……ナニモ……ウソ……ツカナイ」
信じられないぐらい嘘が下手だった。
感情を知らないロボットだって、もう少しマシな嘘を吐く。
素直なことは、とても素晴らしい。
ロゼには、そう育って欲しいと俺は思う。
だけど、今じゃない。
時には嘘を吐くことも。
誰かを騙すことも。
どちらも大切なんだぞと、教えておくべきだった。
時は……既に遅かった。
「嘘なのは分かっていまちゅ。安心するでちゅ。別に処罰しようなんて考えてないでちゅ」
「そうですよ。危うく、エルムーアに魔属が侵入するところだったんです。死者が出る被害になっていたでしょう」
「ミレイの言う通りでちゅ。強大な魔物の反応が一瞬の爆発で消滅……。ロゼくん、あなたは爆裂魔法を使ったのではありませんでちゅか?」
「全部……白状します。私の魔法で森ごとスカルデーモンを吹き飛ばしました。この魔法しか使えませんから……」
「確かに……試験で爆裂魔法なんて使っていたら、ワタシがロゼくんを殺すしかなくなるでちゅ」
「私が敵だと……思わなかったんですか?」
「敵ならあの場で爆裂魔法を放っているでちゅ。ロゼ・スカーレッド、優しい娘でちゅね」
校長に悪意があった訳じゃない。
最終確認。
我が国の敵でないこと。
結果的に、この都市を救っていたこと。
ロゼの才能を見込まれていること。
正直言って、殺されるのかと思った。
「全ての敬意をはらって、ありがとうでちゅ。ロゼ・スカーレッドくん」
「なんとも光栄であります!」
「ちゃんとした面接が出来なくて済まなかったでちゅ。最後に一つだけよろしいでちゅか?」
やっと面接が終わるのか……。
この試験も短いようで長かった。
これが終わったら、しっかりとロゼを褒めてやろう。
「君は……どんな魔法使いになりたいでちゅか?」
「私は……世界一の魔法使いになります!!!!」
校長、ミレイ、変態がぽかーんっと口を開けて一瞬、時が止まる。
静寂の中、ガレック校長が豪快に高笑い。
馬鹿にしてる感じじゃなさそうだ。
この笑いになんの意味があるんだろう。
「失敬、悪い意味ではないでゅ。ロゼくんなら、なれるでちゅよ。世界一の魔法使いに!」
「はい……ありがとうございます!」
「これより、ロゼ・スカーレッドの試験を全て終了とするでちゅ。結果は──合格。明日から我が校で魔法を学びなさいでちゅ」
「いやったァァァァ!!!!」
「どこの学校もそうだけど、貴族がすんごくウザいから覚悟してねロゼさん」
「大丈夫です、ちゃんと友達になります!」
「たくさんお勉強して、正しい魔法使いになるのでちゅよ。そして、これからロゼくんの寮を用意するでちゅ。今日からそこで住むんでちゅ」
「試験……ありがとうございました。私は、このエルムーアで頑張ります!」
──無事、合格した。
──ラッキーもあったけどまずまずだろう。
緊張もしただろう。
試験で馬鹿にされて悔しかっただろう。
ロゼをちゃんと認めてくれる先生に出会えただろう。
これも成長へのひとまずの一歩だ。
良く頑張ったなロゼ。
寮に帰ったら話したいことなんか山ほどある。
さっさと帰って、今日の話し、明日の話しをロゼとしよう。
ロゼは深々と頭を下げて、校長室を後にした。
「帰りましたね。期待の魔法使いが……」
「実に面白かったでちゅ」
「面白いのはオメーだよ校長。でちゅまちゅ言うのやめて下さいよキモイので」
「キモイのはあんたよルート。校長は少しキモイだけ」
「ワタシの悪口は止めるでちゅ。ですが……ロゼくんはなれると思いまちゅか?」
「世界一の魔法使い……過去に一人、同じことを言ったやつがいますね」
「やめろよ、そんな昔な話し……」
「あら?あなたは本当になったじゃない。世界一の魔法使い──破壊の魔術師のルート先生……」
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