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ここは昼下がりの池のある公園です。
その年の一番暑い日、池のそばの売店で売られていたソフトクリームは、初めてコーンに乗せられお客さんに、食べられるというソフトクリームにとって、一番に幸せな日を迎えられるはずでした。
けれどいざお客さんに渡される時、突然強い光に包まれ大きくなってしまったのです。
『あれ?ぼくはどうなっちゃんだろう?なんだかさっきより空がとっても近いや。』
そんなことを考えていると下の方から店員のお兄さんの声がします。
きっとお店の中からでてきたのでしょう。
「お客さん。あれ?お客さんどこいったんですか?どこに行ったんだろう?あんなに大きな人見失うはずないのに。」
店員のお兄さんがお客さんを探して辺りを見わたすと、黄色いざらざらとした逆三角形の物体にぶつかりました。
「こっ、こればコーン。って、ことはもしかして、これはうちのソフトクリームなのか!!どうしよう。なんでこんなに大きく……とりあえずどこかに隠さないと。」
『お兄さん。』
「もしかしてしゃべっているのは君かい?」
お兄さんが巨大なソフトクリームを見上げると、聞いたことがない甘いような不思議な声が返ってきました。
『うん。どうやらぼく、ふしぎな光に当たったおかげでしゃべれるようになったみたい。』
「そうなのか、どうしてこうなったのか心当たりはないかい?」
『そんなのないよ。』
「そうか……」
「まいったな。喋るなんて。よしこうなったら!」
一度店の奥に引っ込んだお兄さんが手に持っていたのはガスバーナーでした。
『ちょ、ちょっと、お兄さんそれどうするの?』
「どうするって、溶かすんだよ。」
『溶かすってどうして?』
「はいはい。理由は二つですよ。まず一つ目、それは今日が暑い日だから。君が溶けて道行く人にかかって迷惑かけちゃうってことと、二つ目は簡単。それは愛です。ほら喋ってると、余計に食べずらいんだよ……愛着とかわいちゃってね。」
その言葉はソフトクリームの心に深く深くひびきわたりました。
とてもさっきまで同じ物にガスバーナーを、向けていた人のセリフだとは思えません。
『お兄さん。』
「まあどうしようもなくなったら最後には、」
『さいごには?』
「池に落とすしかないけど。」
『おにーさぁーん。』
お兄さんはカチンと固まったソフトクリームを見て、
「よしこれでもうしばらく持ちこたえられるぞ」と言います。
ソフトクリームは心の中で、
「お兄さん。それわざとなの!?」と強く思いました。
「それにしてもどうしよう。この巨大ソフトクリーム。」
『うううううううう。』
巨大ソフトクリームの周りにはいつの間にか人だかりができ写真撮影会が始まっています。
「早く何とかしないと大変なことになるぞ!もしもの時は本当に……」
『うわーん。』
「そんなことしなくて大丈夫!なぜならおれ達、アイスクリーム同好会がすべて食べてあげるから!!」
突然聞こえてきた声の方を見ると、西洋の貴族のかっこうをした三人組が、自前のライトを浴びポーズを決めて、立っていました。
見るからに怪しく、暑苦しい三人組は周囲から浮きまくっています。
「まぁ色々と聞きたいことはあるんですけど、暑くないですかそのかっこう?」
お兄さんの質問に答えたのは両端の二人でした。
「ぶっちゃけ、ユニフォームだから着てるだけなんだな。」
「そうそう。おまけの会長のかばっちり金かけてる。って、感じなのに、俺たちのはTシャツに絵が描いてあるだけだしな。この差どうにかしてほしいよな。」
「お前たちそうな風に思ってたのか!?」
ショックでうなだれている会長を無視して、無邪気なソフトクリームはうれしそうにたずねます。
『ねえ、本当にぼくを食べてくれるの?』
「!!」
一瞬の内に立ち直った会長は、おおいばりで宣言しました。
「あーあ、われわれが見事に全部食べきって見せよう!!」
「まあ食べるのは、会長だけじゃないしな。」
「そうなんだな。みんなで食べるとすぐに無くなるんだな。」
「さあ、二人とも突撃だ!」
立ち直りの早い会長は、巨大なソフトクリームに飛びつきます。
あーあ、なんて幸せな日なのでしょう!会長の小さい頃からの夢は自分のせよりも、大きなソフトクリームを食べる事なのでした。
その夢が今日叶うだなんて。神様に感謝してもしきれません。
その数分後、ソフトクリーム同好会は、大きくふくれあがったお腹を、天に向けあおむけに倒れていました。
「もっ、もう無理だ。もう食べきれない。」
「頭はキーン、キーン、するし。」
「お腹はいっぱいだし、もう食べられないんだな。」
「こうなったら池に……」
『そんな』
そんな時です。空から大きな声が聞こえきたのです。
「あーあった。ここだ!」
「もしかしてあの時のお客さんですか?」
「えっ!あーあ、あの時のイケメンな店員さん。いやあ申し訳ない。あんたの店のソフトクリームが、美味しいって言うんで、ちょいとばかし買いにきてみれば、わしときたらうっかり買った物を忘れちゃって。まぁ買った時に、ちょいとばかし細工をさせてもらいましたけどね。ほぉら、普通サイズだとわしらにはちょっと小さいから。」
そう言って雲の切れ間から出てきた巨大な手は、巨大なソフトクリームを持ち、雲の向こうへと帰っていきました。
『ばいばい。』
ソフトクリームは、お兄さんに向かって言いました。
「ばいばい。」
お兄さんも返します。
またいつかふたりが出会えるときがきたら、お兄さんはソフトクリームにこういうでしょう。
「おかえり」と。
読んでいただきありがとうございます。これは何年も前に書いた作品になります。




