シリルの秘め事
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何故「シリル」は能力高いのに、あんな感じなのか?
昔の彼が今、明らかに。
僕の事を知っている人は少ないけれど、聞いた事があるという人は、結構多いんだ。
通称「姿のない魔術師」
一体、誰が言い出したの?
僕はこんなにも美しくて目立っていると言うのにさ‥。
でも僕は、利用できる物なら何でも使わせてもらっちゃうからね。そんな呼び名でも上手く活用すれば、大物の客が釣れるんだ。
皆んな、特別って気になるじゃない?
僕が特別に成ればなる程、特別な仕事や条件を持ってきてくれる。
僕はただの「シリル」なのにね。
闇の魔術を使う「気持ち悪い変わった子」なのに。
* * *
僕がまだ5歳くらいの頃だったかな?
元々、話すのも文字を書くのも早かった僕は、家庭教師を付けられて猛勉強させられていた。
周りの子より少し覚えが良くて、物事のルールを精密に把握出来たばかりに、母親が勘違いをしてしまったんだ‥。
シリルは天才だ。きっとこの国を背負い立つ人になるに違いないっ、て。
僕にとっては母の機嫌が取れるのは悪くなかったから、嫌々ながらも付き合ってあげていたんだ。
母の親族には元々王族だった女性もいるから、身分だけはあるのに碌な領地も持たないうちの様な貧乏貴族の生活が嫌だったのだろう。
母は、そこから抜け出そうと必死で僕に教育をした。遊ぶ時間なんて無いし、そもそも遊び方なんて分からない。
そんな幼い僕の体に、魔力が満ち溢れ始めた‥。
* * *
「大変ですっ!お坊っちゃまが居なくなりました!」
(僕はここにいるよ!あれ?何で僕は床で寝てるの?)
いつものように机に向かっていた筈なのに、気が付けば僕の視線はマーサの生成り色のソックスを見つめていた。
もしかしたら、勉強に疲れた僕は倒れてしまったのかな?!
「奥様っ!急にお坊っちゃまが消えてしまって!!」
僕がココに居るの分からないの?
まさか、小さな虫にでも変身してしまった?とか!
僕は助けて欲しくて声をかけるけど、母も教育係のマーサもキョロキョロするばかりで僕を見つけられないでいる。
「マーサ!ここだって!」
僕がそう言って必死に手を伸ばすと、体は水中から上がったように軽くなり、引き攣った顔をしたマーサと目があった。
その後、僕の視線が捉えたのは、血の気を失ったように真っ青な母の顔だった。
* * *
どうやら僕が知らずに使ってしまった影に入る術は、闇属性のものらしい。
非常に珍しく、謎の多い属性だ。
その為「不吉」と言われる事もあり、僕の属性が分かってからと言うもの、母は僕に貼り付けたような笑みしか見せなくなった。
人並外れた賢さと「不吉」な闇属性。
母は僕を恐れるようになったのだと、聡い僕は直ぐに理解した。
以降、母からの束縛が無くなり、これ幸いと自由時間を獲得した僕は、興味の赴くまま影に潜んで出掛ける事を繰り返したんだ。
机に座っているだけでは分からない世界を見てみたくてね。
*
ある時僕は、大きなお屋敷の庭で遊んでいる女の子を見つけたんだ。淡いブルーのドレスに絹糸のように艶やかなミルクティー色の髪。
どうしても声を掛けたくて堪らなかった‥。
僕はきっとこの子と仲良くなれる。
よく分からない確信が僕の行動を後押しした。
結果は‥、僕の思った通り上手くいったんだ。
僕は彼女を喜ばせるような楽しい話を出来たし、彼女も僕の金に輝く髪を綺麗だと言ってくれた。
別れ際に僕は彼女の手を握って「また来るね」と言い、頬にキスまでした‥。
僕の中では完璧な仲良しだ。
嬉しさで舞い上がりそうな心を押し込めながら、僕は帰る為に自分の影の中に、消えた。
‥‥聞きたく無い、聞かなければ良かった言葉を庭の草木の影の中から聞いたのは、その後だった。
「お母さまーっ!『気持ち悪い変わった子』が居ましたの!どこかに消えてしまいましたわっ」
僕の綺麗な心は砕けちゃったよね。
◇
『気持ち悪い変わった子』
その言葉は大人になっても、抜けない棘のように僕の心に刺さっている。
成長するにつれて、僕の姿は人目を惹きつけるような美しさになっていったし、昔のように部屋の隅で本を開いて居場所を得るような事もなくなった。
僕の能力と麗しさを見せれば、周りの人々は勝手に特別扱いしてくれるから。
でも、未だに他人との心の通じ合わせ方がよく分からない。
仲良しって何?
何があったら仲良しなの?
愛って何??
気持ちって変わるものでしょ?
そんな変わるかもしれない物の為に、態々、自分の心を開示して弱みをさらすなんて、馬鹿みたいな行為じゃないか?
そう、だから馬鹿みたいな事を迷わずやってのけるミツリちゃんは、少し信頼してる。
この女の子は、もしかしたら愛を教えてくれるかもしれない。そんな気がするんだ。
でも、ユーリが邪魔なんだよな。
僕より早く出会ったからって、「番人」だからって、いつもミツリちゃんの側に居て独り占めをするんだ。
ほんと、納得いかないよね‥。
僕の本気を全部ぶつけたらミツリちゃんは僕を選んでくれるのかなぁ?
うーん‥‥。
ミツリちゃんも研究馬鹿というか、成長の過程で情緒をどこかに置いてきちゃってるからね。
僕らは似た物同士ということかな?
とりあえずミツリちゃんへの興味はまだ尽きないから、僕と一緒に色んな事を経験してもらおうと思ってる。
一緒に料理も作ったし、旅行とか行けたらきっと楽しいよね。
僕たちは、分かり合えるし上手くいくと思うんだ。
ーーそう、ユーリさえいなきゃ、ね。
次はどうやって、ユーリを困らせようかなぁ‥。
◇◇◇
エピソード「シリル サイド」でした。